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第三章 上級編開始
第476話 OLサツキの上級編、フレイのダンジョン地下十階の水滴
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どうしてもう少しきちんと髪を拭けないのか。水がポタポタと垂れて、着替えたばかりのタンクトップが早くも慣れてきてしまっている。
サツキは、ユラが腕に抱えていたタオルをさっと奪うと、ユラの頭をガシガシと拭き始めた。
「乾かすにしても、これはもっと拭かないとだめだよ」
「へへ、いいなこれ……」
ユラが目を瞑って何かを言っている。もしかして、わざと大して拭かずにいたのか。疑いたくなる位の緩んだ顔をしていた。
そしてまたハッと気付く。何を当たり前の様に頭を拭いてやっているんだと。ユラはパーティーの仲間で今はサツキにあれこれ教えてくれる先生役をしてくれてはいるが、これじゃまるで母親じゃないか。
そしてふと思った。そうだ、この人はサイコ気味な母親から逃げてきたのだ。どんな人だったのかは怖くて聞けないが、お金持ちの坊ちゃんだった様だから、母親に頭を拭いてもらうことなどそもそもなかったのかもしれない。
そう気付いてしまうと途端にキュンとしてしまい、サツキは丁寧に、身体に垂れている水滴まで取ってあげることにした。
「何か今度はサツキが優しい」
「ううん、気にしないで。ちゃんと拭いてあげるね」
「何を想像したのか気にならなくもないが、まあいいや」
こそばゆそうな笑顔をタオルの隙間から見せるので、サツキの心は穏やかではない。まるで映画のワンシーンを観せられている様に錯覚するが、目の前にいる人は今本当に目の前にいて、サツキを見返している。じっとこちらを見つめるユラの視線がやけに熱く感じ、サツキは目線を下に落とした。
「サツキ」
「なに」
目を合わせないまま、最後また髪の毛の水分をしっかりと叩いて拭き取っていった。
「俺を見て」
「ちょっと待って、今拭いてるから」
「耐えられねえ」
「何でよ」
サツキはユラの髪に触れ、水分の残り具合を確認した。よし、全部それなりに拭けた筈だ。サツキは心の中でひとつ息をついてから、ユラを見上げた。
ユラは真っ直ぐにサツキを見ていた。まだ暑いのか、白い肌が紅潮している。
「サツキ、俺を抱き締めて」
「へ?」
「よっ」
「ひやっ!?」
ユラはさっと屈んでサツキのももに手を回すと、ひょいと抱き上げてしまった。今度はユラの上に来てしまったサツキの顔を見上げて、もう一度言った。
「俺を抱き締めて、キスして」
「ど、どうしたのユラ」
「さっきみたいに優しくやってよ」
さっき。髪の毛を拭いてやったことだろうか。
「急に寂しくなったんだ」
ユラが囁く。切なそうな顔をされてしまうと、途端にサツキの可愛いもの大好きゲージがマックスになってしまうのだ。
もう、だめ。
サツキは、吸い寄せられる様にユラの頭に腕を回し、ユラにキスをした。もう駄目だ、完全に捕らえられてしまった。いくら抵抗しても、離れようとしても、ユラに絡め取られてしまう。
後で残るのは虚しさだけなのに。手に入れられない喪失感だけなのに。
キスを繰り返しながら、強く思う。
言いたい。好きだと言いたい。そうしたら何か変わるだろうか。いつまでもこの想いを抱えたままでは、もう先に進めない気がした。
サツキは、ユラが腕に抱えていたタオルをさっと奪うと、ユラの頭をガシガシと拭き始めた。
「乾かすにしても、これはもっと拭かないとだめだよ」
「へへ、いいなこれ……」
ユラが目を瞑って何かを言っている。もしかして、わざと大して拭かずにいたのか。疑いたくなる位の緩んだ顔をしていた。
そしてまたハッと気付く。何を当たり前の様に頭を拭いてやっているんだと。ユラはパーティーの仲間で今はサツキにあれこれ教えてくれる先生役をしてくれてはいるが、これじゃまるで母親じゃないか。
そしてふと思った。そうだ、この人はサイコ気味な母親から逃げてきたのだ。どんな人だったのかは怖くて聞けないが、お金持ちの坊ちゃんだった様だから、母親に頭を拭いてもらうことなどそもそもなかったのかもしれない。
そう気付いてしまうと途端にキュンとしてしまい、サツキは丁寧に、身体に垂れている水滴まで取ってあげることにした。
「何か今度はサツキが優しい」
「ううん、気にしないで。ちゃんと拭いてあげるね」
「何を想像したのか気にならなくもないが、まあいいや」
こそばゆそうな笑顔をタオルの隙間から見せるので、サツキの心は穏やかではない。まるで映画のワンシーンを観せられている様に錯覚するが、目の前にいる人は今本当に目の前にいて、サツキを見返している。じっとこちらを見つめるユラの視線がやけに熱く感じ、サツキは目線を下に落とした。
「サツキ」
「なに」
目を合わせないまま、最後また髪の毛の水分をしっかりと叩いて拭き取っていった。
「俺を見て」
「ちょっと待って、今拭いてるから」
「耐えられねえ」
「何でよ」
サツキはユラの髪に触れ、水分の残り具合を確認した。よし、全部それなりに拭けた筈だ。サツキは心の中でひとつ息をついてから、ユラを見上げた。
ユラは真っ直ぐにサツキを見ていた。まだ暑いのか、白い肌が紅潮している。
「サツキ、俺を抱き締めて」
「へ?」
「よっ」
「ひやっ!?」
ユラはさっと屈んでサツキのももに手を回すと、ひょいと抱き上げてしまった。今度はユラの上に来てしまったサツキの顔を見上げて、もう一度言った。
「俺を抱き締めて、キスして」
「ど、どうしたのユラ」
「さっきみたいに優しくやってよ」
さっき。髪の毛を拭いてやったことだろうか。
「急に寂しくなったんだ」
ユラが囁く。切なそうな顔をされてしまうと、途端にサツキの可愛いもの大好きゲージがマックスになってしまうのだ。
もう、だめ。
サツキは、吸い寄せられる様にユラの頭に腕を回し、ユラにキスをした。もう駄目だ、完全に捕らえられてしまった。いくら抵抗しても、離れようとしても、ユラに絡め取られてしまう。
後で残るのは虚しさだけなのに。手に入れられない喪失感だけなのに。
キスを繰り返しながら、強く思う。
言いたい。好きだと言いたい。そうしたら何か変わるだろうか。いつまでもこの想いを抱えたままでは、もう先に進めない気がした。
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