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第三章 上級編開始

第419話 魔術師リアムの上級編二日目開始

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 祐介はほかほかだ。だから祐介と接触した部分は大体その内汗ばんでくる。

 本来なら汗をかいた男と肌が触れ合うだけでも御免であるが、祐介の場合は何とも思わない。これが人を好くということなのだと、リアムは初めて知った。祐介に包み込まれる様に守られ、これがどれだけ幸せなことか。

 これまで好印象だった女性達とは尽く続かなかったが、あれはリアムが包容力がある方ではなく、実は包容力がある者に魅力を感じる性質があったからかもしれない。

 このことにしても、祐介と出会って初めて気付いたのだから、我ながら呆れてしまうが。

 リアムは装着している生理用品に違和感を感じ、まだ暗い中トイレに向かった。確認してみると、元は白かったそれが真っ赤に染まり、タプタプしていた。リアムは思わずクラクラし、便座に座りながら頭を抱えた。そして、また腹が痛くなってきていた。薬の効果が切れたのだろう。

 今日は一日、まともに動けそうもない。リアムは情けないと思ったが、だがこれは純粋にきつかった。無理を通してもいいことはあるまい。大人しく過ごすのが良策と思われた。

 トイレで交換して部屋に戻ると、祐介がベッドに腰掛けていた。

「すまん、起こしてしまったか?」
「いや、そうじゃなくて。いないなと思って。――お水飲む?」
「ああ、そうだな。汗をかいてしまったので欲しい」
「ちょっと待ってて。座って待っててよ」
「ああ」

 すれ違いざま、祐介はリアムの頭をわしゃ、と撫でていった。

「祐介……」
「ん?」

 は、と気付いた時にはもう遅く、リアムは流しに向かっていた祐介の背中にしがみついていた。

「サツキ、ちゃん?」

 祐介が戸惑った様な声色で言った。それはそうだろう、自分から触れようとしないリアムがいきなり抱きついてきたのだ。

「は、腹が痛くなってきた」
「え? 大丈夫?」
「薬が欲しいのだ」
「薬? うん、分かった、用意するから」
「祐介」
「うん? どうしたの?」

 祐介が否定の言葉など言わないのを分かっていて、リアムは口に出した。

「私は本当にここにいていいのだろうか。本当にこのまま、祐介といていいのだろうか?」
「何言ってんの、いいに決まってるでしょ」
「だが私はサツキではないのに」

 祐介の返答が、止まった。

 暫くして、祐介が言った。

「振り向きたいから少し手を離して」
「……嫌だ」
「じゃあ無理やり向く」

 祐介はそう言うと、リアムの手首を掴んで力づくで剥がした。そしてそのままくるっと振り返ると、なんとリアムの腰に手を回しそのまま抱き上げてしまったではないか。リアムは咄嗟に顔を逸した。

「こっち見て」
「……嫌だ」
「じゃあ、無理やり見る」

 祐介はそう言うと、スタスタとベッドまでリアムを運んだかと思うと、ベッドにリアムを仰向けに寝かせ上に跨ってしまった。なななななにをしているのだ、祐介は! リアムは激しく動揺した。

 祐介はリアムの肩を腕で押さえつけ両手で頬を押さえると、上から覗き込んだ。

「聞いて」
「断る」
「じゃあ勝手に話す。――あのね、君がどう思ってるか知らないけど、僕は別に暗闇の中にずっといて君の姿が見えなくたって、君といたいんだ。だから、すぐにそうやっていなくなりそうなことを言わないでくれる?」

 祐介の声は、怒っていた。
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