上 下
474 / 731
第三章 上級編開始

第472話 OLサツキの上級編、フレイのダンジョン地下十階・暗闇からの脱出

しおりを挟む
 ユラの唇は、今はサツキの口の横辺りにあるのが分かった。暖かくて、気が狂いそうになる。

「虚しいってなんだよ。何で虚しくなるんだよ」
「言いたくないから言わない」
「サツキ、怒ったのならごめん。謝るから行くなよ」
「いや、なんかブラインドの中暑いし、どちらにしろそろそろ上がるから」
「何か冷たいな。やっぱり怒ってないか? 俺だってさすがに見えないとよく分かんねえし」
「何が?」
「……何でもねえ」

 また隠し事だ。これもあれだろう、サツキに自信が付いたら話すと言っていたものに違いない。つまり、ユラの判断は、サツキはまだまだだということだ。

「戻って、お酒飲んで、寝る」
「……それに付き合っていいか?」
「お酒だけね」
「それでもいいから」

 ユラの少し甘える様な声色に、サツキはつい先程までユラに冷たく当たっていたことを少し後悔し始めていた。

 考えてみれば、今正にアールの気持ちがウルスラに向きかけていることに、このユラが気付かない筈はない。それ位、アールの態度はあからさまだ。

 それでもそれについて何も言わずにいるのは、ユラなりに気持ちの整理をつけようとしているからなのではないか。

 それでもどうしても伴う寂しさを、サツキによって埋めようとしているのでは。だからこんなにも離れたがらないのではないか。

 そう思った途端、ユラの自分勝手さを許してあげたいと思う自分にまた幻滅する。

「……上がろうよ」
「じゃあ、迷子にならない様に抱き上げて行くから、首にしがみついておけ」
「え? いやいいよ自分で行けるから」

 そもそも先程転んだのはユラの方だ。すると、ユラが小さく笑った。

「さっき怖がってた癖によく言うぜ」
「あれは、その、方向が分からなくなってたから」
「ブラインドから出たらすぐに降ろして、お前を見ない様にするから」
「でも」
「いいから」

 ユラはそう言うと、サツキのもも裏に手を伸ばし、ジャバッと立ち上がった。

「掴まれって」

 掴まらないと、確かに重そうではある。サツキが恐る恐る首に手を回すと、ユラがサツキの目のうえ辺りに頬をぐりぐり擦り寄せてきた。これは一体どういう意味だろうか。

 ジャブジャブと、ユラが歩いて行く。もうあちこち密着し過ぎていてもう何が何だかなパニック状態のサツキだったが、幸い見えない。心を無にするの、無よ、サツキ!

 ユラが懐かしそうに言った。

「春祭りの時もこうやって俺んちに連れて帰ったのが、もう懐かしいよ」
「あの時は、ご迷惑お掛けしました……」
「裸だしさ」
「いや本当それはもう勘弁して」
「俺、こう見えても結構紳士だろ?」

 ユラが何かを言い出した。

「えーと」
「裸を見ても手は出してないじゃねえか」
「いやまあそれはそうだけども」
「俺もよく我慢してると思う」

 自分を褒め出した。さすがはユラだ。

「だからさ……おっと」

 何の前触れもなく、ブラインドの黒煙から出た。

「あれ、方向が真逆だったな」
「ちょっちょっとユラ、もう降ろしてっ」

 サツキの裸もユラの裸も、互いに丸見えになってしまっている。すると、ユラが提案した。

「今降ろして歩いて行ったら、俺は見るぜ」
「うう」
「だから、見られない位身体を密着させとけ。俺もまあなるべく見ないようにはしてやるから」
「ひいいっ」

 サツキが慌ててユラに更にしがみつくと、ははっと笑ったユラが、ちゅ、と小さくキスをした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

処理中です...