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第四章 アルティメット編開始

第690話 OLサツキのアルティメット編のマグノリア邸・二人の夜は更ける

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 もう、疲れ果てた。

 サツキが心底疲れ切ってぐったりしていると、同じく疲れた顔なのにまだ頬を紅潮させていたユラが、腕枕をしているサツキの頭を引き寄せた。

 リアムの家のソファーはそこそこ奥行きがあるはあるが、二人が横になって寝るには狭く、ギリギリだ。

 ユラが言った。

「寝ようか」

 ユラは徹夜でダンジョンを降りて行き、そのままボス戦に突入している。しかも帰還後はジュリアンと報酬の交渉で激しい攻防戦を見せた。それから風呂にご飯に、最後にこれだ。ヒールライトをガンガンかけているのでハイになっているだけで、多分これは一回寝たら暫く起きない様な気がした。

「うん」

 サツキが小さく答えると、ユラの口がにっこりと笑った。ユラの垂れた金髪がサツキの頬をくすぐる。暫くそうしてじっとしていると、やがてユラのスー、という寝息が聞こえ始めた。

 あっという間に寝てしまった。

 そしてがっちりとサツキの頭を腕で抱え込んだままだ。ユラの眠りの深さは相当なものがあるから、これはもう諦めて頭にプロレス技を掛けられている様な状態のまま寝るしかないだろう。

 サツキも目を閉じた。でも、すぐには寝られそうにない。まだ心臓がドキドキしていて、ああ本当にユラに抱かれたのだという空に飛んでいきそうな気持ちと、この先どうなるんだろうというモヤモヤとした不安な気持ちが入り混じっている。

 そして、横に置いておいた疑問がむくりと起き上がってきた。

 ユラはアールのことは好きでもなんでもなかった。つまり、先生役をアールからユラに変更したのは、ただ単にサツキが困っていたから買って出たのだろう。ユラは普段は冷たいことをすぐ言ったりするが、サツキは知っていたから。

 この世界に来たばかりの時、死者蘇生をリアムに施してサツキが目を覚ますと、ユラは泣いていた。泣いて喜びながら謝っていた。

 見た目がクールビューティーで言い方がストレートだから誤解されがちだけど、この人は物凄く真っ直ぐで優しくて温かい人なのだ。

 だから、サツキを見放すことが出来なかった。今日起きたこの出来事も、もしかしたらユラなりにサツキを励まそうとした結果なのかもしれない。

 駄目じゃないぞと。お前だってちゃんと一人の人間なんだぞ、と。背中を縮こめて生きてきたサツキの背中を押してくれたのかもしれない。何故なら、ユラは優しいから。サツキをこの世界に留める碇だから。

 サツキは、その結論に達したことをまだユラに話していなかったことに気付いた。あれこれあり過ぎて、すっかり失念していたのだ。

 ユラはサツキの命を救ったばかりに、その繋がりとユラの人を見放さない性格の所為で、サツキを突き放さなかったのだ。

 そんなユラを、この後探しに行こうと思っていたカントの街に連れて行っては駄目な気がした。

 あそこにはユラの実家がある。ユラはそこからわざわざ逃げてきたのだ。それを、サツキを助けたばかりに出来てしまった碇という縁の為に、ユラを振り回すのか。

 ヘッドロックされている状態からは、ユラの口元しか顔は見えない。形のいい口が少し開いていて、そこから穏やかな寝息が出入りしているのが見えた。

 サツキは一つの決意を胸に、目を瞑った。
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