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第三章 上級編開始

第559話 魔術師リアムの上級編・早川ユメ攻略四日目の勝負、昔の祐介

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 ジントニックなる飲み物は甘いは甘かったが、それなりにアルコールの風味が強く、想像していたよりは飲みやすい酒であった。

 くいーっとグラスの中身を飲み干すと、リアムは舌で唇を舐めた。その様子を半分すわった目で見ていた早川ユメが、リアムの脇腹を肘で突いた。

「やっらしー顔してるわねー」
「お前は何を言っているのだ」
「ねえねえ、山岸くんとはいつから付き合ってんのよ」

 早川ユメは人の話を聞いていないが、顔はすでに酔っ払いの顔だ。仕方ないのかもしれない。

 リアムは祐介を盗み見ると、ショウちゃんと二人で何やら楽しそうに会話をしていた。祐介があのように楽しそうに他者と会話をしているところなど殆ど見たことがなかったリアムは、何だかほっこりした。考えてみれば、ほぼずっとリアムと過ごしてきたのだから当然だった。祐介はリアムにかかりきりで、自分のことなど常に二の次だったのだから。

「まあ、まだ最近だ」
「やっぱりね。私の予想だと、あの連休あたりが怪しいんじゃないかと睨んでるんだけど」

 連休。確かその期間に『付き合っていることにする』と祐介に言われた筈なので、リアムは素直に頷いた。

「ほらやっぱり! で、どっちから言ったのよ!」

 早川ユメは非常に陽気である。日頃の氷の様な冷たさは一体どこへいったのか。だがまあこちらの方が話し易くはある。

 どちらか、と言われると正直返答に困ってしまうが、この設定を最初に盛り込んだのは間違いなく祐介である。すなわち、言ったのは祐介からということになる。

「祐介だ」
「まじで……」

 早川ユメが驚いた表情を浮かべた。リアムは早川ユメに顔を近付けると、小声で尋ねる。

「それはどういう意味だ?」
「いやね、あんたに話すのはどうかと思うんだけど、あんた案外気にしなそうだから喋っちゃう!」

 うふふ、と早川ユメがジントニックを飲み干すと、ひそひそ声で話を続けた。

「去年あたりだったかしら? 会社の前で山岸くんを待ち伏せしてた女がいたのよ。結構かわいい子で、彼女かな? なーんて思ってこっそり覗き見してたら、山岸くんその子を殆ど無視して行っちゃったのよ。で、その子が泣いちゃってるからちょっと慰めついでに聞きだしたらさ」

 早川ユメよ、お前は隠密か。一体何をやっているのだ。

 早川ユメは続けた。

「合コンで会ったらしいんだけど、何度か会ってやることはやったし付き合ってると思ってたのに途中から連絡が取れなくなって、自然消滅したくないからって待ち伏せしたらしいのよね」
「ほうほう」

 祐介よ、やることはやるのだな。リアムは意外な思いで祐介をチラ見した。合コンなるものが何かは分からなかったが、何らかの出会いの場であることは想像がついた。

「そうしたら、始めは誰? ていう顔されて、付き合ってたじゃない! て言ったら、は? て言われてどっか行っちゃったってもう号泣しちゃってさ、合コンの時もあいつは誰にも真剣にならないから止めとけって言われてたのはこういうことだったのね、わー! て泣いて泣いて大変だったわよ」
「なかなかに酷い男だな」
「あんたの男のことよ」

 早川ユメの冷静なつっこみが入った。酔っている癖に、さすがは我が好敵手だ。

 しかし一つ気になる内容があった。あいつは誰にも真剣にならないだと? あの祐介が?

「それからあいつの本性を暴いてやろうと思って何度かすり寄ってみたけど、全然尻尾出さないからちえーっと思ってたら、いきなりあんたと付き合い出したじゃない? 青天の霹靂ってやつよ」

 早川ユメは、そう言うとグラスをどん! とカウンターに置いた。
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