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第三章 上級編開始

第431話 魔術師リアムの上級編二日目のキス

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 これは、どう考えても口づけではなかろうか。

 リアムは、自分の耳に唇を押し当てながら話す祐介に、大いに戸惑っていた。祐介が続ける。

「僕、今すごーく安心してるよ。サツキちゃんはしてないの?」
「も、勿論私だってだなっ」

 またもや首筋がぞわぞわしてしまい、リアムはとりあえず逃げようとし、祐介を振り返った。そして後悔した。こんな近くにいるのだ、当然のことながら顔が近くなることは予想出来る筈だった。

 唇と唇が、一瞬掠った。

「あ」

 瞬間、祐介がものの見事に真っ赤になってしまった。リアムの心臓もそれはもうバックバクいっているので、きっと似た様なものに違いない。

「……キスしちゃった」

 祐介が呟いた。真っ赤になったまま。

「ゆっ祐介が近いからっ」

 そして今も近い。祐介よ、そろそろ離してはくれないか。もう心臓がもたなくなるかもしれぬ。

「だってまさか振り返るとは思ってもなくて、あは、あはは」
「それはだな! 祐介が私の耳にっ」
「ぞくぞくしてたよね」

 祐介が火照った顔をして笑った。リアムは慌てて祐介の口に手を当て、後ろに押す。

「そういうことを口にするでないっ恥ずかしいではないか!」
「あは、ごめん」

 祐介が笑いながら、祐介の口に当てられた手を掴んで取ってしまった。そして、首を傾げた。

「でもこれって本当に初めてかな……何か僕、夢で見た様な」
「なななななな何のことだ祐介っ祐介はあれだ、眠りが深いたちだからなっ夢でも見たのであろう!」
「滅茶苦茶動揺してるけど大丈夫?」
「こ、これは武者震いだ!」
「……何に?」

 しまった。言葉の選択を完全に間違えた。リアムは大いに慌てた。目があっちへとそっちへと泳ぎまくり、もうどうしたらいいものやら完全に分からなくなり、とりあえず逃げようという選択肢しかもう残っていなかった。

 力一杯、祐介の拘束から出ようとジタバタ足掻くが、祐介は一向に離さない。

「ゆ、祐介! とりあえず一旦だな、ここは距離を置いて冷静に状況を判断するべきかと!」
「逃げなくてもいいでしょ」
「いや! 冷静な判断というものはだな、俯瞰ふかんして見るからこそ分かることであってな!」
「俯瞰」
「そう、俯瞰だ! 分かってくれたか、祐介!」
「言いたいことは分かるよ」

 リアムが必死で逃げ出そうとしているというのに、祐介はにこにこして拘束を解かない。

「分かるのならっ」
「だってまだ答えてもらってないし」
「何をだっ」
「僕の夢の内容、知ってるっぽくない?」

 リアムはぎくりとした。恐る恐る祐介を振り返ると、祐介は実に楽しそうににっこりと笑っている。

「僕、何とは言ってないんだけど」
「よ!」
「よ?」
「予測をしたのだ! 私は天才魔術師だからな! これまでの状況証拠から構築し結論付けるのは得意なのだ!」
「ふーん。じゃあ武者震いって、何に?」
「そっそれは……!」

 祐介がリアムの首にそっと触れた。

「ちゃんとしたいの?」
「へ?」

 間抜けな声が出た。

「ちゃんとしたキスをしたいの?」
「ゆ、ゆ、ゆ」
「うん? 何?」

 祐介は懸命に笑いを堪えている。こやつ!

「馬鹿者が!!」

 リアムは、真っ赤になって半泣きになりながら、怒鳴った。
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