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第四章 アルティメット編開始
第615話 魔術師リアムのアルティメット編・病院初日スタート
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リアムは、目覚まし時計の音で目を覚ました。まだ朝の六時だ。今日は早川ユメと待ち合わせをし、早川ユメの弟のマサくんに会いに行く予定ではあるが、それは午後を予定している。だから多分、祐介が癖で目覚まし時計を掛けてしまったのだろう。起きもしない癖に。
リアムはむくりと起き上がると、目覚まし時計を止めた。と、背後から腰に手を回され、布団に引き戻された。抱き寄せられたまま振り向くと、祐介が寝ぼけ眼でリアムを見ていた。これは多分、半分寝惚けているやつだ。
「……どこ行くの」
「目覚ましを止めていただけだ」
「やだ」
「やだ、ではなくな、祐介」
祐介はリアムを抱き枕の様にして逃さない体勢を取ると、すーっとまた寝てしまった。全くこやつは、である。リアムは観念してそのまま目を閉じた。
昨夜は、あの後は祐介の幼少期の話をたっぷりと聞くことが出来た。祐介の親が欲しがっていた念願の男の子が生まれ両親も長女も可愛がってくれたが、真ん中の娘である郁姉は事あるごとに祐介に悪戯をしかけて遊んでいたらしい。郁姉は祐介が使えると思ったのか、どこに行くにも連れ出したが、そのお陰で祐介は上級生女子に知り合いが多く、そこそこ可愛がってもらったそうだ。祐介の甘え上手は、どうもこの辺りの経験に由来している様だ。
家族は皆、祐介が郁姉に面倒を見てもらっていると勘違いしていたらしいが、あれは正真正銘のパシリだった、とは祐介の言葉だ。使いっぱしりの略の様である。つまりは子分だ。
まあ郁姉らしいといえばらしい。その頃からおしゃれに興味があった郁姉は、何を思ったのか祐介の服をどこかへと隠してしまい、代わりに自分のスカートを履けと迫ったことがあったそうだ。着る服もなく、泣く泣くそれを着用すると、出来上がったのは非常に愛らしい女の子の姿。郁姉はそれを見て大喜びし、それ以降、祐介がどんなに嫌がろうが、時折そうやって女の子の格好をさせられ、祐介が段々と成長し郁姉の服が入らなくなるまでそれは続いたという。難儀なことである。
というか、思い出のほぼ全てが郁姉にやられたこと話ばかりであった。それだけ強烈な経験だったのだろう。でもまあいざという時は真っ先に連絡を取り合う仲なので、祐介が本音を出せる数少ない人間なのだろうと思う。
リアムにも兄弟は山の様にいたが、きっともう今会ったとしても互いに分からないだろう。リアムはカッセの弟子をして名を馳せたからもしかしたら兄弟達はリアムの存在を把握しているかもしれないが、リアムの方はもう自分の村がどの辺りだったのかすらうろ覚えだ。
祐介の幼少期は、大変なことも勿論あっただろうが、周りに愛され可愛がられ、リアムから見たら幸せそのものに思えた。正直羨ましさもあるが、こればかりは生まれも育ちも違うから言っても詮無いことである。
でも、そんな祐介だからこそ、色々と面倒である筈のリアムの面倒を投げ出さずに見続けてくれるに違いない。そう思えば、郁姉には感謝しても仕切れない。そんなことを祐介に言ったら、嫌そうな顔をするであろうが。
リアムは目を開け、祐介の頬に手を伸ばした。エアコンの風の所為か、少しひんやりと冷たい。
ずっとこうしていられたらいいのに。
リアムはそう思いながら、暫くそうして祐介の寝顔を見つめていたのだった。
リアムはむくりと起き上がると、目覚まし時計を止めた。と、背後から腰に手を回され、布団に引き戻された。抱き寄せられたまま振り向くと、祐介が寝ぼけ眼でリアムを見ていた。これは多分、半分寝惚けているやつだ。
「……どこ行くの」
「目覚ましを止めていただけだ」
「やだ」
「やだ、ではなくな、祐介」
祐介はリアムを抱き枕の様にして逃さない体勢を取ると、すーっとまた寝てしまった。全くこやつは、である。リアムは観念してそのまま目を閉じた。
昨夜は、あの後は祐介の幼少期の話をたっぷりと聞くことが出来た。祐介の親が欲しがっていた念願の男の子が生まれ両親も長女も可愛がってくれたが、真ん中の娘である郁姉は事あるごとに祐介に悪戯をしかけて遊んでいたらしい。郁姉は祐介が使えると思ったのか、どこに行くにも連れ出したが、そのお陰で祐介は上級生女子に知り合いが多く、そこそこ可愛がってもらったそうだ。祐介の甘え上手は、どうもこの辺りの経験に由来している様だ。
家族は皆、祐介が郁姉に面倒を見てもらっていると勘違いしていたらしいが、あれは正真正銘のパシリだった、とは祐介の言葉だ。使いっぱしりの略の様である。つまりは子分だ。
まあ郁姉らしいといえばらしい。その頃からおしゃれに興味があった郁姉は、何を思ったのか祐介の服をどこかへと隠してしまい、代わりに自分のスカートを履けと迫ったことがあったそうだ。着る服もなく、泣く泣くそれを着用すると、出来上がったのは非常に愛らしい女の子の姿。郁姉はそれを見て大喜びし、それ以降、祐介がどんなに嫌がろうが、時折そうやって女の子の格好をさせられ、祐介が段々と成長し郁姉の服が入らなくなるまでそれは続いたという。難儀なことである。
というか、思い出のほぼ全てが郁姉にやられたこと話ばかりであった。それだけ強烈な経験だったのだろう。でもまあいざという時は真っ先に連絡を取り合う仲なので、祐介が本音を出せる数少ない人間なのだろうと思う。
リアムにも兄弟は山の様にいたが、きっともう今会ったとしても互いに分からないだろう。リアムはカッセの弟子をして名を馳せたからもしかしたら兄弟達はリアムの存在を把握しているかもしれないが、リアムの方はもう自分の村がどの辺りだったのかすらうろ覚えだ。
祐介の幼少期は、大変なことも勿論あっただろうが、周りに愛され可愛がられ、リアムから見たら幸せそのものに思えた。正直羨ましさもあるが、こればかりは生まれも育ちも違うから言っても詮無いことである。
でも、そんな祐介だからこそ、色々と面倒である筈のリアムの面倒を投げ出さずに見続けてくれるに違いない。そう思えば、郁姉には感謝しても仕切れない。そんなことを祐介に言ったら、嫌そうな顔をするであろうが。
リアムは目を開け、祐介の頬に手を伸ばした。エアコンの風の所為か、少しひんやりと冷たい。
ずっとこうしていられたらいいのに。
リアムはそう思いながら、暫くそうして祐介の寝顔を見つめていたのだった。
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