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第三章 上級編開始

第541話 魔術師リアムの上級編・早川ユメ攻略四日目の朝

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 リアムは今日も、目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。自分のいる位置を確認すると、祐介に背中を向けて寝ていた様だ。その祐介は、リアムを腕の中にすっぽりと納める様に全身を使って抱きすくめている。多分、寝ている間に寝苦しくなって、それで背中をつい向けてしまうのだろうと推測した。なんせがんじがらめである。

 あれだけリアムを苦しめた生理は、昨日ほんの少々茶色い血が出た後は、もうピタリと止まった。つまり、期間は五日間。ひと月の内の五日とはそれなりに長い様に思うが、辛かったのはその前日あたりからだったので、実質六日間はこの煩わしさに付き合っていかねばならないということらしい。

 リアムは祐介の拘束からそっと抜け出すと、祐介がまた探すといけないので、祐介の家のトイレに行った。昨日は祐介が外出した為、これまでで最長時間離れていた。こうやって徐々に離れて過ごす時間が増えたら、祐介も他所に目を向ける様になるのだろうか。

 祐介が他の女性と付き合い家庭を作った場合、よき友人としてならばリアムはこの世界に留まることが出来るのだろうか。

 感覚だけではあったが、それは無理な様な気がした。

 今ですらも少し元の世界を思い出しただけで存在が薄くなるのであれば、この祐介の執着がなくなってしまえばきっとリアムはあっさりと元の世界に戻ってしまう。

「つくづく難しい問題だ」

 冷蔵庫からよく冷えた麦茶をコップに注ぎ、腰に手を当てリアムが飲んでいると。

「何が難しい問題なの?」

 思ったよりも近い場所から、祐介の声が聞こえてきた。

「祐介? 起きてたのか?」

 リアムが振り返ると、祐介がベッドから降りてこちらに歩いてくるところだった。

「うん。いないなと思って」
「トイレに行ってたのだ」
「うん、流す音で分かった」
「ならばもう少し寝ていればよかったであろうが」
「いや、美味しそうに堂々とお茶を飲んでるから、僕も欲しくなって」
「堂々?」

 祐介が、リアムの腰に当てられた手を指差して笑った。成程。

「祐介も飲むか?」
「うん。洗い物増えるから、そのコップでいいよ」
「そうか? まあ気にならないならいいが」
「なりません」

 祐介はあまり潔癖ではないらしい。ダンジョンに潜るには必要な能力の一つである。

 リアムがコップに麦茶を注ぎ祐介に渡すと、すぐ横まで来た祐介がそれを嬉しそうに受け取った。ごくり、といい音を立てて一気に飲み干す。

「もっと飲むか?」
「ううん、もういいや。ありがとう」
「どういたしまして」

 祐介は礼もきちんと言える、礼儀正しい人間なのだ。

 祐介がコップを流しに置いて戻ってくると、ベッドに腰掛けた。

「で、何が難しい問題なの?」

 勿論素直に言える訳がない。こういうことを言うと、祐介は途端に子供の様にムキになるのももう理解している。だから、リアムは咄嗟に嘘をついた。

「今日のことだ」
「今日……そうか、今夜だもんね」

 早川ユメとの飲み比べである。ここでリアムが負けてしまうと、早川ユメの話を聞き出せぬまま、リアムの素性を晒さなければならなくなってしまう。

 いや、だがそれも逆にありかもしれぬ、とリアムが考え込むと。

「お酒を飲む前に飲むと多少緩和されるものがあるから、それを飲んでから行こうね」

 と、祐介が優しく頭を撫でてくれた。

 リアムの心が、チクリと痛んだ。
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