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第三章 上級編開始
第495話 魔術師リアムの上級編・早川ユメ攻略初日の夕食へ
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今夜の献立は、久々の味噌汁と、日本人ならこれでしょ! と祐介がスーパーの鮮魚コーナーで熱弁したししゃもという小魚に、これぞ日本人の心という肉じゃが、らしい。
「祐介、日本人の心とは幾つくらいあるものなのだ?」
「日本人の心は、色々な所に見え隠れしてるんだよ」
訳の分からぬ回答が返ってきた。
「さっぱり分からん」
「僕と一緒に過ごしていたら、その内理解出来る日が来ると思うよ」
「それにはどれ位の日数が必要なのだろうな……」
「ずっと一緒にいたら分かるから」
そして今日もぐいぐいくる。玉ねぎを大きめに切りながら、遠慮なくぐいぐいくる。リアムが祐介に与えてしまった恐怖は、それだけ大きかったということなのだろう。
台所近くの壁にもたれかかりながら、リアムは尋ねた。
「祐介は、ずっと私が傍にいると嬉しいのか?」
「当たり前でしょ」
即答だった。
「共に過ごすことに飽いたらどうするのだ」
「飽きないよ」
「そんなことは分からぬだろう?」
「サツキちゃんはさ、何をそんなに怖がってるの?」
祐介が、人参を刻みながら聞いた。こちらを見ないまま。
「怖がってなど、ないぞ。魔術師たるもの、常に己の恐怖する対象に向き合ってだな」
「それ、本当?」
祐介の手が止まり、穏やかな目がリアムを見つめた。時折、祐介はリアムの心を読んだかの様な目をしてリアムを見ることがある。リアムが分からないからと横に置いたものを、ちゃんと見ろと言われている気がしてくる。
「怖いものはないの?」
ある。祐介と過ごすこの時間がなくなることは、恐怖でしかない。これがなくなってしまったら、自分はどのように生きていけばいいのか、きっと見失ってしまうことも分かっていた。
だが、ここで祐介に足かせを付けてはならない。だからリアムは、努めて明るく言った。
「ない。祐介は忘れたか? 私は一度ドラゴンに焼かれ死んだ身だぞ。一度死んだ人間に、何を恐れることがある」
「……ふうん。そっか」
祐介は納得がいっていない様だったが、それ以上食い下がってくることはなかった。これ以上は聞いても無駄だと思ったのだろう。にっこりと笑うと、話題を変えてきた。
「サツキちゃん、マヨネーズって分かる?」
「分からぬ」
「ししゃもに付けると美味しいんだよね。で、マヨネーズに醤油とか七味を混ぜても美味しい」
祐介はそう言うと、冷蔵庫から何やら黄色っぽい液体の様なものを取り出した。祐介の指ににゅっとそのマヨネーズなるものを少量乗せると、更ににっこりと笑った。
「あーん」
「どうした祐介」
「ほら、素直に口開けて」
「まさか指をしゃぶれと言うのか」
「だってここに出しちゃったし」
だって、ではない。リアムが戸惑っていると。
「君が離れて行きそうになると、もっと中に触れたらいいのかなって思うんだよね」
祐介の顔はにこやかだ。でもリアムはもう知っていた。これは祐介が苛ついている証拠だと。原因は一つ。リアムが突き放す様なことを言ったからだ。
「あーん」
祐介が、もう一度言った。苛つきの奥に見えるのは、寂しさなのだろうか。
リアムは祐介の手首を掴むと、祐介の人差し指を口に含んだのだった。
「祐介、日本人の心とは幾つくらいあるものなのだ?」
「日本人の心は、色々な所に見え隠れしてるんだよ」
訳の分からぬ回答が返ってきた。
「さっぱり分からん」
「僕と一緒に過ごしていたら、その内理解出来る日が来ると思うよ」
「それにはどれ位の日数が必要なのだろうな……」
「ずっと一緒にいたら分かるから」
そして今日もぐいぐいくる。玉ねぎを大きめに切りながら、遠慮なくぐいぐいくる。リアムが祐介に与えてしまった恐怖は、それだけ大きかったということなのだろう。
台所近くの壁にもたれかかりながら、リアムは尋ねた。
「祐介は、ずっと私が傍にいると嬉しいのか?」
「当たり前でしょ」
即答だった。
「共に過ごすことに飽いたらどうするのだ」
「飽きないよ」
「そんなことは分からぬだろう?」
「サツキちゃんはさ、何をそんなに怖がってるの?」
祐介が、人参を刻みながら聞いた。こちらを見ないまま。
「怖がってなど、ないぞ。魔術師たるもの、常に己の恐怖する対象に向き合ってだな」
「それ、本当?」
祐介の手が止まり、穏やかな目がリアムを見つめた。時折、祐介はリアムの心を読んだかの様な目をしてリアムを見ることがある。リアムが分からないからと横に置いたものを、ちゃんと見ろと言われている気がしてくる。
「怖いものはないの?」
ある。祐介と過ごすこの時間がなくなることは、恐怖でしかない。これがなくなってしまったら、自分はどのように生きていけばいいのか、きっと見失ってしまうことも分かっていた。
だが、ここで祐介に足かせを付けてはならない。だからリアムは、努めて明るく言った。
「ない。祐介は忘れたか? 私は一度ドラゴンに焼かれ死んだ身だぞ。一度死んだ人間に、何を恐れることがある」
「……ふうん。そっか」
祐介は納得がいっていない様だったが、それ以上食い下がってくることはなかった。これ以上は聞いても無駄だと思ったのだろう。にっこりと笑うと、話題を変えてきた。
「サツキちゃん、マヨネーズって分かる?」
「分からぬ」
「ししゃもに付けると美味しいんだよね。で、マヨネーズに醤油とか七味を混ぜても美味しい」
祐介はそう言うと、冷蔵庫から何やら黄色っぽい液体の様なものを取り出した。祐介の指ににゅっとそのマヨネーズなるものを少量乗せると、更ににっこりと笑った。
「あーん」
「どうした祐介」
「ほら、素直に口開けて」
「まさか指をしゃぶれと言うのか」
「だってここに出しちゃったし」
だって、ではない。リアムが戸惑っていると。
「君が離れて行きそうになると、もっと中に触れたらいいのかなって思うんだよね」
祐介の顔はにこやかだ。でもリアムはもう知っていた。これは祐介が苛ついている証拠だと。原因は一つ。リアムが突き放す様なことを言ったからだ。
「あーん」
祐介が、もう一度言った。苛つきの奥に見えるのは、寂しさなのだろうか。
リアムは祐介の手首を掴むと、祐介の人差し指を口に含んだのだった。
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