上 下
179 / 731
第二章 中級編開始

第178話 OLサツキの中級編初日の春祭り散策、出会った人は

しおりを挟む
 ユラは鑑定士がいる占いの館から丁度出てきたところだった。目を擦りつつ、伸びをして首をこきこき鳴らす。

「うわ……人だらけ」

 かなり長い時間占いの館に滞在していた為、空はすっかり暗くなり、知らない間に春祭りが開始している様だった。この後はギルドに寄る予定だったが、ギルドまでの道もかなり混み合っていそうだ。

「面倒くせえ……」

 呟き、ギルドに行くのは止めようかと躊躇したその時。

「――はい!?」

 目の前を、全速力で自分が走り抜けていった。時折人にぶつかっている。

「え? え?」

 ユラはその後ろ姿に集中する。そして後ろから全速力で追いかけた。

「ラム! お前俺の格好で何やってんだ!」
「! ユラ! ユラ! サツキが!!」

 同じ顔の同じ服を着た二人が肩を掴み合って叫び合っているので、当然目立つ。周りは何事かと遠巻きに見ていた。

「サツキがどうした!?」
「危ないお兄さんに! 助けて!」

 ユラの顔つきがさっと変わる。

「どっちだ」

 ポケットに手を突っ込み何かを探しながら尋ねると、ラムは来た方を指し示した。

「あっちの奥の、変な匂いのお酒があったところの近く」
「あー、ラーメニアの薬酒のとこか。知らないで行っちまったんだな」

 ポケットから出てきたのは皺くちゃのフルールの羽根だった。それをラムに渡す。

「俺が探してくる。お前は俺んちに行ってろ。中で待っててくれ」
「分かった!」
「フォア・フルール・アレ! 俺んち!」

 ユラが唱えると、フルールの羽根を持ったラムが一瞬で消えた。ユラは踵を返し全速力で人混みを駆け抜ける。

「サツキー!!」

 必死で名前を呼びながら奥ヘ奥へと走って行った。



「離して!」
「やだね」

 男はニヤニヤしながらサツキの両手首を片手で掴みどんどん暗い方へと引っ張っていく。このままだと拙い。非常に拙い。怖がっている場合じゃない。だがどうも外に対する呪文は杖なしには効きにくい様で、攻撃魔法は無理そうだ。

 今ここでリアムに戻ったらどうだろう? いや、ドレスでぎゅうぎゅうになっている時にリアムに戻ってもきつくて苦しくて吐くだけだ。だとすると、サツキよりも身体が小さくて抜け出し易い人。ラムなら。

 ドレスは汚れにくいと言っていた。この際、脱ぎ捨てて後で取りに来ればいい。

「メタモラ! ラム!」

 お願い、効いて! 祈る様な気持ちで唱えると、自分の身体が黄緑色になったのが分かった。ドレスが緩くなる。

「はあ!?」

 男の手もスライムのラムの手は掴みにくいらしく、引っ張ると取れた。抜け出せた! サツキは半ば転げる様に走り出した。靴、ドレス、ついでにパンツも脱げたのが分かったが、もうこの際いい。こんな男に捕まる位ならノーパンの方がましだ。どうせラムだし。

「――サツキ!!」

 離れた所から、聞き慣れた声が聞こえた。ユラの姿がそこにあった。何でラム、戻ってきちゃったの! 男がユラの姿を見てニヤリと笑う。

 こっちに、こっちに引き寄せないと。

 サツキはラムの姿で走り始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

処理中です...