上 下
346 / 731
第二章 中級編開始

第344話 OLサツキの中級編四日目、帰宅

しおりを挟む
 ドラちゃんにただいまを言うと、カチ、と鍵が開いた音がした。

「じゃあちょっと急いで着替えつつ変身してくる!」
「おお。早めにな。あ、昼は外で食うか」
「あ、そうだねそうしようか」
「じゃあ夕飯の仕込みしておく」
「え?」
「何だよ文句あるか? ほら、早く行け」
「あ、は、はい」

 サツキは急いで寝室のクローゼットに向かうと、買っておいた女物の服と下着を取り出した。

「メタモラ! 野原サツキ!」

 ぐぐ、と魔力が減る感覚と共に、身体が変わっていったのが分かった。ぶかぶかになったリアムの服を脱いで畳むと、用意しておいた女物の服を着用する。これが自由自在に想像だけで着用出来る筈なのだろうけど、どうもその想像が出来ない。結局今も裸の変身だった。これでは、へっぽこ僧侶ならぬへっぽこ魔術師だ。変化の魔術師なんていう格好いい二つ名だってあるのに、その変化が裸オンリーじゃあ。

 それにしても、とサツキは思う。今日は帰らせるつもりだったのに、あれはもう普通にこの家にいる気でいる。夕飯の仕込みって何してるんだろうか。まあユラのご飯は美味しいから有り難いは有り難いけど、その後ちゃんと帰ってくれるだろうか。

 そして胸に引っかかった服を下にぴん! と引っ張って、とんでもないことに気が付いた。これから二十四時間、サツキは女じゃないか。これって拙くないか? あ、でもユラは現在進行系で男が好きかもと言っていたから、じゃあ大丈夫か。

 考えても分からない。とりあえずユラだって法衣を取りに行ったりしないといけないだろうし、一度はとにかく家に帰らないといけないのだ。夕飯を食べたら帰ってもらおう、そうしよう。

 サツキはその方向で何とかユラに納得させようと考え、さてどう切り出すべきか分からなくなってしまった。

 ユラがこの家にいたがる理由は簡単だ。ここがマグノリアの家だからだ。単純明快である。だからそこに他意はない筈なのに、何だってあの人は事あるごとに至近距離まで近づいてきたりキスしたりするんだろうか。

 サツキは女だけど身体はリアムというおっさんだ。ユラが男が好きかもと言っていた男ではあるが、中身は女だ。

 だから分かっている、ユラはそういうつもりでしているんじゃないってことは。何故か聞いても教えてくれないけど、何か理由があってやっている様なのも。

 でも、辛かった。ドキドキするのは、正直アイドルと過ごしているみたいで楽しい。でもその後に襲ってくる虚しさに、心を抉られそうになるのだ。

 夢を見るなと。これはお前の物ではない、期待するなという現実が、サツキを突き刺す。

 好きになってはいけない。そこにお前の場所はないと、現実が指し示しているから、だから辛い。

 つい期待しようとする自分を戒めなければならない現実が、辛かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

処理中です...