587 / 731
第三章 上級編開始
第585話 魔術師リアムの上級編・早川ユメ攻略四日目のユメの過去の続きその2
しおりを挟む
早川ユメの過去は壮絶だ。彼女は強い。でもきっと、始めは強くなかったのだ。食いしばり踏ん張って、そうして少しずつ強くなったのだろう。
「始めはまず借金返済しないとな、と思って頑張ったんだけど、なかなか返済出来なくてね。払ってやろうかなんていう人もたまにはいたけど、まだ踏み切れなくて。それでも何とかぎりぎりやってたけど、あの仕事をしてると日中は起きられなくて、マサにも会いに行けなくてね。何の為にこんなに頑張ってるんだろうって思ったことも正直何度かあったけど、でもここで私が挫けたら、マサが一人になっちゃうし。でもたまたまきついなって思ってた時期にあいつに捕まって、それで今に至る訳よ」
早川ユメは、そこまで語ると水をぐいっと飲んだ。
「まあ私も段々三十路が近付いてきてキャバクラもいつまでも続けられなかっただろうし、それにね、私のくだらないプライドはその時に捨てたから、だから私はいいのよ」
早川ユメはそう言うと、リアムの額をデコピンした。
「だからあんたが泣くな馬鹿」
「え」
リアムは慌てて自分の目に指を当てた。水滴が指に張り付く。いつの間に泣いてしまったのだろうか。すると、祐介がポケットからハンカチを出してリアムの目尻を拭き出した。それを見て、早川ユメがぶはっと笑う。
「子供か」
「サツキちゃんが拭くと、絶対マスカラをぐしゃぐしゃにするから。毎朝苦労して作り上げてる僕の最高傑作を雑に汚されたくないし」
「祐介、雑とは何だ、雑とは」
「雑でしょ? 不器用だし」
「え、何あんたまさか野原さんの化粧してるの?」
「僕の方が上手いからね」
すると、ショウちゃんが呟いた。
「まじかよこのイケメン……」
「やってたことは最低よ」
「本当もうその話ぶり返すのやめて」
三人共、好き勝手に話している。祐介がハンカチをしまうと、早川ユメが屈託なく笑った。
「まあ、そういうことよ。あいつはもう私のことは見限るつもりらしいから、私もそろそろ社長と縁を切りたいし、だから今一番困ってるのはあんたのことなのよ。分かる?」
「分かるぞ」
羽田は何とか代わりの人間を探そうとしているが、多分それがリアムには無理なことももう承知している。だが、腹立たしいことに代わりはない。だから何をするか分からない怖さがあった。
「でも社長ってほら、あんたにセクハラしてたじゃない? その辺もどうかなって思ってて、この後の方針が出ないのよね。だからあんたが社長の所に行くって言うから大慌てで止めたのよ。感謝しなさいよね」
やはりあれはそういうことだったのだ。そして気付いた。そういえば言ってなかったことに。
「羽田さんと社長の話は、社長から聞いたぞ」
「……え?」
「脅されていることも、お前のことも聞いていた」
「……あんた、馬鹿じゃないの」
「どういうことだ? 黙っていたことは悪かったが、正直言うと話すことを忘れていたのだ」
「あ、やっぱり馬鹿だ」
早川ユメは、今度は肩を揺らして笑い出した。一体何がおかしいのか。早川ユメは感情豊かだが、今回ばかりは何について笑っているのか理解出来なかった。
「聞いて知ってたのに、なのに友達になろうとか言ったの? あんた本当馬鹿よ」
「今でも友になる気だが」
「まじ?」
「お前はさっぱりしているから付き合い易いしな、正直だから楽だ」
「うわあ……」
早川ユメが、呆れた様に笑った。その笑顔は、今まで見た中で一番彼女らしい笑顔だとリアムは思った。
「始めはまず借金返済しないとな、と思って頑張ったんだけど、なかなか返済出来なくてね。払ってやろうかなんていう人もたまにはいたけど、まだ踏み切れなくて。それでも何とかぎりぎりやってたけど、あの仕事をしてると日中は起きられなくて、マサにも会いに行けなくてね。何の為にこんなに頑張ってるんだろうって思ったことも正直何度かあったけど、でもここで私が挫けたら、マサが一人になっちゃうし。でもたまたまきついなって思ってた時期にあいつに捕まって、それで今に至る訳よ」
早川ユメは、そこまで語ると水をぐいっと飲んだ。
「まあ私も段々三十路が近付いてきてキャバクラもいつまでも続けられなかっただろうし、それにね、私のくだらないプライドはその時に捨てたから、だから私はいいのよ」
早川ユメはそう言うと、リアムの額をデコピンした。
「だからあんたが泣くな馬鹿」
「え」
リアムは慌てて自分の目に指を当てた。水滴が指に張り付く。いつの間に泣いてしまったのだろうか。すると、祐介がポケットからハンカチを出してリアムの目尻を拭き出した。それを見て、早川ユメがぶはっと笑う。
「子供か」
「サツキちゃんが拭くと、絶対マスカラをぐしゃぐしゃにするから。毎朝苦労して作り上げてる僕の最高傑作を雑に汚されたくないし」
「祐介、雑とは何だ、雑とは」
「雑でしょ? 不器用だし」
「え、何あんたまさか野原さんの化粧してるの?」
「僕の方が上手いからね」
すると、ショウちゃんが呟いた。
「まじかよこのイケメン……」
「やってたことは最低よ」
「本当もうその話ぶり返すのやめて」
三人共、好き勝手に話している。祐介がハンカチをしまうと、早川ユメが屈託なく笑った。
「まあ、そういうことよ。あいつはもう私のことは見限るつもりらしいから、私もそろそろ社長と縁を切りたいし、だから今一番困ってるのはあんたのことなのよ。分かる?」
「分かるぞ」
羽田は何とか代わりの人間を探そうとしているが、多分それがリアムには無理なことももう承知している。だが、腹立たしいことに代わりはない。だから何をするか分からない怖さがあった。
「でも社長ってほら、あんたにセクハラしてたじゃない? その辺もどうかなって思ってて、この後の方針が出ないのよね。だからあんたが社長の所に行くって言うから大慌てで止めたのよ。感謝しなさいよね」
やはりあれはそういうことだったのだ。そして気付いた。そういえば言ってなかったことに。
「羽田さんと社長の話は、社長から聞いたぞ」
「……え?」
「脅されていることも、お前のことも聞いていた」
「……あんた、馬鹿じゃないの」
「どういうことだ? 黙っていたことは悪かったが、正直言うと話すことを忘れていたのだ」
「あ、やっぱり馬鹿だ」
早川ユメは、今度は肩を揺らして笑い出した。一体何がおかしいのか。早川ユメは感情豊かだが、今回ばかりは何について笑っているのか理解出来なかった。
「聞いて知ってたのに、なのに友達になろうとか言ったの? あんた本当馬鹿よ」
「今でも友になる気だが」
「まじ?」
「お前はさっぱりしているから付き合い易いしな、正直だから楽だ」
「うわあ……」
早川ユメが、呆れた様に笑った。その笑顔は、今まで見た中で一番彼女らしい笑顔だとリアムは思った。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる