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第四章 アルティメット編開始
第693話 魔術師リアムのアルティメット編・祐介宅でのヒールライト
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祐介にこれ以上迷惑をかける訳にはならない。
なので、リアムは祐介に言われた通り、素直に唱えた。
「ヒールライト!」
緑色の粒子が周囲に現れ、リアムの身体の中へと染み込んでいった。膝の傷口が、見ている内に肉が盛り上がって塞がっていく。
「もう一度洗うよ」
祐介が再度シャワーを出し、膝に残っていた血を洗い流してくれた。まだ皮膚の色は赤みを帯びているが、傷はしっかりと塞がった様だ。反対側の膝の傷もなくなっており、手のひらの擦り傷もなくなった。魔力が少ない上に適正がないこちらの世界のリアムでも、この程度の傷であればヒールライト一回分で回復が可能ということだ。祐介の傷の具合は分からぬままヒールライトを唱えてしまったので、これで大体効力が把握出来た。
再びぽんぽんとタオルで拭いてくれた祐介が、リアムに手を貸して立ち上がらせる。
「ごはん、作るから」
「……うむ」
「お風呂入っておいでよ。ドライヤーはしてあげるから」
「いや、でも」
すると、祐介が少し寂しそうな笑顔を見せた。
「今日は頭の匂いは嗅がないから。だって乾かすの苦手でしょ?」
「……分かった」
祐介が台所に戻って行ったので、リアムはソファーベッドに登ると、転移魔法陣を通って家へと戻った。ぽん、と自宅のベッドの上に飛び降りると、その場にへたへたと座り込み、頭を抱える。
「これでは、全然駄目ではないか……」
折角離れようとしているのに、祐介はどうもリアムが離れようとしているのを一時の気の迷い程度にしか捉えていない様に見受けられた。いつもの様にリアムが怒って、それを宥めていればすぐに機嫌を直すだろうと。
これはそういう問題ではないと分かっていないのか、あれだけはっきりと伝えたのに追いかけて来、その上怪我や食事やドライヤーの心配までしてくるのだ。これでは普段と何も変わらぬ。
そして、何も出来ないと思われている自分に嫌気が差した。事実だったからだ。食事の確保もままならない魔術士など、三流である。
リアムは大きな溜息を一つつくと、のそのそと立ち上がって風呂の支度を始めた。とにかく今日はもうこれ以上祐介も触れてこないと宣言している以上は、本当に何もないだろう。
服を脱ぎ、シャワーのお湯を出す。リアムはそれを頭から被ると、目を瞑った。
明日からは、通勤も別々にしようと言おう。朝食も別だ。勿論昼飯もだ。夜は、とりあえずはコンビニで何かを買ってくれば何とでもなる。お金はかかるだろうが、致し方のないことだ。背に腹は代えられぬ。
そうやって、少しずつ離れていくのだ。離れているのが当たり前になれば、祐介も不必要にリアムを構うことはなくなるに違いない。そうしたら、きっとリアムも忘れられる。この気が狂いそうにな焦がれる気持ちも、きっと。
リアムは少し急ぎめで風呂から上がって支度を終えると、再び転移魔法陣の前に立った。この向こうに祐介がいる。こんなにも会いたいと思う自分は馬鹿だ。
リアムは目を瞑って、転移魔法陣を通った。
ぽん、とソファーの上に落ちる感触。リアムがゆっくりと目を開けると、テーブルに取皿を並べていた祐介がこちらを見て微笑んでいだ。
「先に髪の毛を乾かそうか。じゃあそこ座って」
「……うむ」
リアムがソファーベッドのへりに座ると、祐介がドライヤーを持ってくると乾かし始めた。
「あのさ、さっき佐川から電話があって」
「佐川さんが?」
「うん。明日の夜、プロジェクト解散の飲み会をするから全員参加で、だって」
少し面倒くさそうな表情を浮かべ、そう言った祐介であった。
なので、リアムは祐介に言われた通り、素直に唱えた。
「ヒールライト!」
緑色の粒子が周囲に現れ、リアムの身体の中へと染み込んでいった。膝の傷口が、見ている内に肉が盛り上がって塞がっていく。
「もう一度洗うよ」
祐介が再度シャワーを出し、膝に残っていた血を洗い流してくれた。まだ皮膚の色は赤みを帯びているが、傷はしっかりと塞がった様だ。反対側の膝の傷もなくなっており、手のひらの擦り傷もなくなった。魔力が少ない上に適正がないこちらの世界のリアムでも、この程度の傷であればヒールライト一回分で回復が可能ということだ。祐介の傷の具合は分からぬままヒールライトを唱えてしまったので、これで大体効力が把握出来た。
再びぽんぽんとタオルで拭いてくれた祐介が、リアムに手を貸して立ち上がらせる。
「ごはん、作るから」
「……うむ」
「お風呂入っておいでよ。ドライヤーはしてあげるから」
「いや、でも」
すると、祐介が少し寂しそうな笑顔を見せた。
「今日は頭の匂いは嗅がないから。だって乾かすの苦手でしょ?」
「……分かった」
祐介が台所に戻って行ったので、リアムはソファーベッドに登ると、転移魔法陣を通って家へと戻った。ぽん、と自宅のベッドの上に飛び降りると、その場にへたへたと座り込み、頭を抱える。
「これでは、全然駄目ではないか……」
折角離れようとしているのに、祐介はどうもリアムが離れようとしているのを一時の気の迷い程度にしか捉えていない様に見受けられた。いつもの様にリアムが怒って、それを宥めていればすぐに機嫌を直すだろうと。
これはそういう問題ではないと分かっていないのか、あれだけはっきりと伝えたのに追いかけて来、その上怪我や食事やドライヤーの心配までしてくるのだ。これでは普段と何も変わらぬ。
そして、何も出来ないと思われている自分に嫌気が差した。事実だったからだ。食事の確保もままならない魔術士など、三流である。
リアムは大きな溜息を一つつくと、のそのそと立ち上がって風呂の支度を始めた。とにかく今日はもうこれ以上祐介も触れてこないと宣言している以上は、本当に何もないだろう。
服を脱ぎ、シャワーのお湯を出す。リアムはそれを頭から被ると、目を瞑った。
明日からは、通勤も別々にしようと言おう。朝食も別だ。勿論昼飯もだ。夜は、とりあえずはコンビニで何かを買ってくれば何とでもなる。お金はかかるだろうが、致し方のないことだ。背に腹は代えられぬ。
そうやって、少しずつ離れていくのだ。離れているのが当たり前になれば、祐介も不必要にリアムを構うことはなくなるに違いない。そうしたら、きっとリアムも忘れられる。この気が狂いそうにな焦がれる気持ちも、きっと。
リアムは少し急ぎめで風呂から上がって支度を終えると、再び転移魔法陣の前に立った。この向こうに祐介がいる。こんなにも会いたいと思う自分は馬鹿だ。
リアムは目を瞑って、転移魔法陣を通った。
ぽん、とソファーの上に落ちる感触。リアムがゆっくりと目を開けると、テーブルに取皿を並べていた祐介がこちらを見て微笑んでいだ。
「先に髪の毛を乾かそうか。じゃあそこ座って」
「……うむ」
リアムがソファーベッドのへりに座ると、祐介がドライヤーを持ってくると乾かし始めた。
「あのさ、さっき佐川から電話があって」
「佐川さんが?」
「うん。明日の夜、プロジェクト解散の飲み会をするから全員参加で、だって」
少し面倒くさそうな表情を浮かべ、そう言った祐介であった。
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