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第三章 上級編開始

第552話 OLサツキの上級編、フレイのダンジョン地下二十階のおはよう

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 ユラが寝ているベッドに腰掛けつつ半身を中に入れると、ユラの見慣れた法衣が足元に丸められていた。そして安定の横向きだ。

 サツキはクスリと笑って中に足も入れると、ユラの枕元まで這って行った。

 金色のまつ毛が、ユラの下まぶたの皮膚の上に薄く影を落としている。すっと伸びた鼻筋は綺麗で、これがあの横顔を作るのだと思うとつい見入ってしまう。口は薄く開いていて、そこから気持ちの良さそうな寝息がくう、すう、と聞こえてきた。

 そして起きない。サツキが横に来ているのに、気付きもしない。

 子供みたいだなと思いながら、ユラの目にかかっている横髪を指で梳き取ると、ユラの目が薄く開いた。水色の瞳の中にある少しグレーがかった放射線状に広がる虹彩こうさいに、瞳の中心にある濃い青の瞳孔。あまりにも綺麗で、サツキはただじっとそれを見つめ続ける。

「……俺に、見惚れてる?」

 寝ぼけまなこで、ユラが尋ねた。他のどんな男がそんなことを言ってもサツキは認めはしないが、ユラだけは言っても許される台詞だ。

「……見惚れてる、よ」

 サツキがユラに釘付けになりながらそう返すと、ユラが子供みたいにくしゃっと笑った。

「サツキ」

 ユラがサツキの腕を掴んで、手繰り寄せる。サツキは、横向きのユラの正面に向く形に横になった。

「他の奴らは?」

 ユラが、まだ半分夢を見ている様な目つきで尋ねた。

「ウルスラはお風呂に行ったよ。アールはまだ寝てる」
「サツキは風呂は行かなくていいのか?」

 サツキは、少し責める様な顔を作って言う。

「キスマークを付けたのって誰でしたっけ」
「俺だな」

 ユラが楽しそうに笑う。そしてサツキを抱き寄せると、横になったまま腕の中に包み込んだ。

「サツキ、おはよう」

 ユラが額同士を付き合わせてくると、少し汗ばんだ皮膚がしっとりと張り付いた。そのまま、唇が重なる。息をする様に、当たり前の様に交わされつつある挨拶のキスは、それでもまだサツキには慣れないものだ。

 まるで夢みたいで。

 幸せ過ぎて。

 この時間がずっと続いたらいいのに、そう願う。

 だけど、そういう幸せな時間は得てして外部に邪魔されるものだ。

「あー! よく寝たあ!」

 ベッドの外から、アールの大きな声が聞こえてきた。んー! と、明らかに伸びをしているのであろう声もする。

 唇を合わせたままだったサツキとユラは、ぱっと目を開けた。サツキが離れた瞬間、ユラが再度素早くキスをし、口に指を当てて笑った。静かにしてろ、ということらしい。

 ユラは這ってベッドの外に出ると、アールに声を掛けた。

「お前声うるせーよ、起きちゃったじゃねえか」
「お、ユラおっはよー! なあ、女子達は?」

 アールは朝から元気だ。それに答えるユラの返事は、素っ気ない。

「二人とも風呂じゃねえか?」
「なら俺もひとっ風呂浴びてこようかな? ユラはどうする?」
「俺は朝飯捕まえてくる」
「サツキいないとじゃないか?」
「サツキは俺が探して連れて行くから問題ない」

 よくよく考えるとユラの言葉は辻褄が合わないが、アールは気にしなかったらしい。

「じゃ、朝飯頼んだぞ!」
「おう」

 ドタバタとアールが出て行く音がした。もう大丈夫かな? サツキが外に出ようと出口に這って行こうとすると、ユラが勢いよく入ってきた。そのままの勢いで、サツキに覆い被さる。

「えっちょっとユラ!」
「折角の機会を逃す阿呆がいるか」

 サツキの両手首を掴んだユラは、サツキを堪能することにした様だった。
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