上 下
644 / 731
第四章 アルティメット編開始

第642話 OLサツキのアルティメット編・フレイのダンジョンのフレイムドラゴン戦後半の続き

しおりを挟む
 どんどん減っていく自身の魔力を感じ取り、サツキは焦っていた。ドラゴンの体内の溶岩はほぼ尽きかけてはいたが、まだなくなってはいない。今ここで先にサツキの魔力の方が尽きて倒れてしまったら、確実に死ぬ。

 さっきまでユラを死なせたくないと必死で自分にドラゴンの注意を引きつけたのに、急に怖くなった。死ぬのが、じゃない。

 ユラに会えなくなるのが。

 サツキは少しだけ魔力の放出を抑えた。すると案の定、雪崩の壁が少しずつ押し返されてきてしまった。焦りがサツキを襲う。

 お願い、って。もう一度だけでいい、ユラに触れたい。焼かれて死んで元の世界に戻ってしまう前に、ユラに抱き締めてもらいたい。あの人の強引な腕の中に納まって、幸せに包まれたい。

 サツキの頬を、涙が伝った。どんどん押される。アールは無事だろうか? ユラは僧侶の適正はばっちりだけど、かなりボロボロの状態だった。彼にも魔力は残ってるんだろうか。須藤さんもいた筈だけど、無事だろうか。大好きなラムと、ようやく会えているだろうか。サツキがメルトを唱えた所為で、須藤さんにも大分迷惑をかけた。ごめんね須藤さん。

 もう、炎は目の前に迫っていた。身体の中の魔力は、もうほぼない。

 サツキは目の前に広がる炎を見つめた。熱いし、目の前が真っ赤で他に何も見えない。最後に全力で押し返して、その隙に横に逃げ切れないだろうか。でも、今全力を注ぎ込んだら、多分もう動けない。

 リアムは、これに焼かれて死んだんだ。

「……ラ」

 嗚咽が漏れ出た。

 助けて、助けて、助けて。

「――ユラ! ユラ!!」

 すると。

 ドオオオオンンッッ!! という轟音と共に、真っ白に輝く雷が嵐と共にドラゴンを襲った。それと同時に、サツキの魔力が全て尽きた。ふ、と意識が遠のいていく。

 ――たす、かった?

 あれは、もしかしてラムの魔法だろうか。まだ雷雨は続いている。凄い、凄いよラムちゃん。

 身体中の力が抜けていく。ダンジョンの天井が見える。赤い石が、雷を反射して輝いていて、いつかユラと見たマグノリアの星空みたいだと思った。

 すると、ガッとサツキを抱き止める手があった。今はリアムの身体だから、重いよ。そんなことを思う。誰かな。もう見えない。

「エレ・イリカ・ヴェール!!」

 呪文を唱える声が聞こえたかと思うと、口が塞がれた。

 サツキの目から、涙が次から次へと溢れ出る。ああ、だってこれは知ってる。サツキがよく知っている人の唇だから。身体にどんどん魔力が満ちてくるのが分かった。

 ぷは、と息継ぎをすると、その人は言った。

「少し貰うぞ! エレ・ドレイン!」

 そしてまた口づける。ぐん、とまた魔力が減るが、でも今度は最後までなくなりはしない。口が離れていった。

 サツキは目を開けた。雷はまだ続いている。目の前には、焦った顔のユラ。薄汚れているのに、やっぱり悔しいくらいのイケメンだ。

「――馬鹿サツキ」

 また言われた。でも今回は、サツキはボロボロと泣きながら頷いた。頷きながら、ユラの首に腕を回した。リアムの姿だって何だっていい。今すぐにユラを抱き締めたかった。

「バリアーラ」

 ユラがドラゴンの方向に手を翳し、防御魔法を唱えた。そして手を戻してサツキを支え直すと、言った。

「……エレ・イリカ・ヴェール」

 固く抱き合った二人は、ゆっくりと唇を合わせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

処理中です...