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第三章 上級編開始
第448話 OLサツキの上級編、フレイのダンジョンの地下十一階の仲直り
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ユラとサツキの間にファイヤーウルフの大きな身体が挟まっている為、多分傍から見たらサツキがユラの首にぶら下がっている様にしか見えないだろう。
そして案の定、ユラが文句を言った。
「全然ぎゅっとされてる気がしない」
「そうは言っても」
「これじゃない」
「これじゃないと言われても」
「じゃあ呼び戻した時みたいなキスしてよ」
「いや、今は必要ないでしょ」
「いーや必要だ。俺はまだちょっと怒ってるからな、ご機嫌を取らないとサツキが寝てる間に胸の谷間に指が突っ込まれるかもしれない」
またそれを言い出すのだ。でも本当に胸に指を突っ込まれるのは勘弁して欲しかった。というか、それを許可するのには清水の舞台から飛び降りる位の勇気が必要だ。学生の時に修学旅行で清水寺に訪れたことがあるが、あんな高い所から飛び降りるなんて、と思ったものだ。
「わ、分かった」
「しっかり頼むぜ」
「その応援の仕方やめて」
「ほら、早く早く」
わくわく、といった言葉がぴったりな表情で少し腰を屈めて待つユラの顔を見て、サツキはキュンとしてしまった。ああもう狡い。こうやってサツキまで追い詰めて捕らえようとするなんて、ユラは卑怯だ。他に好きな人がいるのに。
でも、それが分かっていてもユラといたいと思うサツキの方が、もっと卑怯だ。
サツキは、ユラの唇に触れた。この時が永遠に続けばいいのに。そう思いながら。
「――サツキ、何で泣いてるんだよ」
「え?」
サツキが顔を離すと、ユラこそ泣きそうな顔をしていた。サツキは自分の頬に触れてみたが、別に涙は出ていない。
「泣いてないよ?」
「泣くなよ」
「泣いてないってば」
「俺といるのが、……嫌か?」
ユラは一体何を言っているんだろう。泣いてもないのに泣いてると言うし、急に一緒にいるのが嫌かとか訳の分からないことを尋ねてきた。
「……嫌だったら、もうとっくにいないよ」
自分を守るのは得意だから。しつこい嫌な相手から手を出されずにのらりくらり躱せる。今までずっとそうして何とか無事に生きてきたから。だから、ユラからは逃げられないんじゃない。逃げる気がないのだ。何故なら、本当は隣にずっといたいから。
だから、この気持ちは伝えられない。ユラの気持ちがアールに向いている限り、ユラの心に入り込む隙間などないだろうから。それでも出来たら隣にいたい、だから言わない。仲間としてなら隣にいることが出来るだろうから。
「本当だな?」
「いつも何でも分かってる風に言うのに、今日はどうしたの」
「いや、だってそうでもないと理由が……」
「泣いてないって言ってるでしょ」
「サツキ……」
サツキはにっこりと笑ってみせた。本当は、自分の物にしたい。こんな自分でもいいところがある、自信を持てと言ってくれるユラが好きだ。大切で仕方ない。
そう思いながら、もう一度ユラにキスをした。
心の中で、好きだと幾度も繰り返しながら。
そして案の定、ユラが文句を言った。
「全然ぎゅっとされてる気がしない」
「そうは言っても」
「これじゃない」
「これじゃないと言われても」
「じゃあ呼び戻した時みたいなキスしてよ」
「いや、今は必要ないでしょ」
「いーや必要だ。俺はまだちょっと怒ってるからな、ご機嫌を取らないとサツキが寝てる間に胸の谷間に指が突っ込まれるかもしれない」
またそれを言い出すのだ。でも本当に胸に指を突っ込まれるのは勘弁して欲しかった。というか、それを許可するのには清水の舞台から飛び降りる位の勇気が必要だ。学生の時に修学旅行で清水寺に訪れたことがあるが、あんな高い所から飛び降りるなんて、と思ったものだ。
「わ、分かった」
「しっかり頼むぜ」
「その応援の仕方やめて」
「ほら、早く早く」
わくわく、といった言葉がぴったりな表情で少し腰を屈めて待つユラの顔を見て、サツキはキュンとしてしまった。ああもう狡い。こうやってサツキまで追い詰めて捕らえようとするなんて、ユラは卑怯だ。他に好きな人がいるのに。
でも、それが分かっていてもユラといたいと思うサツキの方が、もっと卑怯だ。
サツキは、ユラの唇に触れた。この時が永遠に続けばいいのに。そう思いながら。
「――サツキ、何で泣いてるんだよ」
「え?」
サツキが顔を離すと、ユラこそ泣きそうな顔をしていた。サツキは自分の頬に触れてみたが、別に涙は出ていない。
「泣いてないよ?」
「泣くなよ」
「泣いてないってば」
「俺といるのが、……嫌か?」
ユラは一体何を言っているんだろう。泣いてもないのに泣いてると言うし、急に一緒にいるのが嫌かとか訳の分からないことを尋ねてきた。
「……嫌だったら、もうとっくにいないよ」
自分を守るのは得意だから。しつこい嫌な相手から手を出されずにのらりくらり躱せる。今までずっとそうして何とか無事に生きてきたから。だから、ユラからは逃げられないんじゃない。逃げる気がないのだ。何故なら、本当は隣にずっといたいから。
だから、この気持ちは伝えられない。ユラの気持ちがアールに向いている限り、ユラの心に入り込む隙間などないだろうから。それでも出来たら隣にいたい、だから言わない。仲間としてなら隣にいることが出来るだろうから。
「本当だな?」
「いつも何でも分かってる風に言うのに、今日はどうしたの」
「いや、だってそうでもないと理由が……」
「泣いてないって言ってるでしょ」
「サツキ……」
サツキはにっこりと笑ってみせた。本当は、自分の物にしたい。こんな自分でもいいところがある、自信を持てと言ってくれるユラが好きだ。大切で仕方ない。
そう思いながら、もう一度ユラにキスをした。
心の中で、好きだと幾度も繰り返しながら。
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