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第三章 上級編開始
第583話 魔術師リアムの上級編・早川ユメ攻略四日目のユメの過去の続き
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人の意識を奪ってしまう様な薬がこの世界には存在するらしい。
しかし、いたたまれない話だ。虐められ、それでも自力で立ち直ろうと足掻いていた人間に対し、何たる仕打ちだろうか。弟のマサくんとやらを虐め続けたその者には、血も涙もないのか。リアムは思わず唇とギュッと噛み締めた。
「マサくんは一命は取り留めたけど、そこから寝たきりになったんだ。入院費も嵩むし、高卒の月給じゃやっていけないからってユメちゃんがキャバクラで働き始めたのが四年前位だったかな。俺もその時にユメちゃんに初めて会って、始めはか弱そうな子だなって思ってたのに、どんどん努力してどんどん綺麗になって、でもそれが俺には無理している様に見えたんだ。だから始めはただ気になって話を聞いたりしてさ。ユメちゃん、俺には何故か警戒心ゼロだったし」
すると、グズ、と鼻を啜った早川ユメが、ようやくおしぼりから目を離した。真っ赤になってアイライナーが滲んでいる。
「ショウちゃん、今みたいな髭もなかったし、すっごい軟そうな雰囲気なんだもん。そこがマサと似てるから、警戒心なんて持てないわよ」
「俺、弟扱い?」
ははは、とショウちゃんが笑った。
「だって年下でしょ」
「髭、頑張って生やしたのになあ」
「なにあんたその為に髭伸ばしたの? じゃあ止めたら? 私、髭嫌いなのよね」
「え……言ってよそういうのはさ」
ショウちゃんが、人の良さそうな笑顔で頭を掻いた。ようやく早川ユメがリアムを見た。シャッキリと芯の通ったいい顔をしていた。
「あーもう! この話をすると、変な同情を買うからするつもりはなかったのに! 悪いことしてる言い訳みたいだし……でもここまでばれちゃったならもういい、後は私が説明するわ」
そしてしっかりとリアムを正面から見た。化粧は崩れてしまっていたが、美しいな、とリアムは素直に思った。
「幸いマサは私が就職した時に扶養に入れたから入院費は保険が効くんだけど、生命保険に入ってる余裕なんてなくてね。それでも毎月十万位かかるのよ。家賃もあるし、私の給料は手取り十六万とかだったから、まあ赤字よね。でも銀行はどこも貸してくれなくて、それでつい消費者金融にお金を借りちゃったのよ」
消費者金融とは何だろうかと思っていると、祐介が「金貸し」と耳打ちしてくれた。成程。
「そこからが地獄の始まりでね、数万しか借りてないのに、どんどん借金が膨れ上がって、あっという間に利息だらけ。返しても返してもどんどん増えて、でも毎月入院費は掛かるし、マサは一向に目を覚まさないし。マサをあんな目に遭わせた奴をとっ捕まえようとしたけど、あっさりと逃げられた後だった」
語る内容は悲惨そのものだったが、早川ユメの目には力があった。これは、何かを覚悟した人間の目だ。
「始めはキャバ嬢と会社員の二足の草鞋を履いてたんだけど、すぐに体力の限界がきたから、潔く会社を辞めてやったわ。あんな会社、お金に困って相談もしたのに結局一円も貸してくれなかったし、こっちから切り捨ててやったのよ」
早川ユメは、自分の腕を寒そうに擦った。リアムは一つの可能性に気が付いた。もしかして、会社に相談した際に何かを求められたのではないか、と。
尋ねるのは止めよう。リアムは静かに早川ユメの次の言葉を待った。
しかし、いたたまれない話だ。虐められ、それでも自力で立ち直ろうと足掻いていた人間に対し、何たる仕打ちだろうか。弟のマサくんとやらを虐め続けたその者には、血も涙もないのか。リアムは思わず唇とギュッと噛み締めた。
「マサくんは一命は取り留めたけど、そこから寝たきりになったんだ。入院費も嵩むし、高卒の月給じゃやっていけないからってユメちゃんがキャバクラで働き始めたのが四年前位だったかな。俺もその時にユメちゃんに初めて会って、始めはか弱そうな子だなって思ってたのに、どんどん努力してどんどん綺麗になって、でもそれが俺には無理している様に見えたんだ。だから始めはただ気になって話を聞いたりしてさ。ユメちゃん、俺には何故か警戒心ゼロだったし」
すると、グズ、と鼻を啜った早川ユメが、ようやくおしぼりから目を離した。真っ赤になってアイライナーが滲んでいる。
「ショウちゃん、今みたいな髭もなかったし、すっごい軟そうな雰囲気なんだもん。そこがマサと似てるから、警戒心なんて持てないわよ」
「俺、弟扱い?」
ははは、とショウちゃんが笑った。
「だって年下でしょ」
「髭、頑張って生やしたのになあ」
「なにあんたその為に髭伸ばしたの? じゃあ止めたら? 私、髭嫌いなのよね」
「え……言ってよそういうのはさ」
ショウちゃんが、人の良さそうな笑顔で頭を掻いた。ようやく早川ユメがリアムを見た。シャッキリと芯の通ったいい顔をしていた。
「あーもう! この話をすると、変な同情を買うからするつもりはなかったのに! 悪いことしてる言い訳みたいだし……でもここまでばれちゃったならもういい、後は私が説明するわ」
そしてしっかりとリアムを正面から見た。化粧は崩れてしまっていたが、美しいな、とリアムは素直に思った。
「幸いマサは私が就職した時に扶養に入れたから入院費は保険が効くんだけど、生命保険に入ってる余裕なんてなくてね。それでも毎月十万位かかるのよ。家賃もあるし、私の給料は手取り十六万とかだったから、まあ赤字よね。でも銀行はどこも貸してくれなくて、それでつい消費者金融にお金を借りちゃったのよ」
消費者金融とは何だろうかと思っていると、祐介が「金貸し」と耳打ちしてくれた。成程。
「そこからが地獄の始まりでね、数万しか借りてないのに、どんどん借金が膨れ上がって、あっという間に利息だらけ。返しても返してもどんどん増えて、でも毎月入院費は掛かるし、マサは一向に目を覚まさないし。マサをあんな目に遭わせた奴をとっ捕まえようとしたけど、あっさりと逃げられた後だった」
語る内容は悲惨そのものだったが、早川ユメの目には力があった。これは、何かを覚悟した人間の目だ。
「始めはキャバ嬢と会社員の二足の草鞋を履いてたんだけど、すぐに体力の限界がきたから、潔く会社を辞めてやったわ。あんな会社、お金に困って相談もしたのに結局一円も貸してくれなかったし、こっちから切り捨ててやったのよ」
早川ユメは、自分の腕を寒そうに擦った。リアムは一つの可能性に気が付いた。もしかして、会社に相談した際に何かを求められたのではないか、と。
尋ねるのは止めよう。リアムは静かに早川ユメの次の言葉を待った。
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