543 / 731
第三章 上級編開始
第541話 魔術師リアムの上級編・早川ユメ攻略四日目の朝
しおりを挟む
リアムは今日も、目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。自分のいる位置を確認すると、祐介に背中を向けて寝ていた様だ。その祐介は、リアムを腕の中にすっぽりと納める様に全身を使って抱きすくめている。多分、寝ている間に寝苦しくなって、それで背中をつい向けてしまうのだろうと推測した。なんせがんじがらめである。
あれだけリアムを苦しめた生理は、昨日ほんの少々茶色い血が出た後は、もうピタリと止まった。つまり、期間は五日間。ひと月の内の五日とはそれなりに長い様に思うが、辛かったのはその前日あたりからだったので、実質六日間はこの煩わしさに付き合っていかねばならないということらしい。
リアムは祐介の拘束からそっと抜け出すと、祐介がまた探すといけないので、祐介の家のトイレに行った。昨日は祐介が外出した為、これまでで最長時間離れていた。こうやって徐々に離れて過ごす時間が増えたら、祐介も他所に目を向ける様になるのだろうか。
祐介が他の女性と付き合い家庭を作った場合、よき友人としてならばリアムはこの世界に留まることが出来るのだろうか。
感覚だけではあったが、それは無理な様な気がした。
今ですらも少し元の世界を思い出しただけで存在が薄くなるのであれば、この祐介の執着がなくなってしまえばきっとリアムはあっさりと元の世界に戻ってしまう。
「つくづく難しい問題だ」
冷蔵庫からよく冷えた麦茶をコップに注ぎ、腰に手を当てリアムが飲んでいると。
「何が難しい問題なの?」
思ったよりも近い場所から、祐介の声が聞こえてきた。
「祐介? 起きてたのか?」
リアムが振り返ると、祐介がベッドから降りてこちらに歩いてくるところだった。
「うん。いないなと思って」
「トイレに行ってたのだ」
「うん、流す音で分かった」
「ならばもう少し寝ていればよかったであろうが」
「いや、美味しそうに堂々とお茶を飲んでるから、僕も欲しくなって」
「堂々?」
祐介が、リアムの腰に当てられた手を指差して笑った。成程。
「祐介も飲むか?」
「うん。洗い物増えるから、そのコップでいいよ」
「そうか? まあ気にならないならいいが」
「なりません」
祐介はあまり潔癖ではないらしい。ダンジョンに潜るには必要な能力の一つである。
リアムがコップに麦茶を注ぎ祐介に渡すと、すぐ横まで来た祐介がそれを嬉しそうに受け取った。ごくり、といい音を立てて一気に飲み干す。
「もっと飲むか?」
「ううん、もういいや。ありがとう」
「どういたしまして」
祐介は礼もきちんと言える、礼儀正しい人間なのだ。
祐介がコップを流しに置いて戻ってくると、ベッドに腰掛けた。
「で、何が難しい問題なの?」
勿論素直に言える訳がない。こういうことを言うと、祐介は途端に子供の様にムキになるのももう理解している。だから、リアムは咄嗟に嘘をついた。
「今日のことだ」
「今日……そうか、今夜だもんね」
早川ユメとの飲み比べである。ここでリアムが負けてしまうと、早川ユメの話を聞き出せぬまま、リアムの素性を晒さなければならなくなってしまう。
いや、だがそれも逆にありかもしれぬ、とリアムが考え込むと。
「お酒を飲む前に飲むと多少緩和されるものがあるから、それを飲んでから行こうね」
と、祐介が優しく頭を撫でてくれた。
リアムの心が、チクリと痛んだ。
あれだけリアムを苦しめた生理は、昨日ほんの少々茶色い血が出た後は、もうピタリと止まった。つまり、期間は五日間。ひと月の内の五日とはそれなりに長い様に思うが、辛かったのはその前日あたりからだったので、実質六日間はこの煩わしさに付き合っていかねばならないということらしい。
リアムは祐介の拘束からそっと抜け出すと、祐介がまた探すといけないので、祐介の家のトイレに行った。昨日は祐介が外出した為、これまでで最長時間離れていた。こうやって徐々に離れて過ごす時間が増えたら、祐介も他所に目を向ける様になるのだろうか。
祐介が他の女性と付き合い家庭を作った場合、よき友人としてならばリアムはこの世界に留まることが出来るのだろうか。
感覚だけではあったが、それは無理な様な気がした。
今ですらも少し元の世界を思い出しただけで存在が薄くなるのであれば、この祐介の執着がなくなってしまえばきっとリアムはあっさりと元の世界に戻ってしまう。
「つくづく難しい問題だ」
冷蔵庫からよく冷えた麦茶をコップに注ぎ、腰に手を当てリアムが飲んでいると。
「何が難しい問題なの?」
思ったよりも近い場所から、祐介の声が聞こえてきた。
「祐介? 起きてたのか?」
リアムが振り返ると、祐介がベッドから降りてこちらに歩いてくるところだった。
「うん。いないなと思って」
「トイレに行ってたのだ」
「うん、流す音で分かった」
「ならばもう少し寝ていればよかったであろうが」
「いや、美味しそうに堂々とお茶を飲んでるから、僕も欲しくなって」
「堂々?」
祐介が、リアムの腰に当てられた手を指差して笑った。成程。
「祐介も飲むか?」
「うん。洗い物増えるから、そのコップでいいよ」
「そうか? まあ気にならないならいいが」
「なりません」
祐介はあまり潔癖ではないらしい。ダンジョンに潜るには必要な能力の一つである。
リアムがコップに麦茶を注ぎ祐介に渡すと、すぐ横まで来た祐介がそれを嬉しそうに受け取った。ごくり、といい音を立てて一気に飲み干す。
「もっと飲むか?」
「ううん、もういいや。ありがとう」
「どういたしまして」
祐介は礼もきちんと言える、礼儀正しい人間なのだ。
祐介がコップを流しに置いて戻ってくると、ベッドに腰掛けた。
「で、何が難しい問題なの?」
勿論素直に言える訳がない。こういうことを言うと、祐介は途端に子供の様にムキになるのももう理解している。だから、リアムは咄嗟に嘘をついた。
「今日のことだ」
「今日……そうか、今夜だもんね」
早川ユメとの飲み比べである。ここでリアムが負けてしまうと、早川ユメの話を聞き出せぬまま、リアムの素性を晒さなければならなくなってしまう。
いや、だがそれも逆にありかもしれぬ、とリアムが考え込むと。
「お酒を飲む前に飲むと多少緩和されるものがあるから、それを飲んでから行こうね」
と、祐介が優しく頭を撫でてくれた。
リアムの心が、チクリと痛んだ。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる