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第四章 アルティメット編開始
第602話 OLサツキのアルティメット編・フレイのダンジョンのパーティー分裂後
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力が、入らない。
寝ている訳ではない。皮膚の感覚は鈍くはあるがあるし、誰かが話している声も聞こえる。だけど、目が開かない。指を動かすことも出来ない。意識はあるのに、身体が寝ている様な感覚だった。
脳裏に、最後に目にした光景が蘇った。サツキの名を叫び続けていた、ユラの必死な表情。応えたかった。手を伸ばしたかった。でも、メルトを唱えた瞬間に魔力が一気に空になってしまい、ただ見ることしか出来なかったのだ。
メルトは上級魔法だ。ユラがそう言っていた。でもこの魔力の減り具合は、上級魔法一回分じゃなかった。リアムの得意とする魔法だから、だから全部流れていってしまったのだろうか。何も分からなかった。
誰かがサツキの手を握った。誰だろう。ユラじゃないのは分かった。ユラの手よりもゴツゴツしている。
「何だったっけ? ええと確か、『エレ・イリカ・ヴェール』……?」
不安げなその声には、聞き覚えがあった。アールだ。アール、無事だったんだ。よかった。そう思ったと同時に、繋がれた手からぐんぐん魔力が流れ込んでくる。
サツキはぱち、と目を開けた。
「サツキ!!」
思ったよりも近くにアールの顔があった。それもその筈、サツキは床に座るアールにお姫様抱っこをされ、その上で手を握られていたのだ。
「よかった! 須藤さんが回復してくれても全然目を覚まさないから、俺、俺……! うおおおっ!」
アールは男泣きに泣き始めてしまった。だけど、だからといってサツキの赤いローブで当たり前の様に涙を拭うのはやめて欲しい。
「俺、またリアムを殺したのかと思って、怖くて怖くて……!!」
文句を言おうとしたサツキだったが、えぐえぐ言いながらアールが言ったその言葉の重さに、サツキは文句を言うのはやめた。
アールを助ける為とはいえ、アールがメルトの呪文で地面に穴を開けるのを見たのは、これで二回目だ。
一回目は、アールの失態でリアムが仲間を助ける為に唱え、リアムが落ちてしまった。結果としてリアムはドラゴンに焼かれて死んだ。二回目の今回は、アールを助ける為に咄嗟に唱えてしまった。
アールは明るく振る舞ってはいたが、ずっと心のどこかに罪悪感を抱えていたのだ。先程の言葉で、それが分かってしまった。
「アール、アールの所為じゃないよ」
「でもっでも俺……!」
アールが泣き止まないので、サツキは先程咄嗟に考えたことを口にすることにした。
「ユラの死者蘇生があるからどうしようかとも思ったんだけど、あの高さから落ちたら潰れてばらばらになるかなと思ったの。身体がばらばらになったら、うまく戻れないかもって思っての判断だから、気にしないで」
「サツキ、言ってることが怖えよ」
「それに痛そうだったし」
「だから怖えって」
アールはそう言うと、ようやくあははっと笑った。
「……ありがとな、サツキ。俺の命を助けてくれて。俺のことも許してくれて」
「だって仲間でしょ?」
サツキがそう言って微笑むと、アールが力強く頷いてみせた。
「とにかく、早く合流しなくちゃだな!」
「うん、そうだね!」
サツキはそう言った後、辺りをぐるりと見回して、聞いた。先程までいたダンジョンとは、明らかに違う景色が広がっていたのだ。
「でも、ここどこ?」
アールはサツキの質問に対し、苦笑いして肩をすくめただけだった。
寝ている訳ではない。皮膚の感覚は鈍くはあるがあるし、誰かが話している声も聞こえる。だけど、目が開かない。指を動かすことも出来ない。意識はあるのに、身体が寝ている様な感覚だった。
脳裏に、最後に目にした光景が蘇った。サツキの名を叫び続けていた、ユラの必死な表情。応えたかった。手を伸ばしたかった。でも、メルトを唱えた瞬間に魔力が一気に空になってしまい、ただ見ることしか出来なかったのだ。
メルトは上級魔法だ。ユラがそう言っていた。でもこの魔力の減り具合は、上級魔法一回分じゃなかった。リアムの得意とする魔法だから、だから全部流れていってしまったのだろうか。何も分からなかった。
誰かがサツキの手を握った。誰だろう。ユラじゃないのは分かった。ユラの手よりもゴツゴツしている。
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「サツキ!!」
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「よかった! 須藤さんが回復してくれても全然目を覚まさないから、俺、俺……! うおおおっ!」
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「俺、またリアムを殺したのかと思って、怖くて怖くて……!!」
文句を言おうとしたサツキだったが、えぐえぐ言いながらアールが言ったその言葉の重さに、サツキは文句を言うのはやめた。
アールを助ける為とはいえ、アールがメルトの呪文で地面に穴を開けるのを見たのは、これで二回目だ。
一回目は、アールの失態でリアムが仲間を助ける為に唱え、リアムが落ちてしまった。結果としてリアムはドラゴンに焼かれて死んだ。二回目の今回は、アールを助ける為に咄嗟に唱えてしまった。
アールは明るく振る舞ってはいたが、ずっと心のどこかに罪悪感を抱えていたのだ。先程の言葉で、それが分かってしまった。
「アール、アールの所為じゃないよ」
「でもっでも俺……!」
アールが泣き止まないので、サツキは先程咄嗟に考えたことを口にすることにした。
「ユラの死者蘇生があるからどうしようかとも思ったんだけど、あの高さから落ちたら潰れてばらばらになるかなと思ったの。身体がばらばらになったら、うまく戻れないかもって思っての判断だから、気にしないで」
「サツキ、言ってることが怖えよ」
「それに痛そうだったし」
「だから怖えって」
アールはそう言うと、ようやくあははっと笑った。
「……ありがとな、サツキ。俺の命を助けてくれて。俺のことも許してくれて」
「だって仲間でしょ?」
サツキがそう言って微笑むと、アールが力強く頷いてみせた。
「とにかく、早く合流しなくちゃだな!」
「うん、そうだね!」
サツキはそう言った後、辺りをぐるりと見回して、聞いた。先程までいたダンジョンとは、明らかに違う景色が広がっていたのだ。
「でも、ここどこ?」
アールはサツキの質問に対し、苦笑いして肩をすくめただけだった。
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