上 下
335 / 731
第二章 中級編開始

第333話 魔術師リアムの中級編五日目の温泉街の続き

しおりを挟む
 ずっと一緒にいたいと思っているか。

 今、確かに祐介はそうリアムに尋ねてきた。リアムは思わず祐介の目を真っ直ぐに見てしまい、それが失敗だったことに気が付いた。

 祐介は、いつものにこにこで穏やかな笑顔はしておらず、狂おしいまでに切なそうな表情をしていたのだ。リアムがむずむずとしてしまって居心地が悪くなる、あの顔だった。

 そしてここで目を逸してしまったら、一緒にいたくないと言ってしまうも同義である。いたい。リアムは祐介とまだまだ一緒にいたい。でも、祐介には未来があって、他の女子おなごと知り合う機会をこの中途半端なリアムが奪っていい訳もなく、だが。

「ゆ……」
「ゆ?」

 立ち止まってリアムを見つめる祐介の目が真剣過ぎて、リアムの心に焦りが生まれる。落ち着け、落ち着くのだリアム!

「祐介が、私といたいと思う限りは」

 相手に判断を任せるだけの非常に狡い言葉が、口から飛び出てきた。祐介はリアムのその言葉の意味について考えているのだろうか、暫し無言になった後、ふ、と笑顔に戻った。

「ん、まあ今はそれでいいや」
「今は?」
「うん、今は」

 にっこりと笑う様はいつも通りだが、手に籠もる力だけはいつもよりも強かった。

「何か会社にもお土産買わないとだね。明日帰りに買うけど、目星付けておこうか」
「あ、ああ、そうだな」

 祐介はそう言うと、土産物が並ぶ店舗の中へと踏み入った。その背中が少し怒っている様に見えるのは、リアムの気の所為であろうか。

 土産物を祐介に手を引かれながら眺めつつ、リアムはつらつらと考える。祐介は本当にいい奴だ。こんなどうしようもない状況に陥ったリアムに手を差し伸べてくれ、羽田からも身を呈して守ってくれ、今だとてこうやってリアムの我儘に付き合って温泉まで連れてきてくれている。

 祐介は、きっと寂しいのだろう。リアムがパーティーのメンバーに囲まれながらもどこか常に寂しさを感じていた様に、祐介も職場の人間と日々を過ごしながらも、心の中に空虚を抱えていたのかもしれない。

 リアムに足りなかったのは大切な物の存在だ。半生を共に生きた師はもうなく、帰宅しても目に映るのは師との思い出ばかり。見るとつい思い出す。それ程に色んなとんでもないことを次から次へとやらかした師だったから、それは記憶に強烈に彫り込まれていたから。

 だから逃げるかの様にダンジョンに潜った。潜って潜って、その結果ドラゴンに焼かれ、ここに辿り着いた。

 まるで、祐介の空虚に導かれたかの様に。

 そしてふと、リアムは疑問を感じた。最後に放った氷の魔法。確かに放った筈だったが、目に見た記憶がなかったのだ。魔力が尽きかけようとしていたからだと思っていたが。

「いや、まさかな」

 すると、祐介が振り返った。

「何が?」
「いや、何でもない。――祐介、これは一体何という食べ物だ?」
「温泉饅頭。甘いよ」
「うむ……」
「サツキちゃんなら塩辛とかがいいかもねー」

 塩辛。如何にもリアムが好きそうな名前である。祐介が手を引っ張って連れて行くのを、リアムはわくわくしてついて行くことにしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

処理中です...