ドラゴンに殺られそうになって（電車にはねられそうになって）気が付いたらＯＬになっていた（気が付いたら魔術師になっていた）件

第二章 中級編開始

第209話 魔術師リアムの中級編二日目の夜ご飯

　暫くして落ち着いたらしい祐介と祐介の部屋に行き、今日はリアムは祐介が味噌汁を作る手順をじっくりと観察することにした。

　帰ってきてすぐに鍋に水を注ぎ、出汁パックなるものと昆布を浸けていたらしい。具材を切って放り込むと、蓋をして火にかける。

「それは一緒に煮込んでいいのか？」
「うん、本当は長いこと浸けておくといいんだけど、時間ないから僕はこれでやってる。まあ十分かな」
「ほお」

　感心するリアムに、くす、と祐介が笑う。

「具材はね、何でもいいよ。余った物を少しずつ入れてもいいし」
「万能なのだな」
「味噌は日本人の心ですから」
「日本人の心は色々とあるのだな」
「ふふ、そうかもね」

　隣のコンロでお湯を沸かし、麺つゆの素なるものを水筒に入れ水で薄めた物を冷蔵庫に入れている。

「サツキちゃん、ネギはいけるかな？」
「ネギ？」
「ちょっと待ってね」

　そう言うと祐介はネギなる細長い野菜を取り出し、十字に切り込みを入れた後細かく切り始めた。それを少し指で掴むと、「あーん」と言った。食えということらしい。口を開けて待つと、祐介が口の中に入れた。

「指に付いてるの舐めて取って。勿体ないから」
「え？」
「ほら早く、味噌汁がぐつぐつ言い始めたから」

　いいのだろうか。正直思ったが、食べ物を粗末にするのはいただけない。リアムは素直に指を舐めると、祐介がブルッと震えた。そういう反応は止めてもらいたい。そして顔がにやけているぞ、祐介よ。

「どう？」

　口の中にある刻んだネギをもぐもぐと噛むと、シャキシャキしている中に辛味が染み出し、旨い。

「うむ、旨い」
「やっぱりサツキちゃんこういう方が好きなんだね。了解、じゃあネギ追加します」

　祐介はそう言うと、ネギを更に刻み始めた。しかし手際がいい。

「祐介は料理は得意ではないと言っていたが、かなり手慣れている様に見えるぞ？」
「あー、手の混んだことは出来ないって意味では得意ではないけど、簡単なのなら結構作らされたから」
「……郁姉にか？」
「ううん、しず姉に」

　例の恐ろしげなもう一人の姉のことである。

「そのしず姉という方は、一体どういった方なのだ？」
「うーんと、真面目かなあ。だから郁姉とかみたいな緩い人は許せないみたいで」

　祐介も随分と緩そうだと思ったが、口に出したりするのは控えた。

「この先男だって家事は出来ないと駄目だとか言って、自分はやらない癖に散々作らされてさ。大人五人分作るのって結構大変だったから、社会人になって一人暮らしを始めたらもうこれが楽で楽で」
「五人分は凄いな」
「うん。――でもさ」
「ん？」
「一人で作って食べる食事っていうのも、時には寂しくなったりして」

　沸騰した鍋に蕎麦をパラパラと入れながら祐介が微笑みつつリアムに振り向いた。

「だから、サツキちゃんとご飯を食べる様になって、嬉しいよ」
「祐介……」
「だからさ、これからも僕とご飯一緒に食べてね」

　そう言う祐介が、取り残された子供の様に頼りなく見えてしまい。

「約束する」

　リアムはしっかりと頷いてみせたのだった。