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第三章 上級編開始

第372話 OLサツキの上級編、メルトの呪文

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 サツキとユラが朝食を済ませた後は、サツキのメタモラが解けるまで家で待機だ。

 その間、サツキとユラはソファーにゆったりと座りながら、魔術書から呪文を探していた。

「ないなあ。俺もその呪文は知ってるんだけど、文献は読んだことがないんだよな」
「上級魔法の魔術書にはないかな?」
「メルト、あったっけなあ」

 そう、サツキが気になっていたあの呪文のことを調べたかったのだ。

 ユラがサツキの肩にもたれかかりながら、サツキがめくっている魔導書を覗き込んだ。重い。

「でも何でメルトのことを知りたいんだ?」

 そろっと肩に手を掛けてきた。外してもまたああだこうだ言われそうなので、サツキはそのままにすることにした。今はとにかく呪文の方が大事だ。心臓がバクバクいって壊れそうだが、きっと壊れはしない。大丈夫だ、そう言い聞かせながら。

「前にユラが言ってたでしょ? リアムがゴブリンの大群に追われて床に大穴を空けた時に使ってた呪文が『メルト』だって」
「言ったな」

 そろ、と手が胸元に降りてきたので、サツキはその手をピシャ! と叩いた。チッという舌打ちが聞こえたが無視する。

「危険が迫った時に咄嗟に唱えたってことは、それがリアムの得意な呪文なんじゃないかって思って」
「得意かもな。ちょいちょい使ってたぞ」

 胸は諦めたらしく、今度は腰に手を伸ばしてきた。本当に真面目に話を聞いているんだろうか。

「じゃあ、ドラゴンに焼かれそうになった時、唱えたかもしれないよね?」
「……どういうことだ?」

 ユラの手がようやく止まった。やはり先程まではろくに聞いていなかった様だ。

 サツキは真剣な眼差しでユラの目を見た。これはかなり重要なことだから、きちんとユラとも情報を共有しておきたかった。リュシカの話を聞いているのはサツキとユラだから、そこに繋がるヒントが何かあるかもしれないから。

「私とリアムと、死んだと思ったタイミングは一緒だったのかもしれない。リュシカさんが言う様に、お互いのいかりとなる物がお互いの世界に逆にあったんだとしても、でもただ死んだからって交換するかな? だから、思ったの。もしかしたら、咄嗟に唱えたのがメルトで、それが物じゃなくて空間を溶かしたとしたら」

 ユラが言っていた。あれはまるで空間ごと溶かしたかの様だったと。

「……リアムが空間を溶かしたから、道が出来た?」

 ユラが考え込む様に尋ねる。サツキは頷いた。

「問題は、じゃあ何で私の所まで溶かしちゃったのかってことよ。そこで考えたの」

 サツキは息を一つ吐くと、ずっと考えていたことをユラに伝えた。

「私の近くに、リアムの碇があったんじゃないかって。その時たまたま私が死んだと思って、それでお互いが入れ替わっちゃったんじゃないかな、と」
「でも、サツキの碇だってこっちにあるって言ってたろ? リアムだけが原因じゃないと思うぞ」

 それはそうかもしれない。それにしても。

「碇って一体、何だろう?」

 物なのか人なのか、それとも場所なのか。始めから定まっているものなのか、それとも何か条件があるのか。

「サツキ、今回のダンジョンが終わったら、もう一度リュシカの所に行かないか?」

 ユラが提案した。
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