上 下
469 / 731
第三章 上級編開始

第467話 魔術師リアムの上級編の魔法陣作成本番の続き

しおりを挟む
 祐介が、物凄く真剣な表情で大きな紙に向き合っている。

「何かここはこれじゃないと駄目とかいった決まりってあるの?」
「とりあえず円が閉じていればよい。大事なのは発動させる魔法をその円の中に封じ込め作動させることだからな」
「じゃあこの文字っぽいところは最後に回すから、サツキちゃん今の内にお風呂入っちゃいなよ」
「いやしかし、祐介に任せっぱなしだというのもな」

 すると、床に座り込んで鉛筆なる物で下書きをしていた祐介が、呆れた様な視線を送ってきた。

「……なんだその目は」
「サツキちゃん、ベッドに座ってるだけでしょ。いいから入ってきなよ」

 何も言い返せなかった。正に事実そのものであったので。

 リアムはすごすごと支度をすると、風呂場に向かった。出血量は午前中より減ったとはいえ、まだまだ多い。残念だが、今日もシャワーで済まそう。リアムはそう思い、今度こそ間違わぬ様風呂場の扉をきちっと閉めてから服を脱いだ。

 昨日から今日までの激動の内容を、まだ少し冷たいシャワーの水を頭から被りながら思い出していた。露天風呂での出来事以降の祐介の急接近について、こうして冷静に振り返る時間がこれまでなかった。それ程にリアムは常に祐介と共におり、急ぎの買い出し以外は常に傍にいたからだ。さすがにこれは一緒に過ごしすぎなのではないか、そういう思いもあり、夜も共にいたいという祐介の申し入れを断った。

 多分、祐介は血迷っているのだ。サツキの身体には破壊力が備わっており、あれだけ若く元気な男であればこれだけ四六時中過ごせばそれは我慢の限界も来るだろう。しかも表向きには恋人同士ということになっている。祐介は、もしかしたら錯覚し始めているのではないか、リアムはそう推測していた。

 これは幾度も考えたことだ。祐介はリアムのことを女として扱っている。勿論身体は女だから、祐介からしてみたら至極当然のことであろう。だが最後まで手を出そうとしないのは、祐介も薄々理解しているからなのではないか。リアムはリアムのままなのだと。リアムがサツキになることはないのだと。

 いっそのこと、心まで女となれたら良かった。だがリアムの心はいつまで経っても男のリアムのままで、なのに男の祐介を好きになってしまった。男が男を好きになることもあろう。相手が男のリアムを受け入れてくれるのであれば、リアムとてすんなり納得がいった筈だ。だから問題なのは、身体が女であるということ、ただそれに尽きる。

 祐介は、暗闇の中であろうがリアムといたいと言ってくれた。あれがどれだけ嬉しかったことか。

 頭を洗い終わり、化粧を丹念に落とした。少しゆっくりと身体を洗い始める。今、自分が酷い顔をしていることは、鏡を見ずとも理解していたからだ。

 今ならまだ、元の世界に戻れるならば戻って、そしてここで起きたことは全て夢だったのだと忘れ去ることが出来るのではないか。祐介がいない世界に行ければ、祐介の存在などそもそもいなかったのだと自分に言い聞かすことが出来るのではないか。

 リアムがそこまで考えたその時。

 風呂場の扉が、バン! と乱暴に開かれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

処理中です...