上 下
639 / 731
第四章 アルティメット編開始

第637話 魔術師リアムのアルティメット編・病院初日の午後終了へ

しおりを挟む
 リアムと祐介は、駅前のラーメン屋でラーメンを食べた。店の中は涼しかったが、汁まで啜ってぽかぽかになったリアムは、外に出て一瞬で汗をかき始めた。

「こんな時間に食べたら、夜ご飯は軽めにしないとね」

 祐介も暑そうにTシャツをパタパタしながら、そう言って笑った。すると、祐介のスマホが鳴り始めた。祐介が面倒臭そうにそれを尻ポケットから取り出す。そして思い切り顔を顰め、嫌そうに電話に出た。

「はい?」

 相手は男の様だ。何を言っているかまでは聞き取れないが、わーわー何かを言っているのは分かる。

「あー、うん、その件は月曜日でもいいかな」

 祐介はスマホから少し耳を離した。相手の声がうるさいらしい。というか、この態度に月曜日という言葉から、相手が佐川であることがリアムにも分かってしまった。曲がりなりにも同期入社であろうに、どうもこやつは佐川に対する扱いが雑である。

「こっちも色々あったの。説明はしたいけど、出来ない内容もあるから、その辺りも含めてちょっと検討させて」

 成程、早川ユメとの経過を聞きたいのだろうが、確かに弟の話とリアムの魔法の話は絶対に出来ない。今日明日にでも、どういう話にまとめるのかを検討する必要があろう。

「ていうか、デート中だから!」

 祐介はそうきっぱりと言うと、ブツッと通話を切ってしまった。

「これがいつからデートになったのだ?」
「今からだよ」

 祐介はそう言うと、リアムの手を取りスマホをいじり始めた。何を調べているかと思ったら、こんなことを言い始めた。

「科学博物館、今からでも行こうよ」
「行く!」

 幸い時間はまだある。リアムと祐介は、急ぎ向かったのだった。



 上野なる駅の近くにその国立科学博物館はあり、リアムは目を輝かせてそれを目一杯楽しんだ。途中リアムが夢中になり過ぎて一瞬迷子になりかけ、祐介が大慌てで探しに来たというおまけ付きのデートであった。

 今は帰りの電車内である。

「館内放送で呼び出してもらおうかと思ったよ」
「館内放送?」
「迷子の子の名前を呼んでもらうの」
「……祐介?」
「すみません」

 あはは、と祐介が笑った。昨日今日と、全体的に機嫌の悪かった祐介だったが、リアムと二人で外出している間は、非常ににこやかだった。確かに二人での外出はいい。普段の憂いも忘れられ、リアムも好奇心を満たすことが出来るし、何と言っても羽田の心配もなくただ祐介と楽しんでいられる。

「祐介、今日はありがとう」
「何、さっきからありがとうありがとうって」

 祐介はこそばゆそうに笑う。

「思ったから言っただけだ。思うに、私はこれまで祐介といることを当たり前に思い過ぎていたのだ」
「当たり前に思ってくれる位の方がいいんだけど」
「祐介は私を当たり前の様に保護してくれているが、これは余程のことなのだとようやく気が付いたのだ」
「そんな大げさな」
「祐介にとって、ここまで人と関わるのは珍しいことなのだろう?」
「……まあね」

 祐介の子供の頃の話や、職場での人間関係、ユメが話を聞いた彼女らしき女のこと。それら全てが、祐介が基本人と関わるのを忌避する人間だということを指している様に思えたのだ。

 リアムの面倒を見ているのは、恐らくはリアムを助けたことにより生まれた絆の所為であろう。とすると、本来の祐介はしないであろうことを強要していることになるのではないかと思った。

「だからありがとうなのだ、祐介」
「? よく分かんないけど、どう致しまして」

 祐介が、笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

処理中です...