184 / 731
第二章 中級編開始
第183話 魔術師リアムの中級編二日目開始
しおりを挟む
昨晩は、祐介が丹念にマッサージをしてくれたお陰で、ぐっすりと非常によく寝れた。腕を回してみるが、肩こりも残っておらず快適である。サツキは若いので、回復が早いのもその理由の一つであろう。
毎日同じマントを羽織っていたリアムからしたら意外なのだが、同じ服は連続して着てはならないらしい。その為だろう、サツキの大して大きくもない衣装掛けには数着のスーツとブラウスが掛けられていた。もう少し暑くなれば、女性に限っては半袖のブラウスでの出勤が可能とのことだが、男性はネクタイを外すことしか許されない、と祐介が珍しく愚痴を言っていた。
リアムがいたバルバイトの街周辺の気候は非常に穏やかで、夏も一歩影に入れば涼しい。日本の夏は恐ろしい、と祐介が脅す様に笑っていたので、リアムが実際に燃やされたあのドラゴンの炎の様な暑さを想像した。もう二度と焼かれたくはないものである。あれはさすがに怖かった。
化粧を済まし、スーツを着用し、ストッキングに挑戦だ。今日はさすがに祐介の手は借りたくない。あの絵面が拙過ぎる位の認識はリアムにもあった。いくら男同士といえ、この身体は女だ。万が一間違いがあったら、さすがに祐介とはどういう顔をして今後過ごしていけばいいのか分からない。
そんなことを考えながらストッキングを手繰り寄せていると、爪に引っかかりピーッと伝線してしまった。
「あああああっ!」
やはりどうしてもうまくいかない。リアムは思い切り凹んだ。すると、タイミング悪く扉を叩く音。
「おはよう、……サツキちゃん?」
そーっと伺う様に扉から顔を覗かせた祐介の眉が、情けなく垂れ下がる。
「まーたそんな泣きそうな顔して。どうしたの?」
「ストッキングが、うまく履けぬ……。一つ破いたところだ……」
「あ、ああ、うん、ええと」
祐介が思い切り挙動不審になる。分かる、分かるぞ祐介。リアムも全く同じ気持ちだから、お前の戸惑いは理解出来るぞ。
「は、履かせる?」
恐る恐る、祐介が提案してきた。だがリアムは首を横に振る。
「その、昨日の様なことがあってはだな、万が一ということもあるかもしれぬし」
「万が一……」
祐介の口元が明らかに緩んだ。慌てて手で口元を隠しているが、にやけが止まらない様だ。健康な若い男子なので致し方ないとはいえ、これは非常に気恥ずかしい。
「祐介、その様な顔をするな」
「あ、ごめん、つい」
祐介が部屋に入ってきた。頬を叩いて冷静さを取り戻そうとしている様だ。
「でも実際問題、そろそろ出ないとだよ」
「うう……では、では今日だけ、またお願いする……」
遅刻は社会人として差し障りがあると祐介からは聞いている。この国の人間はかなり時間にうるさい人種とのことなので、気を付けねばなるまい。
「いい、サツキちゃん。心を無にするんだ」
新しいストッキングを手に持つと、祐介がベッドに腰掛け膝を叩きリアムを呼んだ。
「では始めます」
どう聞いても少し興奮気味の祐介が、唾を飲み込みつつ言った。
毎日同じマントを羽織っていたリアムからしたら意外なのだが、同じ服は連続して着てはならないらしい。その為だろう、サツキの大して大きくもない衣装掛けには数着のスーツとブラウスが掛けられていた。もう少し暑くなれば、女性に限っては半袖のブラウスでの出勤が可能とのことだが、男性はネクタイを外すことしか許されない、と祐介が珍しく愚痴を言っていた。
リアムがいたバルバイトの街周辺の気候は非常に穏やかで、夏も一歩影に入れば涼しい。日本の夏は恐ろしい、と祐介が脅す様に笑っていたので、リアムが実際に燃やされたあのドラゴンの炎の様な暑さを想像した。もう二度と焼かれたくはないものである。あれはさすがに怖かった。
化粧を済まし、スーツを着用し、ストッキングに挑戦だ。今日はさすがに祐介の手は借りたくない。あの絵面が拙過ぎる位の認識はリアムにもあった。いくら男同士といえ、この身体は女だ。万が一間違いがあったら、さすがに祐介とはどういう顔をして今後過ごしていけばいいのか分からない。
そんなことを考えながらストッキングを手繰り寄せていると、爪に引っかかりピーッと伝線してしまった。
「あああああっ!」
やはりどうしてもうまくいかない。リアムは思い切り凹んだ。すると、タイミング悪く扉を叩く音。
「おはよう、……サツキちゃん?」
そーっと伺う様に扉から顔を覗かせた祐介の眉が、情けなく垂れ下がる。
「まーたそんな泣きそうな顔して。どうしたの?」
「ストッキングが、うまく履けぬ……。一つ破いたところだ……」
「あ、ああ、うん、ええと」
祐介が思い切り挙動不審になる。分かる、分かるぞ祐介。リアムも全く同じ気持ちだから、お前の戸惑いは理解出来るぞ。
「は、履かせる?」
恐る恐る、祐介が提案してきた。だがリアムは首を横に振る。
「その、昨日の様なことがあってはだな、万が一ということもあるかもしれぬし」
「万が一……」
祐介の口元が明らかに緩んだ。慌てて手で口元を隠しているが、にやけが止まらない様だ。健康な若い男子なので致し方ないとはいえ、これは非常に気恥ずかしい。
「祐介、その様な顔をするな」
「あ、ごめん、つい」
祐介が部屋に入ってきた。頬を叩いて冷静さを取り戻そうとしている様だ。
「でも実際問題、そろそろ出ないとだよ」
「うう……では、では今日だけ、またお願いする……」
遅刻は社会人として差し障りがあると祐介からは聞いている。この国の人間はかなり時間にうるさい人種とのことなので、気を付けねばなるまい。
「いい、サツキちゃん。心を無にするんだ」
新しいストッキングを手に持つと、祐介がベッドに腰掛け膝を叩きリアムを呼んだ。
「では始めます」
どう聞いても少し興奮気味の祐介が、唾を飲み込みつつ言った。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる