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第三章 上級編開始

第373話 魔術師リアムの上級編初日の悪夢

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 リアムが水を飲みつつ涼んでいると、タオルを腰に巻きつけた祐介が風呂から上がってきた。髪の毛の寝癖は直したらしい。

「後でさ、大浴場も行こうよ」
「うむ。私は結局行ってないからな」
「男湯はとりあえず広かったよ。露天風呂も大分広かった」

 広い露天風呂。是非行ってみたいものだ。時刻を確認すると、まだ五時過ぎだった。

「もう少し寝ておくか」

 やはりどうも身体が重い。腰の辺りが痺れている様な変な感覚があるのだ。昨日まではなかったこの感覚に、リアムは何かが近づいてきているという不安を拭えなかった。

「僕も実はまだ眠い」

 布団の上でゴロゴロしていたリアムの元に祐介が来ると、同じ様に横に寝転んでリアムの顔を覗き込んだ。

「……目が赤いよ」

 ぎくり、とした。やはり先程、泣いていたのではないかと心配されているのではないだろうか。ここは何とか顔を隠したい。しかし祐介が目の前にいるのに背中を向けるのもいかがなものか。

 考えた結果。

 ゴロゴロと転がり、祐介の胸の中にぽすっと納まった。そして嘘をつくことにした。

「……少々怖い夢を見た」

 祐介が、はっと息を呑んだ。

 夢ではない。近い内訪れるであろう怖い未来を想像したのだ。でもきっと、いずれこれは夢にも出てくるだろうから、あながち間違いでもない。

「……昨日、おやすみのキスしたんだけどな」
「寝ていたから聞こえなかった」
「だから効き目がなかったのかもね」

 祐介が腕を片方布団に投げ出した。

「頭乗せて」

 言われるがまま、腕に頭を乗せてみた。正直安定感に欠けるが、だが暖かい。

「サツキちゃん、もう身体冷えてるよ」
「うむ……そうなのだ」

 何故か身体が冷えて仕方がない。これは昨日からだった。一体どうしたというのだろうか、本当に分からない。

 すると、祐介が祐介の方の布団を引っ張ってくると、二人の上に掛けた。次いで、リアムのおでこにキスをした。

「もう少しおやすみ。温めてあげるから」
「……祐介はすぐそうやって私を甘やかす」
「昨日は思った程甘やかさなかったから、今日に延長します」
「ふふ、何だそれは」

 だが、確かに人肌は暖かい。そして祐介の腕の中は、心地がいい。

 抱きついてしまっても、いいだろうか。ふとそんな考えが頭をよぎった。

 サツキと思われていてもいい。どうせこの先、ずっとサツキとして生きていかねばならないのだ。ならば。

 祐介の胸に腕を回し、ぎゅっとした。

「サツキちゃん?」
「暫くしがみつかせてくれ」
「暫くじゃなくてもいいんだけど」
「ではそうさせてもらう」
「……え、本当?」

 リアムは答える代わりに、祐介の胸に顔をうずめた。途端、涙がまた溢れてきた。嗚咽が漏れてしまう。これはどうしたものか。

「ああ、そんな泣いて……ええと、よしよし」

 祐介は、もう何も聞かなかった。聞かずに、優しくリアムを包んでずっと頭を撫でてくれていた。
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