上 下
592 / 731
第三章 上級編開始

第590話 OLサツキの上級編、フレイのダンジョン地下三十二階へ

しおりを挟む
 サツキの魔力が満タンになったところで、一行は地下三十二階への階段に向かった。

 階段に辿り着いたところで、アールが鼻をくんくんとさせた後、顔を歪ませた。

「何か、臭くね?」

 すると、サツキの横を歩いているラムが、思い切り嫌そうな顔をして、言った。

「これ、食べられてる匂い」

 ウルスラとアールが、バッとラムを振り返った。

「ラム、食べられてるって……どういうこと? 何? ちょっと何なに?」

 ウルスラが気持ち悪そうな顔になった。サツキはユラを見たが、ユラは肩を竦めただけだ。それを確認すると、サツキはラムに尋ねることにした。

「ラムちゃん、食べられてるものに匂いがあるって、どういうこと?」
「そのまんま。多分、あの蜘蛛が食べられてる最中」
「え……あんなにいっぱいいた蜘蛛を食べる程強いモンスターがいるってこと?」
「ラム分かんない」

 そうか、ラムは元々は初級ダンジョンのかなり上の方にいたモンスターだ。今は合体したりレベルアップしたりして段々強くはなったが、ダンジョンの下層のことについては知らないことの方が多いのかもしれない。

「とりあえず用心しろってことだな」

 ユラは真剣な眼差しでそう言うと、バリアーラを唱えた。そして、鞄の中を漁り、石をサツキに手渡した。魔力増強効果のある魔石だった。

「ユラ、これ今使っちゃ拙いんじゃないの?」

 確かこれはボス戦に取っておく予定だったんじゃなかったか。サツキがそう尋ねると、ユラは首を横に振った。

「読めねえんだ。だから、持ってて欲しい」

 これまでも複数のダンジョンを潜った経験のあるユラですら読めないことがあるのだ。読めない様なことが、今起こりつつあるのだ。その事実にサツキは気付くと、思わずぶるっと震えてしまった。

「悪い、脅すつもりじゃなかった」

 途端、済まなそうにユラが言うが、危険ならば言ってもらった方がいいに決まっている。だからサツキは敢えて笑顔を浮かべて言った。

「ううん、言ってくれてありがとう。今のは武者震いよ」
「……サツキ、俺から離れるなよ」
「うん、約束する」

 そう言って、ユラに心からの笑顔を見せた。もうユラにあんな表情はさせたくなかった。あんな悲痛な声を出させたくはなかった。だからサツキは、ユラの隣で戦うのだ。

「いい!? 行くわよ!」

 ウルスラが、緊張した声で皆に言った。

「おう」

 アールは剣の柄に手を添えた。

「サツキ」
「うん」

 サツキは手の中に魔石を掴んだまま、ユラの手を握った。これで魔石の力を二人で分け合える。

「須藤さんはラムと一緒に」

 アールの後ろを歩いていた須藤さんに、アールが指示を出す。須藤さんは慌ててラムの元に駆け寄ると、ラムは須藤さんと固く手を繋いだ。

 前衛二人が先に階段を降り切ると、ウルスラが口をぱっと手で押さえた。アールは、腕で鼻の下を押さえている。

「どうした?」

 ユラが声を掛けると、前衛の二人はチラリと後ろを振り返った後、即座に前に向き直ると剣をスラリと抜いた。

 ユラとサツキが階段を降り切ると、目に飛び込んできたのはとんでもない醜悪な光景だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

処理中です...