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第三章 上級編開始
第369話 魔術師リアムの上級編初日、祐介の焦り
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リアムがのんびりと露天風呂に浸かっていると、部屋の方からバタバタとする音が聞こえ始めた。祐介が起きたのだろうか。祐介は普通に起きていた様だから、まだ睡眠は足りない様に思うが。
もしかしたら厠……ではない、こちらの言葉ではトイレというのだった。そのトイレでの用足しで起きたのかもしれないな、とリアムは思った。
風呂に浸かる以外することもないので、リアムは耳を澄まして中の音に集中する。壁を隔てたところに祐介がいる、そう思うだけで心がじんわりと温かくなるのは、もうどうかしているとしか思えない。いつの間にこれ程祐介に惹かれていたのか。我ながら呆れた。
まだバタバタと音がする。一体何をしているのだろうか。部屋の中を移動している様だが。
すると、段々と足音がこちらに近付いてきた。
「え」
今、リアムは完全に裸である。そして湯は無色透明だ。鍵は……掛けていない。あったことすら気付かなかった。身を隠せる様な小さいタオルも持ってきていない。リアムは扉に向かって急いで背を向けた。
リアムが背を向けるのと、扉が開かれるのとはほぼ同時だった。
「……いた」
少し枯れた祐介の声がした。焦りと安堵を含む様なその声色に、リアムは顔だけ少し後ろに向けた。
そこには、浴衣の前がややはだけた状態の祐介が立っていた。そして寝癖が酷い。リアムはそのあまりにも可愛らしい姿に、思わず笑みを零した。
「祐介、寝癖が酷いぞ。それにその格好も」
「あ」
祐介は慌てて前を閉じ合わせると、次いで頭に手を触れ、そして笑った。笑った後、真顔に戻った。一体どうしたというのだろうか。随分と焦っていた様子である。
「どうした? 何かあったのか?」
裸を晒しながら聞くことでもないかとは思ったが、祐介も立ち去る様子はない。ならばここはまず祐介がどうしたのか、話を聞き出してあげようと思った。
祐介が、言った。
「起きたらいなくて、それで不安になって、靴は玄関にあるし、トイレにもいないし、焦って、それで」
リアムは思わず笑ってしまった。
「はは、それで慌てて探しに来たのか」
「……うん」
「しかしな、祐介」
「うん」
「私は今裸だぞ?」
「そうですね」
「いつまでもそこに突っ立っていられると、一向に上がれないのだが」
言外に、早く戻れと言ったつもりだった。勿論、祐介だったら分かるだろうと思い。だが、祐介の返答は違った。
「焦って汗かいたから、僕も入る」
「へ?」
「そっち向いててよ」
「え、お、おお」
まあ、昨日同じ風呂には浸かってはいる。だから初めてではない。ただ、とリアムは今自分が浸かっている風呂を見た。二人で入るにはぎりぎりの大きさしかないのだ。
衣擦れの音がし、祐介がこちらに近付いてくる足音も聞こえた。ちゃぽ、と足を浸ける音と、祐介の気配。拙く……ないだろうか。いやこれは拙いだろう。さすがに拙い。肌が直接触れる距離しかないのは目に見えているのだから。
「ゆ……」
「思ったよりも狭いね」
祐介が腰を下ろすと、湯船から湯が湯気を上げてザバッと溢れた。
祐介の手が、背後からリアムを引き寄せた。
もしかしたら厠……ではない、こちらの言葉ではトイレというのだった。そのトイレでの用足しで起きたのかもしれないな、とリアムは思った。
風呂に浸かる以外することもないので、リアムは耳を澄まして中の音に集中する。壁を隔てたところに祐介がいる、そう思うだけで心がじんわりと温かくなるのは、もうどうかしているとしか思えない。いつの間にこれ程祐介に惹かれていたのか。我ながら呆れた。
まだバタバタと音がする。一体何をしているのだろうか。部屋の中を移動している様だが。
すると、段々と足音がこちらに近付いてきた。
「え」
今、リアムは完全に裸である。そして湯は無色透明だ。鍵は……掛けていない。あったことすら気付かなかった。身を隠せる様な小さいタオルも持ってきていない。リアムは扉に向かって急いで背を向けた。
リアムが背を向けるのと、扉が開かれるのとはほぼ同時だった。
「……いた」
少し枯れた祐介の声がした。焦りと安堵を含む様なその声色に、リアムは顔だけ少し後ろに向けた。
そこには、浴衣の前がややはだけた状態の祐介が立っていた。そして寝癖が酷い。リアムはそのあまりにも可愛らしい姿に、思わず笑みを零した。
「祐介、寝癖が酷いぞ。それにその格好も」
「あ」
祐介は慌てて前を閉じ合わせると、次いで頭に手を触れ、そして笑った。笑った後、真顔に戻った。一体どうしたというのだろうか。随分と焦っていた様子である。
「どうした? 何かあったのか?」
裸を晒しながら聞くことでもないかとは思ったが、祐介も立ち去る様子はない。ならばここはまず祐介がどうしたのか、話を聞き出してあげようと思った。
祐介が、言った。
「起きたらいなくて、それで不安になって、靴は玄関にあるし、トイレにもいないし、焦って、それで」
リアムは思わず笑ってしまった。
「はは、それで慌てて探しに来たのか」
「……うん」
「しかしな、祐介」
「うん」
「私は今裸だぞ?」
「そうですね」
「いつまでもそこに突っ立っていられると、一向に上がれないのだが」
言外に、早く戻れと言ったつもりだった。勿論、祐介だったら分かるだろうと思い。だが、祐介の返答は違った。
「焦って汗かいたから、僕も入る」
「へ?」
「そっち向いててよ」
「え、お、おお」
まあ、昨日同じ風呂には浸かってはいる。だから初めてではない。ただ、とリアムは今自分が浸かっている風呂を見た。二人で入るにはぎりぎりの大きさしかないのだ。
衣擦れの音がし、祐介がこちらに近付いてくる足音も聞こえた。ちゃぽ、と足を浸ける音と、祐介の気配。拙く……ないだろうか。いやこれは拙いだろう。さすがに拙い。肌が直接触れる距離しかないのは目に見えているのだから。
「ゆ……」
「思ったよりも狭いね」
祐介が腰を下ろすと、湯船から湯が湯気を上げてザバッと溢れた。
祐介の手が、背後からリアムを引き寄せた。
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