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第二章 中級編開始
第273話 魔術師リアムの中級編四日目の飲み会の社長のボディタッチ
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肩をぐいっと引っ張られた先は、久住社長の胸板だった。
手に持ったおしぼりが虚しく宙を彷徨う。祐介の顔が瞬時に怒りに包まれたのが分かった。隣の佐川を咄嗟に見た。すると委細承知とばかりに佐川が祐介の肩に腕を回して止めた。あの佐川という男、なかなか機転が利くではないか。
リアムの頭の上から、久住社長の声が降ってきた。
「ねえ野原さん、最近の三階ってどう? 皆仲良くやってるかな? 僕さ、なかなか下に降りていけなくて。様子を教えてくれると嬉しいんだけど」
「久住社長、野原さんは」
木佐ちゃんが止めに入る。すると久住社長は即行返した。
「僕は今、野原さんの意見を聞こうとしてるんだよね。木佐さんの意見は今は求めてない」
「……失礼しました」
木佐ちゃんの声色は、凍るのではないかと思わせる程冷たいものだった。だが残念ながら久住社長に肩を掴まれた上身体を押し付けられている為、木佐ちゃんを振り返ることが出来ない。
一瞬だけ祐介がいる方向を見た。もうあの笑顔はない、以前羽田に見せた時の様な怒り、それしか見えなかった。
だからリアムは分かった。今この場で祐介にも木佐ちゃんにも助けを求めてはならないと。助けを求めた途端、久住社長は気分を害し、今日はもう羽田のことなど話をしなくなるのではないか、そう思えた。
他の営業達の顔も一瞬ざっと見渡すと、心配そうにしている者から全く分かっていなそうな者、嫌そうな顔を見せている者など様々だったが、誰もが助け船を出そうとはしていない。つまり、出せない。出すとこの男は一番上の立場を利用して何をどうするか分からないのかもしれない。
となれば、リアムがやるしかない。
リアムは木佐ちゃんの言葉遣いを思い出す。優しくも的確な物言い。女性的であり、だがそこには強さも感じられるものだ。よし、いけるぞリアム、めげるなリアム!
「久住社長」
「うん? どうしたの野原さん」
「ビールを飲みたいので、肩を少し離していただいても宜しい……でしょうか」
「あ、ごめんごめん、つい」
あははと笑いながら、久住社長が手を離した。だが、掘りごたつなる足を降ろせる仕様になっている皆からは死角のその場所で、久住社長は大袈裟に足を広げてきた。それがリアムの足をぐいぐいと押してくる。そうか、こういうことを皆は言っていたのか。納得した。
そしてまだろくに酒も入っていないこの状況で、隣にリアムの彼氏だという祐介がいるこの状況でこういうことをしてくる辺り、こいつは最低の部類の男だ。だがこの会社の中では最高権力者。誰もが逆らいにくい。
羽田以外は。
リアムはビールのジョッキを手に持つと、ぐいっと思い切り飲んだ。祐介が目を見開いているが、違うのだ祐介、これは戦前の景気付けなのだ。
「久住社長」
「うん?」
「三階は日頃は皆仲がとてもいい……です」
「あ、本当? よかった」
「ただ、羽田さんが来た瞬間、雰囲気は最低にな……ります」
「……ああ、羽田ねえ……」
久住社長の表情が暗くなった。
手に持ったおしぼりが虚しく宙を彷徨う。祐介の顔が瞬時に怒りに包まれたのが分かった。隣の佐川を咄嗟に見た。すると委細承知とばかりに佐川が祐介の肩に腕を回して止めた。あの佐川という男、なかなか機転が利くではないか。
リアムの頭の上から、久住社長の声が降ってきた。
「ねえ野原さん、最近の三階ってどう? 皆仲良くやってるかな? 僕さ、なかなか下に降りていけなくて。様子を教えてくれると嬉しいんだけど」
「久住社長、野原さんは」
木佐ちゃんが止めに入る。すると久住社長は即行返した。
「僕は今、野原さんの意見を聞こうとしてるんだよね。木佐さんの意見は今は求めてない」
「……失礼しました」
木佐ちゃんの声色は、凍るのではないかと思わせる程冷たいものだった。だが残念ながら久住社長に肩を掴まれた上身体を押し付けられている為、木佐ちゃんを振り返ることが出来ない。
一瞬だけ祐介がいる方向を見た。もうあの笑顔はない、以前羽田に見せた時の様な怒り、それしか見えなかった。
だからリアムは分かった。今この場で祐介にも木佐ちゃんにも助けを求めてはならないと。助けを求めた途端、久住社長は気分を害し、今日はもう羽田のことなど話をしなくなるのではないか、そう思えた。
他の営業達の顔も一瞬ざっと見渡すと、心配そうにしている者から全く分かっていなそうな者、嫌そうな顔を見せている者など様々だったが、誰もが助け船を出そうとはしていない。つまり、出せない。出すとこの男は一番上の立場を利用して何をどうするか分からないのかもしれない。
となれば、リアムがやるしかない。
リアムは木佐ちゃんの言葉遣いを思い出す。優しくも的確な物言い。女性的であり、だがそこには強さも感じられるものだ。よし、いけるぞリアム、めげるなリアム!
「久住社長」
「うん? どうしたの野原さん」
「ビールを飲みたいので、肩を少し離していただいても宜しい……でしょうか」
「あ、ごめんごめん、つい」
あははと笑いながら、久住社長が手を離した。だが、掘りごたつなる足を降ろせる仕様になっている皆からは死角のその場所で、久住社長は大袈裟に足を広げてきた。それがリアムの足をぐいぐいと押してくる。そうか、こういうことを皆は言っていたのか。納得した。
そしてまだろくに酒も入っていないこの状況で、隣にリアムの彼氏だという祐介がいるこの状況でこういうことをしてくる辺り、こいつは最低の部類の男だ。だがこの会社の中では最高権力者。誰もが逆らいにくい。
羽田以外は。
リアムはビールのジョッキを手に持つと、ぐいっと思い切り飲んだ。祐介が目を見開いているが、違うのだ祐介、これは戦前の景気付けなのだ。
「久住社長」
「うん?」
「三階は日頃は皆仲がとてもいい……です」
「あ、本当? よかった」
「ただ、羽田さんが来た瞬間、雰囲気は最低にな……ります」
「……ああ、羽田ねえ……」
久住社長の表情が暗くなった。
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