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第一章 初級編開始
第145話 魔術師リアムの初級編三日目の靴屋にて
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祐介が差し出す腕に手を乗せ、大分慣れてきた駅までの道を行く。空はほんのり暗くなってきていた。
「ここ、ここ」
祐介が商店街の中程にある靴屋を指差したので、二人で入った。
「サツキちゃん、足のサイズは?」
「分からん」
「ですよね。あ、これで測れるから靴脱いでここに足乗せて」
祐介が、壁にかけられた足の形を模した板を床に置く。リアムは言われた通りにした。
「ここに踵つけて」
そう言うと、祐介がリアムの足に触れ移動させる。人に足を触られることなどまずない。リアムは気恥ずかしくなった。すると、祐介がぼそっと呟く。
「華奢な足だね」
「ゆ、祐介、くすぐったい」
「ごめんごめん。えーとね、23センチ。小っちゃいなあ」
「祐介はどれくらいだ?」
「僕? 27センチ」
センチの感覚がまだよく分からない。まだまだ覚えることは沢山ありそうだった。
「サツキちゃん、もういいよ。一緒に見よう」
祐介はご機嫌だ。何故こんなに機嫌がいいのか。
だからリアムは聞いた。
「祐介、何故その様に楽しそうなのだ?」
祐介がリアムの手を握って引っ張り、女性の靴が展示されている場所へと進む。
「だって楽しいもん」
「だってって……。私は苦労ばかりかけているだろうに」
すると、祐介が苦笑いした。
「またその話? 言ったでしょ。一人は寂しいし味気ないって。僕はサツキちゃんと一緒にいるのがただ楽しいの」
「本当か? 気を遣ってはないか?」
「本当だってば。何? サツキちゃんは僕といても楽しくない?」
じっと見つめる目が、少し悲しそうに見える。そういうつもりじゃない、そうじゃないんだ、祐介。
「私は」
「うん」
新しいことを知るのは楽しい。それをにこにこと嫌な顔ひとつせず教えてくれる祐介といるのは楽しい。時折今日の様に変なこともするが、リアムが魔術師リアムであった時よりも、遥かに、遥かに。
「……私は楽しい。でも祐介は私ほどではないのか、と」
どうしても申し訳なさが先立つのだ。
すると、祐介の顔がぱあっと笑顔に変わった。まるで小さな子供の様に。
「何言ってんの。滅茶苦茶楽しいよ。なんだったら一日中ずっと見ていたいくらいもうむちゅ……あ、ええと、面白いもんね」
「ん?」
「見ていて面白い」
しっかりと言い直された。言いかけたものはよく分からなかったが、しかし面白いとは意外な意見だった。
「僕に気を遣わないで。お願い」
「祐介……」
「ね?」
リアムが隣にいると面白いのか。面白いなど、今まで一度たりと言われたことがなかった。大抵言われるのは、真面目過ぎ、つまらない、堅い。
「……ふふ」
「え?」
今度は祐介が驚く番だった。
「祐介の隣は、私も楽しい」
「……サツキちゃ……」
「さ、靴を見よう。正直私はよく分からんが、踵がないのが好みだ。見繕ってくれ」
「うん……」
祐介は、何故かリアムを眩しそうに見ていた。
「ここ、ここ」
祐介が商店街の中程にある靴屋を指差したので、二人で入った。
「サツキちゃん、足のサイズは?」
「分からん」
「ですよね。あ、これで測れるから靴脱いでここに足乗せて」
祐介が、壁にかけられた足の形を模した板を床に置く。リアムは言われた通りにした。
「ここに踵つけて」
そう言うと、祐介がリアムの足に触れ移動させる。人に足を触られることなどまずない。リアムは気恥ずかしくなった。すると、祐介がぼそっと呟く。
「華奢な足だね」
「ゆ、祐介、くすぐったい」
「ごめんごめん。えーとね、23センチ。小っちゃいなあ」
「祐介はどれくらいだ?」
「僕? 27センチ」
センチの感覚がまだよく分からない。まだまだ覚えることは沢山ありそうだった。
「サツキちゃん、もういいよ。一緒に見よう」
祐介はご機嫌だ。何故こんなに機嫌がいいのか。
だからリアムは聞いた。
「祐介、何故その様に楽しそうなのだ?」
祐介がリアムの手を握って引っ張り、女性の靴が展示されている場所へと進む。
「だって楽しいもん」
「だってって……。私は苦労ばかりかけているだろうに」
すると、祐介が苦笑いした。
「またその話? 言ったでしょ。一人は寂しいし味気ないって。僕はサツキちゃんと一緒にいるのがただ楽しいの」
「本当か? 気を遣ってはないか?」
「本当だってば。何? サツキちゃんは僕といても楽しくない?」
じっと見つめる目が、少し悲しそうに見える。そういうつもりじゃない、そうじゃないんだ、祐介。
「私は」
「うん」
新しいことを知るのは楽しい。それをにこにこと嫌な顔ひとつせず教えてくれる祐介といるのは楽しい。時折今日の様に変なこともするが、リアムが魔術師リアムであった時よりも、遥かに、遥かに。
「……私は楽しい。でも祐介は私ほどではないのか、と」
どうしても申し訳なさが先立つのだ。
すると、祐介の顔がぱあっと笑顔に変わった。まるで小さな子供の様に。
「何言ってんの。滅茶苦茶楽しいよ。なんだったら一日中ずっと見ていたいくらいもうむちゅ……あ、ええと、面白いもんね」
「ん?」
「見ていて面白い」
しっかりと言い直された。言いかけたものはよく分からなかったが、しかし面白いとは意外な意見だった。
「僕に気を遣わないで。お願い」
「祐介……」
「ね?」
リアムが隣にいると面白いのか。面白いなど、今まで一度たりと言われたことがなかった。大抵言われるのは、真面目過ぎ、つまらない、堅い。
「……ふふ」
「え?」
今度は祐介が驚く番だった。
「祐介の隣は、私も楽しい」
「……サツキちゃ……」
「さ、靴を見よう。正直私はよく分からんが、踵がないのが好みだ。見繕ってくれ」
「うん……」
祐介は、何故かリアムを眩しそうに見ていた。
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