上 下
171 / 731
第二章 中級編開始

第170話 OLサツキの中級編初日の中央広場

しおりを挟む
 ラムが必死でサツキを揺さぶり続けている。

「ラムちゃん、どうしたの?」

 サツキがそう尋ねると、ラムの表情がホッとしたものに変わった。

「ごめんね、この明かりが私の世界のお祭りっぽくて、ついぼうっとしちゃった」

 心ここに在らずな状態になっていたのは確かだ。きっとそれを見て大丈夫かと気になったのだろう。

 すると、ラムが辺りをキョロキョロと見回した後、ぐいぐいとサツキを引っ張った。早く行こうということらしい。花で一杯の景色がそんなに楽しみなんだ、そう思うと可愛くて、サツキは笑顔になって頷いてみせた。

「うん、早く行ってみようか!」

 駆け足で急ぐ。靴はドレスとセットで借りた靴で、ガラスみたいな無色透明の靴だ。まるでシンデレラの様で、今の自分にはピッタリだと思う。

 この魔法はいずれ解ける。リアムの姿の方が今の本当の姿だから、これは仮の姿だから。

 暫く行くと、前の方に人だかりが出来ていた。

「あれ、あそこギルドの近くじゃない?」

 ラムが首を傾げる。そういえばギルドの前に広間らしきものがあった。あれが中央広場なのかもしれない。ぐるっと建物に沿って歩道があり、道の反対側はマルシェの様な店が並んでいたので気付かなかったのだろう。

 広場に一歩入ると、そこには出店はなくなっており、代わりに一面に色とりどりの花が咲き乱れていた。

「うわあ……!」

 見ると、見物客達はその花畑の中に入っていっている。踏んでも良さそうなところを見ると、これにも何かしら魔法が掛けられているのかもしれない。

「ラムちゃん、見よう!」

 ぴょんぴょん跳ねるラムと手を繋ぎつつ、花畑に踏み入る。途端鼻をくすぐる花の華やかな香りに包まれ、サツキは思わず声を出して笑った。

「あはは、ラムちゃん見て、凄いよ! もうこれだけで、今日お祭りに参加してよかった!」

 勇気を出してよかった。いつものサツキみたいに怖がっていたら、こんなに綺麗な景色を見ることは出来なかった。

 サツキが感動していると。

 耳に聞き慣れた声が飛び込んできた。

「えーここがギルド前。って、毎年来てるんだから知ってるだろ! 何で案内しないといけないんだよ!」

 アールの声だった。アールの近くには、両親と思われる年配の男女がいる。

「あんたの案内がないと迷っちゃうよ。ねえお父さん?」
「そうだぞアール。お前はちっとも帰ってきやしないんだから、こんな時位親孝行しなさい」
「だから案内してるじゃないか。あー皆いい子見つけるのかなーいいなー」
「あんたにはまだ結婚は早いわよ、やってること馬鹿なんだから」
「ひっでーの」

 親にまで馬鹿と言われていたが、怒っている感じはない。あれが愛情表現だとアールも分かっているのだろう。

 何だか微笑ましくなった。横のラムに小声で話しかける。

「ラムちゃん、アールの邪魔しちゃ悪いから、他の場所に行こうよ。何か食べたいし」

 ラムがうんうんと頷いてくれたので、サツキは広場から離れることにしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

処理中です...