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第二章 中級編開始

第362話 OLサツキの中級編四日目、帰宅

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 サツキの世界でいうタコスの様な物を買い、サツキとユラとついでにラムはマグノリアの家に帰ってきた。手を洗い、テーブルを拭いて着席した途端、ユラが実に美味しそうにかぶりつく。クールな顔をしている癖に、一口が異様にでかい。そして口の端にさっそくソースが付いていた。

 サツキは可愛いものが好物だ。こういう時折見せる子供の様な部分は、正直サツキのストライクゾーンど真ん中だ。従って思わず声が出そうになったが、堪えた。代わりに極力平静を装い、冷静に聞こえる様指摘した。

「ユラ、付いてるよ」

 折角綺麗になった法衣にでも付いたら大変だ。というか法衣は脱いでおけばいいのに、そういうところもユラはなかなかの面倒臭がりの様だ。

「何でにやけてんだよ」

 ユラがもぐもぐしながらサツキを見て言った。

「にやけてないよ」
「嘘つけ」
「嘘ついてないもん」
「よく言うぜ本当」

 ユラが呆れた様に笑う。ああ、その笑顔も可愛いな、そう思う。自分の中の想いを自覚して以降、段々止められなくなってきている。だからサツキは目を伏せユラを見ない様にし、必死に唱えた。ユラはアイドル、遠くから愛でる存在、ユラはアイドル、近付いたら駄目な存在、と。

 ユラの想いはアールにあるんだから。サツキの想いが万が一ばれて、ゴミでも見る様な目つきで見られたら、もう立ち直れなさそうだった。

 過度な好意はサツキとユラの間には求めてはいけない。ユラは寂しさを埋める為かちょっと接触は多めだが、キスについては理由があると言っていたし、サツキがユラの心に入る隙はない。ないから、何も期待してはいけない。

 サツキは同じパーティーの仲間だ。ユラは仲間の独り立ちをサポートしているだけ。それだけだから。

「……今度は何で泣く」
「泣いてない」
「抱き締めていい?」
「駄目」

 優しくされればされる程、離れがたくなる。いっそのこと、早くユラとアールが出来上がってしまえばいいのにな、そう思った。

「サツキはさ、もっと自信持てよ」
「……一体どこに持てばいいの」

 そして何故ユラが泣きそうな顔になってるんだか。

「お前さ、自分のことをもっと好きになってやれよ。何でそんなに自分を卑下するんだ? お前のいいところはいっぱいあるのにさ」
「人畜無害なところ?」

 サツキは自嘲気味に笑った。もう散々考えた。自分にも、人に誇れる部分がありはしないかと。この間、ラムに好かれる理由をユラに言われて、ようやくそれだけは捻り出した。

 他には、どこも見つからなかった。

 何故自分はここにいるんだろうか。リアムの代わりにここにいても許されるんだろうか。本当は誰か他の人とリアムが入れ替わる予定だったんじゃないのか。そこにたまたま間違って入ってきたのがサツキだったのなら、納得もいく。

 もう消えたい。

 そう思った瞬間、ユラが怒りの形相で怒鳴った。

「サツキ! お前何考えてんだよ!!」

 サツキはビク! と身体を震わすと、恐怖で咄嗟に立ち上がった。ユラも立ち上がる。怒気が立ち上っていて、怖い。どうしてこの人は急に怒ったんだろうか。

 サツキの頬を涙が伝った。それを自身で悟った瞬間、サツキは駆け出した。
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