460 / 731
第三章 上級編開始
第458話 OLサツキの上級編、フレイのダンジョンの火竜草の花探索の続き
しおりを挟む
二人手を繋ぎ、薄暗い、湿気を含んだ中を進む。
男女別の温泉の入り口付近に到着すると、ユラが手を離した。
「サツキ、念の為女湯の中に生えてないか見てきてくれるか?」
「うん、分かった」
木製の引き戸をカラカラと開け中に入ると、小さな石が敷き詰められた洗い場。その奥にはかなり広い露天風呂があった。サツキは天井を見上げた。前回、ルーンのダンジョンでは上には植物の目隠しがあったからだ。だがここはそういったものはなく、ただダンジョンの高い暗い天井が見えただけだった。
念の為、湯気で視界が悪い露天風呂の奥までぐるりと見てみることにした。火竜草はおろか、草の一本も生えてはいない。基本放ったらかしの設備なのだから雑草位すぐ生えてきそうなものなのに、と思って壁を見ると、ログハウスの中にあった魔法陣と似た様な物があった。その中心に、木の絵が描かれている。何となく、これの所為だと分かった。
「サツキー? 大丈夫か?」
外からユラの声がしたので、サツキは急ぎ戻ることにした。引き戸を開け顔を出すと、ユラがすぐ目の前にいた。
「ユラ、雷に打たれちゃうよ」
「外なら大丈夫だ。で、どうだった?」
サツキは先程中で見た魔法陣をユラに説明した。
「そっか……この階はきっちり管理が魔法陣でされてるってことなのかもな」
「ここまでも殆ど植物って生えてなかったよね?」
ユラが顎に手を当てつつ考え込む様に言う。
「前に来た時は、もっと大きな植物がいっぱい生えてた記憶があるんだよな」
「あれじゃない? 温度が上がったから、育たなくなっちゃったんじゃないかな」
気候変動があると、育ち易い植物の種類も変わる。暑くなった原因は分からないが、前に植物が生えていたというユラの記憶が確かなら、この気温の変化は一日二日で起こったものではないのだろう。
「下手をすると、他の階にもない可能性もあるな……」
「下に行けば行く程暑くなるなら、そうかもね」
「サツキ、お前結構頭いいんだな」
「私、とろいけどそこまで馬鹿じゃないと思うよ」
くすり、と笑ってそう答えると、ユラが薄く笑った。この笑顔も卑怯な笑顔だ。心臓を鷲掴みにするから。
ユラは、アールとウルスラの接近をどう捉えているのだろうか。ここでサツキが暗く思い悩んだところで何が変わる訳ではないだろうが、それでもユラが悲しむ姿は見たくはなかった。二人の様子が直接見えない様、移動や戦闘時以外は距離を置くのも一つの案かと思ったが、あの二人を二人きりにすればする程、距離も縮まってしまうに違いない。
あっちを取ればこっちが成り立たず、こっちを取ればあっちが成り立たず。
いっそのこと、サツキが何とかしてアールをサツキに向かせたらどうか。始めはかなりサツキに興味がある様だったから、完全に脈なしということはないだろう。
そしてそれからどうする? アールをユラから奪って、ウルスラからも奪って、大切な人を二人共失えばいいのか。
考えるだけで凹んだ。
「サツキ、さっきから何落ち込んでるんだよ」
「え? 別に何も」
「嘘つけ」
ユラがサツキの前に立つと、腰を屈めて伏せているサツキの顔を覗き込んできた。
男女別の温泉の入り口付近に到着すると、ユラが手を離した。
「サツキ、念の為女湯の中に生えてないか見てきてくれるか?」
「うん、分かった」
木製の引き戸をカラカラと開け中に入ると、小さな石が敷き詰められた洗い場。その奥にはかなり広い露天風呂があった。サツキは天井を見上げた。前回、ルーンのダンジョンでは上には植物の目隠しがあったからだ。だがここはそういったものはなく、ただダンジョンの高い暗い天井が見えただけだった。
念の為、湯気で視界が悪い露天風呂の奥までぐるりと見てみることにした。火竜草はおろか、草の一本も生えてはいない。基本放ったらかしの設備なのだから雑草位すぐ生えてきそうなものなのに、と思って壁を見ると、ログハウスの中にあった魔法陣と似た様な物があった。その中心に、木の絵が描かれている。何となく、これの所為だと分かった。
「サツキー? 大丈夫か?」
外からユラの声がしたので、サツキは急ぎ戻ることにした。引き戸を開け顔を出すと、ユラがすぐ目の前にいた。
「ユラ、雷に打たれちゃうよ」
「外なら大丈夫だ。で、どうだった?」
サツキは先程中で見た魔法陣をユラに説明した。
「そっか……この階はきっちり管理が魔法陣でされてるってことなのかもな」
「ここまでも殆ど植物って生えてなかったよね?」
ユラが顎に手を当てつつ考え込む様に言う。
「前に来た時は、もっと大きな植物がいっぱい生えてた記憶があるんだよな」
「あれじゃない? 温度が上がったから、育たなくなっちゃったんじゃないかな」
気候変動があると、育ち易い植物の種類も変わる。暑くなった原因は分からないが、前に植物が生えていたというユラの記憶が確かなら、この気温の変化は一日二日で起こったものではないのだろう。
「下手をすると、他の階にもない可能性もあるな……」
「下に行けば行く程暑くなるなら、そうかもね」
「サツキ、お前結構頭いいんだな」
「私、とろいけどそこまで馬鹿じゃないと思うよ」
くすり、と笑ってそう答えると、ユラが薄く笑った。この笑顔も卑怯な笑顔だ。心臓を鷲掴みにするから。
ユラは、アールとウルスラの接近をどう捉えているのだろうか。ここでサツキが暗く思い悩んだところで何が変わる訳ではないだろうが、それでもユラが悲しむ姿は見たくはなかった。二人の様子が直接見えない様、移動や戦闘時以外は距離を置くのも一つの案かと思ったが、あの二人を二人きりにすればする程、距離も縮まってしまうに違いない。
あっちを取ればこっちが成り立たず、こっちを取ればあっちが成り立たず。
いっそのこと、サツキが何とかしてアールをサツキに向かせたらどうか。始めはかなりサツキに興味がある様だったから、完全に脈なしということはないだろう。
そしてそれからどうする? アールをユラから奪って、ウルスラからも奪って、大切な人を二人共失えばいいのか。
考えるだけで凹んだ。
「サツキ、さっきから何落ち込んでるんだよ」
「え? 別に何も」
「嘘つけ」
ユラがサツキの前に立つと、腰を屈めて伏せているサツキの顔を覗き込んできた。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる