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第二章 中級編開始
第315話 魔術師リアムの中級編五日目の朝食前の支度完了
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リアムがさっとシャワーを浴びて出てくると、祐介がドライヤーをかけているところだった。
祐介がリアムの姿に気付くと、笑顔で手で招き寄せる。リアムも笑顔になると、祐介の元に駆け寄った。リアムの大好きなドライヤーの時間である。祐介がベッドに腰掛けると、リアムは床に座って祐介の足の間にすっぽりと納まった。これももう定位置である。
祐介がリアムの頭に巻かれたバスタオルを解くと、タオルを使ってドライヤーをかけ始めた。タオルドライという方法だそうで、タオルに水分を吸わせて乾かすことで時間の短縮になるという。リアムとしては別に短縮されなくても構わないのだが、そう言うのも何だか憚られてしまい、祐介には言えないでいる。
爪を立てない様に髪を梳いていく祐介の指が毎回ゾワゾワしてしまうが、これがやたらと気持ちがいいのだ。途中からブラシを使い、最後に冷風をかけて完了。祐介がドライヤーの電源を切った。
「はい、出来上がり」
「祐介も段々と手慣れてきたな」
「毎日やってるからね。あ、サツキちゃんちょっと待ってまだ立たないで」
「ん? どうした?」
「今が一番いい匂いだから」
そう言うと、祐介がリアムの首に腕をするりと回したと思うと、顔をリアムの頭にくっつけてくんくんと匂いを嗅ぎ始めた。リアムは思わず笑う。
「本当に祐介は好きだな」
「うん、好き」
「さ、潮崎さん達を待たせてはならんからな、そろそろ」
「向こうもまだ支度終わってないよ、きっと」
「そうだろうか?」
「そうだよ。だから嗅がせて。ちょっとまだ僕気が立ってるみたいだし、安心したいかも」
気が立っている。それはそうだろう。朝から殴られ出血したのだ。先程までの祐介の血まみれの姿が脳裏に浮かび、リアムは祐介を振り返って鼻をもう一度確認しようとした。
「祐介、鼻の具合はどうだ? もう一度見せて……」
すると、考えてみれば当然なのだが、視点が定まらない位の近距離に祐介の顔があった。
思わず心臓が飛び上がった。
「ゆ、祐介、鼻をだなっ」
「……うん」
祐介がリアムの目をじっと見ている。駄目だ、その真剣な眼差し、これにリアムは弱いのだ。普段はにこにこしている祐介がこういう表情を見せる時は拙い時。それをリアムはすでに学んでいる。
すると、祐介が囁いた。
「本当に、無事で良かった」
泣きそうな声だった。それを聞いて、リアムの胸がぎゅっと苦しくなった。祐介がリアムの肩に顔を埋めた。
「……そう思ったら、急に怖くなった」
「祐介……」
「サツキちゃん、いっつもどんどん突っ走って行っちゃうから、僕怖いよ」
「す、済まない、何とかしようと思ったのだが」
「もう一人で行かないでよ」
祐介が狂おしい程に切なそうな声で言った。
「僕がずっと一緒にいるから、一人で先に行かないでよ」
祐介はそう言うと、リアムをきつくきつく抱き締めたのだった。
祐介がリアムの姿に気付くと、笑顔で手で招き寄せる。リアムも笑顔になると、祐介の元に駆け寄った。リアムの大好きなドライヤーの時間である。祐介がベッドに腰掛けると、リアムは床に座って祐介の足の間にすっぽりと納まった。これももう定位置である。
祐介がリアムの頭に巻かれたバスタオルを解くと、タオルを使ってドライヤーをかけ始めた。タオルドライという方法だそうで、タオルに水分を吸わせて乾かすことで時間の短縮になるという。リアムとしては別に短縮されなくても構わないのだが、そう言うのも何だか憚られてしまい、祐介には言えないでいる。
爪を立てない様に髪を梳いていく祐介の指が毎回ゾワゾワしてしまうが、これがやたらと気持ちがいいのだ。途中からブラシを使い、最後に冷風をかけて完了。祐介がドライヤーの電源を切った。
「はい、出来上がり」
「祐介も段々と手慣れてきたな」
「毎日やってるからね。あ、サツキちゃんちょっと待ってまだ立たないで」
「ん? どうした?」
「今が一番いい匂いだから」
そう言うと、祐介がリアムの首に腕をするりと回したと思うと、顔をリアムの頭にくっつけてくんくんと匂いを嗅ぎ始めた。リアムは思わず笑う。
「本当に祐介は好きだな」
「うん、好き」
「さ、潮崎さん達を待たせてはならんからな、そろそろ」
「向こうもまだ支度終わってないよ、きっと」
「そうだろうか?」
「そうだよ。だから嗅がせて。ちょっとまだ僕気が立ってるみたいだし、安心したいかも」
気が立っている。それはそうだろう。朝から殴られ出血したのだ。先程までの祐介の血まみれの姿が脳裏に浮かび、リアムは祐介を振り返って鼻をもう一度確認しようとした。
「祐介、鼻の具合はどうだ? もう一度見せて……」
すると、考えてみれば当然なのだが、視点が定まらない位の近距離に祐介の顔があった。
思わず心臓が飛び上がった。
「ゆ、祐介、鼻をだなっ」
「……うん」
祐介がリアムの目をじっと見ている。駄目だ、その真剣な眼差し、これにリアムは弱いのだ。普段はにこにこしている祐介がこういう表情を見せる時は拙い時。それをリアムはすでに学んでいる。
すると、祐介が囁いた。
「本当に、無事で良かった」
泣きそうな声だった。それを聞いて、リアムの胸がぎゅっと苦しくなった。祐介がリアムの肩に顔を埋めた。
「……そう思ったら、急に怖くなった」
「祐介……」
「サツキちゃん、いっつもどんどん突っ走って行っちゃうから、僕怖いよ」
「す、済まない、何とかしようと思ったのだが」
「もう一人で行かないでよ」
祐介が狂おしい程に切なそうな声で言った。
「僕がずっと一緒にいるから、一人で先に行かないでよ」
祐介はそう言うと、リアムをきつくきつく抱き締めたのだった。
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