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第四章 アルティメット編開始
第645話 魔術師リアムのアルティメット編・病院ニ日目のユメと合流
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リアムと祐介が汗だくになって病院に到着すると、ロビーでユメが涼しげな様子でお茶を腰に手を当てて飲んでいた。
今日も普段の会社仕様とは違い、Tシャツにジーンズという出で立ちである。眼鏡をしているのは、普段はコンタクトレンズなる眼球に直接貼るという何とも恐ろしげな眼鏡を着用しているのでは、とは祐介の見解だ。
「ユメ」
リアムが軽く手を上げて挨拶をすると、ユメがリアムを見て嬉しそうに駆け寄ってきた。そして目の前に来ると、リアムの手を祐介から奪い、ブンブンと上下に振り始めた。祐介のこめかみがピクリと動いた気がしたが、ここは見るまい。
「リアム、聞いて! 昨日ね、マサが私の声にちょっと反応した気がするのよ!」
ユメのその嬉しそうな様子に、リアムも思わず笑顔になった。
「本当か? 目覚めも近いということかもしれんな」
「でしょ!? 昨日電話しようかとも思ったんだけど、でも目が覚めた訳じゃないし、ショウちゃんに何て言っていいかも分からないし、だからもう昨日からこんな感じよ!」
つまり、ずっと興奮状態だということだ。
「今日もね、何だか昨日リアムが来る前よりも、顔色がいい気がするのよ!」
「そうかそうか、では少しずつではあるが効いているということかもしれんな」
リアムは笑顔のままそうユメに言うと、ユメは嬉しそうに「ついてきて!」と前を歩き出した。リアムが後ろを苦笑しつつ歩き始めると、祐介が奪われた手を握り直し、リアムの耳元で囁いた。
「あのさ、こういうこと言うのはあれだけど。あんまり期待させてると、早川さんの願望でそう見えてるってだけかもしれないし」
「分かっている」
リアムも小声で答えた。
「思い込みでそう見えてしまうことはあるだろう。特にユメの場合は、もう三年だ。三年停滞していたものが、前に進めるかもしれぬと夢を見せたのは私だからな」
ユメがそう思いたくてそう見えている、という可能性は十分にある。だが。
「でもな、祐介。女性というのは、時に恐ろしい程些細な違いに気付くことがあると私は思う」
リアムは、決して親に可愛がられた訳ではない。だが、少し疲れた、ちょっと食欲がない、寝付きが悪い。たったそれだけのことでも、母親はすぐに気が付いた。決して優しいだけの言葉ではなかったが、あんまり無理すると後に響くと言っては早目に休ませてくれたり、弟達がいない時に貴重な果物を一口くれたりしたこともあった。
すると、祐介が言った。
「あー、それは確かにあるかも。郁姉とかもさ、僕が泣くギリギリのところになると、顔に出してなくても気付くっていうかさ」
「であろう? だから、母親代わりとしてマサくんに接してきたユメは、その些細な違いにも気付くのではないかと思う」
「……そっか」
祐介はそう言って微笑んだ。祐介はユメには手厳しいが、ちゃんとこうやって彼女を傷付けない様な心遣いも見せる。多分、それはリアムの為にも。
「ありがとう、祐介」
「別に何もしてないよ」
「ふふ、お前はいつもそうだ」
「なにそれ」
「ほら、エレベーターでユメが待っておるぞ」
「はいはい」
ユメがエレベーターの中に入りボタンを押して待っている。
もしかしたら、今日目覚めるかもしれない。そんな期待に満ちた目をしていた。
今日も普段の会社仕様とは違い、Tシャツにジーンズという出で立ちである。眼鏡をしているのは、普段はコンタクトレンズなる眼球に直接貼るという何とも恐ろしげな眼鏡を着用しているのでは、とは祐介の見解だ。
「ユメ」
リアムが軽く手を上げて挨拶をすると、ユメがリアムを見て嬉しそうに駆け寄ってきた。そして目の前に来ると、リアムの手を祐介から奪い、ブンブンと上下に振り始めた。祐介のこめかみがピクリと動いた気がしたが、ここは見るまい。
「リアム、聞いて! 昨日ね、マサが私の声にちょっと反応した気がするのよ!」
ユメのその嬉しそうな様子に、リアムも思わず笑顔になった。
「本当か? 目覚めも近いということかもしれんな」
「でしょ!? 昨日電話しようかとも思ったんだけど、でも目が覚めた訳じゃないし、ショウちゃんに何て言っていいかも分からないし、だからもう昨日からこんな感じよ!」
つまり、ずっと興奮状態だということだ。
「今日もね、何だか昨日リアムが来る前よりも、顔色がいい気がするのよ!」
「そうかそうか、では少しずつではあるが効いているということかもしれんな」
リアムは笑顔のままそうユメに言うと、ユメは嬉しそうに「ついてきて!」と前を歩き出した。リアムが後ろを苦笑しつつ歩き始めると、祐介が奪われた手を握り直し、リアムの耳元で囁いた。
「あのさ、こういうこと言うのはあれだけど。あんまり期待させてると、早川さんの願望でそう見えてるってだけかもしれないし」
「分かっている」
リアムも小声で答えた。
「思い込みでそう見えてしまうことはあるだろう。特にユメの場合は、もう三年だ。三年停滞していたものが、前に進めるかもしれぬと夢を見せたのは私だからな」
ユメがそう思いたくてそう見えている、という可能性は十分にある。だが。
「でもな、祐介。女性というのは、時に恐ろしい程些細な違いに気付くことがあると私は思う」
リアムは、決して親に可愛がられた訳ではない。だが、少し疲れた、ちょっと食欲がない、寝付きが悪い。たったそれだけのことでも、母親はすぐに気が付いた。決して優しいだけの言葉ではなかったが、あんまり無理すると後に響くと言っては早目に休ませてくれたり、弟達がいない時に貴重な果物を一口くれたりしたこともあった。
すると、祐介が言った。
「あー、それは確かにあるかも。郁姉とかもさ、僕が泣くギリギリのところになると、顔に出してなくても気付くっていうかさ」
「であろう? だから、母親代わりとしてマサくんに接してきたユメは、その些細な違いにも気付くのではないかと思う」
「……そっか」
祐介はそう言って微笑んだ。祐介はユメには手厳しいが、ちゃんとこうやって彼女を傷付けない様な心遣いも見せる。多分、それはリアムの為にも。
「ありがとう、祐介」
「別に何もしてないよ」
「ふふ、お前はいつもそうだ」
「なにそれ」
「ほら、エレベーターでユメが待っておるぞ」
「はいはい」
ユメがエレベーターの中に入りボタンを押して待っている。
もしかしたら、今日目覚めるかもしれない。そんな期待に満ちた目をしていた。
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