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第二章 中級編開始
第329話 魔術師リアムの中級編五日目の温泉の駅に到着
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特急電車に乗ること一時間半。電車は終点の駅に到着した。
人がぞろぞろと改札に向かって進む中、祐介はリアムを壁際につれて行くと空いているベンチを見つけてリアムを座らせ、その隣に立って人の流れが途切れるのを待っていた。まだ人混みの中をうまく歩けないリアムの為であった。
「いやー凄い人だね」
はは、と祐介がにこやかに話しかけてくる。リアムはあまりの人の多さに気圧されてしまい、少し顔が引き攣ってしまっていた。リアムの世界はここまで一箇所にいる人の数は多くない。満員電車の一駅はいつも祐介が守ってくれて空間が確保されていたが、あれの様な混雑で流れている人の波。正直、恐怖であった。
「ゆ、祐介」
咄嗟に祐介の腕に縋った。すると、小さく笑った祐介がリアムの隣にしゃがみ込むと、リアムの膝の上に手を置いて握り締めてくれた。
「サツキちゃんは人がいっぱいなのが苦手みたいだね」
「こ、こんなに人がいるとな、どうしていいか分からなくなってな」
「怖いものなしのサツキちゃんの苦手な物を発見だね」
くす、と祐介が笑った。祐介がリアムを見上げて尋ねてきた。
「他に苦手な物って何があるの? 甘い物はあまり得意じゃないって言ってたよね? あとは?」
「そうだな……犬がやや苦手ではあるな」
「犬? どうして?」
祐介が楽しそうに聞いてくるので、リアムも段々と目の前の景色よりも祐介に集中出来る様になってきた。
「昔、師が犬に変身した時があったのだ。その時、家の壁に向かって粗相をされてしまってな、拭いても洗っても暫く匂いが残るし、毛はあちこちに舞って仕方ないしでそれ以来敬遠するようになった」
「お師匠さんが粗相……」
リアムは頷いた。
「変身の魔法の実験をしていたのだがな、人間以外に変身することは禁忌とされていたが師がどうしてもその所以を知りたがり、すぐ隣に私が付くことで実験を行なったのだが、動物になった途端人間としての意識が薄れたらしくてな」
「あー、それで粗相しちゃったのか」
「実験が楽しみでずっと用を足すのを我慢していたのが原因らしい」
「何だか可愛らいいお師匠さんだね」
くすりと祐介が笑うので、リアムも同感だと思いつられて微笑むと。
「あ、もうすいてきたよ。そろそろ行こうか?」
「いつの間に」
先程までの人だかりはどこへやら、今はちらほらと人が歩いているだけだ。祐介が手を貸してくれたので掴んで立ち上がる。
「貸して」
祐介はそう言うと、リアムが手に持っていた荷物をひょいと持っていってしまった。
「祐介、自分の荷物位自分で持てるぞ」
「いいのいいの、今日はさ、サツキちゃんが大好きな温泉を存分に楽しんでもらいたいから、荷物とか会社とか嫌なこととか全部忘れてさ、楽しもう?」
「祐介……」
今日は祐介の方が嫌なことがあっただろうに、それでもリアムのことを考えてくれるこの男は。
「祐介はあれだぞ、私を甘やかし過ぎだ」
「そう?」
「でも」
「うん?」
「それもまたいい時はある」
「はは、じゃあ今はいい時だね」
「まあそうだ」
「……じゃあ今日は特に甘やかそう」
「え?」
「何でもないです」
祐介は幸せそうに微笑みながらリアムを見下ろすと、ゆっくりと改札へと向かい始めたのだった。
人がぞろぞろと改札に向かって進む中、祐介はリアムを壁際につれて行くと空いているベンチを見つけてリアムを座らせ、その隣に立って人の流れが途切れるのを待っていた。まだ人混みの中をうまく歩けないリアムの為であった。
「いやー凄い人だね」
はは、と祐介がにこやかに話しかけてくる。リアムはあまりの人の多さに気圧されてしまい、少し顔が引き攣ってしまっていた。リアムの世界はここまで一箇所にいる人の数は多くない。満員電車の一駅はいつも祐介が守ってくれて空間が確保されていたが、あれの様な混雑で流れている人の波。正直、恐怖であった。
「ゆ、祐介」
咄嗟に祐介の腕に縋った。すると、小さく笑った祐介がリアムの隣にしゃがみ込むと、リアムの膝の上に手を置いて握り締めてくれた。
「サツキちゃんは人がいっぱいなのが苦手みたいだね」
「こ、こんなに人がいるとな、どうしていいか分からなくなってな」
「怖いものなしのサツキちゃんの苦手な物を発見だね」
くす、と祐介が笑った。祐介がリアムを見上げて尋ねてきた。
「他に苦手な物って何があるの? 甘い物はあまり得意じゃないって言ってたよね? あとは?」
「そうだな……犬がやや苦手ではあるな」
「犬? どうして?」
祐介が楽しそうに聞いてくるので、リアムも段々と目の前の景色よりも祐介に集中出来る様になってきた。
「昔、師が犬に変身した時があったのだ。その時、家の壁に向かって粗相をされてしまってな、拭いても洗っても暫く匂いが残るし、毛はあちこちに舞って仕方ないしでそれ以来敬遠するようになった」
「お師匠さんが粗相……」
リアムは頷いた。
「変身の魔法の実験をしていたのだがな、人間以外に変身することは禁忌とされていたが師がどうしてもその所以を知りたがり、すぐ隣に私が付くことで実験を行なったのだが、動物になった途端人間としての意識が薄れたらしくてな」
「あー、それで粗相しちゃったのか」
「実験が楽しみでずっと用を足すのを我慢していたのが原因らしい」
「何だか可愛らいいお師匠さんだね」
くすりと祐介が笑うので、リアムも同感だと思いつられて微笑むと。
「あ、もうすいてきたよ。そろそろ行こうか?」
「いつの間に」
先程までの人だかりはどこへやら、今はちらほらと人が歩いているだけだ。祐介が手を貸してくれたので掴んで立ち上がる。
「貸して」
祐介はそう言うと、リアムが手に持っていた荷物をひょいと持っていってしまった。
「祐介、自分の荷物位自分で持てるぞ」
「いいのいいの、今日はさ、サツキちゃんが大好きな温泉を存分に楽しんでもらいたいから、荷物とか会社とか嫌なこととか全部忘れてさ、楽しもう?」
「祐介……」
今日は祐介の方が嫌なことがあっただろうに、それでもリアムのことを考えてくれるこの男は。
「祐介はあれだぞ、私を甘やかし過ぎだ」
「そう?」
「でも」
「うん?」
「それもまたいい時はある」
「はは、じゃあ今はいい時だね」
「まあそうだ」
「……じゃあ今日は特に甘やかそう」
「え?」
「何でもないです」
祐介は幸せそうに微笑みながらリアムを見下ろすと、ゆっくりと改札へと向かい始めたのだった。
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