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第三章 上級編開始
第525話 魔術師リアムの上級編・早川ユメ攻略二日目の映画の後
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まだ目を半分しか開けていない祐介は、微動だにせずリアムを見ている。
「僕で遊んでたの? 何で?」
「それは、祐介が寝てたからだっ」
リアムは慌てて言い訳を始めた。寝ている祐介の顔をむにむにし、唇をぷにぷに押していたのは事実である。言い訳のしようもないが、その理由についてはまだばれてはいない。前に柔らかかったからなどと言ったら、一体どんな顔をされてしまうか。
すると、祐介が背もたれにもたれかかる勢いのまま、リアムを抱き寄せた。
「じゃあ僕もやる」
「いや、私はちゃんと映画を観ていたぞ?」
「何かいっぱい触ってたでしょ。やられたことはやるもんね。目には目を、歯には歯をだっけな、ハムラビ法典」
「何だその何とか法典というのは」
「君にはまだ早かったね」
説明になっていない。
「とにかく、私は祐介を起こそうとしていただけで」
「キスした?」
「していないと言っているだろうが」
「したって言っていいんだけど」
「実際にしていないものをしたとは言えないだろうが」
「何でしなかったの?」
祐介が面倒臭い。いや、まあ可愛いのだが、何故こんなにしつこいのかが分からないのだ。
リアムは返答に困り、……そのまま黙り込んだ。嘘はなるべくならつきたくはない。祐介とのキスがどうだったかと言えば、悪くなかったというのが正直なところである。
だがそれは、リアムがサツキの身体であるから起こりえたことであり、これがリアムの身体のままであったら恐らくはなかったことだ。祐介はやたらと中身のリアムがいなくなることを怖がるが、ではここにリアム本体がいたら同じ反応をするのであろうか。
恐らくは、しない。だからリアムはこれ以上踏み込めない。祐介がリアムをサツキと呼ぶ以上、祐介が見ているのはサツキだ。中身がリアムだから会話や反応を楽しんでいるのだろうが、でもこの身体は間借りの物だ。間借りの身体を使って祐介をこちらに向かせたところで、残るのは虚しさだけであろう。
だから、リアムは祐介の前ではリアムでいる。祐介がそれ以上踏み込めぬ様、踏み込んで後悔をすることがない様に。
祐介が、困った顔になった。
「ごめん、泣かせたい訳じゃなかった」
「何を言っている、私は泣いてなど」
「言ったでしょ、加減が分からないから嫌なら言ってって」
リアムの頬に、意図せぬ涙が伝った。
誤解させてしまった。そうではない、祐介は何も悪くない。
「違う祐介、誤解だ」
「嫌だから泣いたんでしょ?」
「違う、嫌ではない」
祐介の表情は、読めない。何を考えているのか、リアムに失望したのか。
これ以上、ここにいてはいけない気がした。
「……済まなかった。祐介が寝てしまって、つい調子に乗ったのだ。……今日は、自分の布団で寝るから、だから怒らないでくれ」
見れば、もう映画はとっくに終わっていた。
リアムが立ち上がろうとすると、それまで黙ってリアムを見ているだけだった祐介が動いた。
「祐介……」
祐介が、リアムの手首を掴んで引き止めていた。
「ごめん」
悲しそうに、祐介が言う。
「ごめん、でも」
祐介は、リアムの手を思い切り引っ張った。リアムはバランスを崩し、祐介の上に落ちていく。
「行かないで」
祐介の懇願する様な声色に、リアムは何も言えなくなり。
言葉に出せない代わりに、祐介の頬にそっと手を触れた。
「僕で遊んでたの? 何で?」
「それは、祐介が寝てたからだっ」
リアムは慌てて言い訳を始めた。寝ている祐介の顔をむにむにし、唇をぷにぷに押していたのは事実である。言い訳のしようもないが、その理由についてはまだばれてはいない。前に柔らかかったからなどと言ったら、一体どんな顔をされてしまうか。
すると、祐介が背もたれにもたれかかる勢いのまま、リアムを抱き寄せた。
「じゃあ僕もやる」
「いや、私はちゃんと映画を観ていたぞ?」
「何かいっぱい触ってたでしょ。やられたことはやるもんね。目には目を、歯には歯をだっけな、ハムラビ法典」
「何だその何とか法典というのは」
「君にはまだ早かったね」
説明になっていない。
「とにかく、私は祐介を起こそうとしていただけで」
「キスした?」
「していないと言っているだろうが」
「したって言っていいんだけど」
「実際にしていないものをしたとは言えないだろうが」
「何でしなかったの?」
祐介が面倒臭い。いや、まあ可愛いのだが、何故こんなにしつこいのかが分からないのだ。
リアムは返答に困り、……そのまま黙り込んだ。嘘はなるべくならつきたくはない。祐介とのキスがどうだったかと言えば、悪くなかったというのが正直なところである。
だがそれは、リアムがサツキの身体であるから起こりえたことであり、これがリアムの身体のままであったら恐らくはなかったことだ。祐介はやたらと中身のリアムがいなくなることを怖がるが、ではここにリアム本体がいたら同じ反応をするのであろうか。
恐らくは、しない。だからリアムはこれ以上踏み込めない。祐介がリアムをサツキと呼ぶ以上、祐介が見ているのはサツキだ。中身がリアムだから会話や反応を楽しんでいるのだろうが、でもこの身体は間借りの物だ。間借りの身体を使って祐介をこちらに向かせたところで、残るのは虚しさだけであろう。
だから、リアムは祐介の前ではリアムでいる。祐介がそれ以上踏み込めぬ様、踏み込んで後悔をすることがない様に。
祐介が、困った顔になった。
「ごめん、泣かせたい訳じゃなかった」
「何を言っている、私は泣いてなど」
「言ったでしょ、加減が分からないから嫌なら言ってって」
リアムの頬に、意図せぬ涙が伝った。
誤解させてしまった。そうではない、祐介は何も悪くない。
「違う祐介、誤解だ」
「嫌だから泣いたんでしょ?」
「違う、嫌ではない」
祐介の表情は、読めない。何を考えているのか、リアムに失望したのか。
これ以上、ここにいてはいけない気がした。
「……済まなかった。祐介が寝てしまって、つい調子に乗ったのだ。……今日は、自分の布団で寝るから、だから怒らないでくれ」
見れば、もう映画はとっくに終わっていた。
リアムが立ち上がろうとすると、それまで黙ってリアムを見ているだけだった祐介が動いた。
「祐介……」
祐介が、リアムの手首を掴んで引き止めていた。
「ごめん」
悲しそうに、祐介が言う。
「ごめん、でも」
祐介は、リアムの手を思い切り引っ張った。リアムはバランスを崩し、祐介の上に落ちていく。
「行かないで」
祐介の懇願する様な声色に、リアムは何も言えなくなり。
言葉に出せない代わりに、祐介の頬にそっと手を触れた。
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