上 下
294 / 731
第二章 中級編開始

第293話 魔術師リアムの中級編四日目、心の穴を埋める者

しおりを挟む
 食を進めている内に、段々と頭はしゃっきりとしてきた。だが、どうにも身体が重い。

 『羽田と早川ユメを何とか麗子さんにばれないまま何とかしようぜ作戦』という何とも言えないプロジェクト名を付けたツンツン頭の佐川は、プロジェクトリーダーに橋本を任命した。何故お前が勝手に任命しているんだと田端に突っ込まれていたが、てへ、と笑って誤魔化していたのはさすがと言うべきか。

 ひと通り食べ尽くしたリアムだったが、身体が重くて仕方がないので、悪いとは思ったが祐介の左脇にもたれかからせてもらった。祐介が隣の席の佐川と話すと、耳が触れている祐介の胸から振動と共にくぐもった祐介の声が響いてきて、安心した。

 リアムは思う。いつの間にこんなにも祐介がいると安心する様になったのか。先程久住社長に足を押し付けられただけでリアムの全身を悪寒が襲ったが、祐介にはそれがない。むしろほっとして、ずっとこうしていたいがそうしたら自分が駄目人間になりそうでそれが怖い。

 祐介という人間が好きなのだ、唐突にそれが分かった。

 以前祐介が提案したことを思い出していた。祐介を、男としてではなく人間の祐介という一個人として好きになる練習をしたら、と言われた。あれはリアムがいずれ伴侶を望むのであれば、更に子も持ちたいのであれば、相手が男性でなければならないことに抵抗を覚えたことからの話だったか。

 正直、家族は欲しい。リアムの世界ではそれは叶わなかったが、幼い時分に親元を去ることになったリアムにとって、離れ離れになることがない家族が理想の未来だった。

 師がリアムを非常に可愛がってくれていたことも勿論分かっているし、引き取ってもらえたことには非常に感謝している。

 ただ、あの人は保護者というよりは友だった。歳の離れた兄貴分、だろうか。いつも突拍子もないことをやってリアムに怒られても、それを笑って軽く謝罪し、次の日にはまた新たな実験を考え出す。

 滅茶苦茶で、いなくなるなんて信じられなくて、冒険から帰ってからソファーでぐったりしているのを見ても寝ているのだと思った。大分高齢だったが、あの人が死ぬ訳はないと信じ込んでいた。

 肩を揺すって、落ちた手。それを上から握った時に、リアムは悟った。師がもうそこにいないことに。

 あの人は、家族ではない。だが、リアムの心を大きく占めるとても大事な存在だった。

 心にポッカリと穴が空いた。それからは、その心の穴を何とか埋めたくて、でも埋まる訳もないと思っていたのに。

 いつの間にか、まだ会って間もない祐介が埋めていた。

 リアムは、それに正に今気付いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

処理中です...