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第二章 中級編開始

第262話 OLサツキの中級編三日目の夕飯の支度

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 マグノリアとリアムの家の台所は広い。サツキが数年暮らしていたあの狭いワンルームのアパートの廊下に気持ち程度に備え付けられていたキッチンとは、雲泥の差である。リアムは今頃あのキッチンにイライラしていないだろうか? そう疑問に思い、すぐに思い直した。

 いや、そもそもあの人は調理なんてしてなかった。多分、いや絶対今も使ってないに違いない。

 ユラが鍋の蓋をぱかっと開けると、色とりどりの野菜の中に美味しそうな肉が浮き沈みしていた。

「美味しそうな匂いだね!」
「だろー? 今日はにんにくと塩で軽く味付けしただけだけど、アルバ蜥蜴はいい味が滲み出るからな」
「お腹空いてきた!」
「おし。じゃあ買ってきたパンを取り出して切って並べてくれ」
「はい!」

 サツキはパントリーからフランスパンの様な形をしたパンを取り出した。色は正直えぐい。何故綺麗な水色なのか、初めて食べた時は食欲が失せるかと思っていたが、これがなんとチーズ味で美味しい。色など関係ない位に。これは、何味か分かりやすい様に、パンを焼く際に着色料を練り込んでいると聞いた。

 サツキは基本とろい。と、自分でも分かっている。自主性が足りないと、よく社長夫人の麗子やお局の木佐に言われていた。あれも返せば「育ててやろう」という気持ちの現れだったのかもしれないが、如何せんサツキがとろすぎた所為だろう、段々と苛々されてくるのが分かるのは正直こたえた。

 だが、サツキにも得意なものがある。指示に従うことだ。自分で素早くは判断出来ないが、指示さえあればとりあえず人並みには動ける様になる。

 そういった意味で、ユラの指示は分かりやすく動きやすい。なんせ余計な言葉が一切入っていないから。

 パンを切りながら、木佐のことを思い出した。あの人の指示の中には、自分で考えて行動しろというのが必ず入っていた。サツキを育てたい、そういうつもりだったのは途中で分かったが、そうなると途端に止まるこの思考回路。

 パンを皿に盛りながら、鍋の味見をしているユラを盗み見る。

 きっといずれ、この人もそうなる。でも、今回は仕事ではない、サツキの今後がかかっている。であれば、先程自分でリアムとコンタクトを取るんだと決めた様に、急ぐことは相変わらず出来ないが、ゆっくり着実に自分の足で歩いていかねばならないだろう。

 それに、何故か分からないがこの人の前ではサツキも自然でいられている。それに、自分で判断なんてろくに出来ない筈のサツキが、ウルスラと喧嘩をして意地悪をしたユラに向かってフリーズの呪文を唱えることが出来たのだ。あの時はただ夢中だったけど、以前の自分だったら絶対出来なかった。

 サツキの中で、何かが少しずつ変わり始めている。まるでようやく港を見つけた船の様な安心感がこの世界にはあるから。

 自由にやっていいんだよ、そう言われている気がしてならなかった。
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