上 下
424 / 731
第三章 上級編開始

第422話 OLサツキの上級編、フレイのダンジョン・フルミネシュトルム

しおりを挟む
 その光景は、まるで嵐の中を飛んでいるかの様に感じた。

「やっぱりサツキが唱えると迫力が違うなー」

 ユラが目の上に手を翳して、呑気に言った。

「魔石の所為もあるんじゃない?」
「あ、それもあるか。にしてもやっぱ規模がでかいよ」
「そういうものなんだ」
「そういうものなんだよ」

 バリバリバリ!! と物凄い音を立てて辺りが一瞬真っ白に染まった後、ふ、と雷雲が消え、視界が元に戻った。大蜘蛛の姿はどこにもなく、代わりに落ちていたのは赤いキラキラとした丸い石の様な物だった。それがジャラジャラ転がっている。

 ユラがそれに近づき翳して見た。目を近付けたり遠ざけたりして確認している様だ。そしてウルスラを振り返った。

「ウルスラ、これ売れるんじゃねえか? ファイヤースパイダーの目って確か宝石として高値で売れなかったか?」

 するとウルスラが猛スピードで走ってくると、地面に落ちている赤い物を掻き集めつつサツキを嬉々とした顔で見上げた。

「でかしたわサツキ! これは通称太陽の石! 冷え性の女性に大人気の石よ!」
「冷え性」
「アイスの魔法や剣だと落とさないアイテムだったみたいね!」
「雷効果がもしかしたら影響してるのかもしれねえなあ」

 ユラが言った。ウルスラが人差し指をユラに向けた。

「きっとそれよ!」
「水はどうなんだろうな? でもこれだけ複数で出てくるなら、フルミネ連発よりもフルミネシュトロムの方が効率は良さそうだけど」

 ユラはそう言うと、じいっとサツキを見つめ始めた。きっとあれだ、魔力残量を見ているのだろう。暫くすると、ユラが頷いて言った。

「まだまだあるな。回復はぎりぎりでやれば、温泉階までこの調子でいけるかもしれない」
「よーし! バンバンゲットするわよサツキ! ほらアール! 拾うのを手伝って!」
「はーい!」

 ウルスラは鞄から瓶を取り出すと、アールと手分けして瓶に詰め出した。

 それを眺めていたユラが、目を擦りながらサツキにぴったりくっついているユラなラムに話しかけた。

「そこ近い。――今サツキがやってみせたのが嵐ってやつだ。どうだ、あれで感覚は掴めたか?」
「うーん、多分」
「お前が戦力になるとサツキが楽になるからな、頑張れよ」
「――うん!!」

 ユラなラムがキラキラと目を輝かせて満面の笑みを見せた。うおおお。新鮮、可愛い! サツキは興奮した。ユラは頷いたラムを見て頷くと、サツキに言った。

「ほら、さっさとイルミナ・フィンを掛けろよ」
「え? だって折角お喋り出来る様になったのに」
「俺の姿でベタベタしやがって、俺が嫌なんだよ」
「じゃあ見なきゃいいじゃない」
「そういう問題じゃねえよ。ほら早く。俺がイルミナ・フィンを掛けるとおかしなことになるかもだぞ」

 サツキとラムは顔を見合わせると、名残を惜しむ様に手を繋いだ。

「また今度話そうね、ラムちゃん」
「うん!」
「いいから」
「分かったってば。イルミナ・フィン!」

 サツキが呪文を唱えると、朗らかなユラの姿は消え失せ、いつものラムがそこに立っていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...