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第一章 初級編開始

第105話 魔術師リアム、初級編二日目の風呂上がり

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 今日も祐介が髪の毛を丁寧に乾かしてくれた。頭に時折触れる指が、鳥肌を立たせる。気持ちいいのだが、このまま身を委ねてしまってはいけない。リアムは必死で気を引き締めた。

 ドライヤーが終わると、今夜は映画を観ながらリアムお待ちかねの酒の時間だ。

「最後に飲んだパチパチスライムワイン、あれをまたいつか飲めたらいいのだが。それが惜しいな」
「何パチパチスライムワインて」

 祐介が、グラスにビールなる黄金色の液体に白い泡が浮く酒を注ぎ、リアムに手渡した。

「黄色のスライムを白ワインで割るのだ。コーラと近いが、甘くなくさっぱりしていて旨い」
「スライム飲むんだ……」
「スライムは飲み物だぞ、祐介」
「うわー世界観」
「まあそれはどうでもいい、祐介、ほら乾杯だ乾杯」
「はいはい。――あ、サツキちゃん、飲む前に」

 祐介がベッドの上で正座をした。何となく自分もしないといけないかと思い、リアムも向き合って正座をする。

「サツキちゃんの身体は、多分お酒は弱いから気を付けて」
「何と!」
「前にその、酔っ払って絡まれて正直面倒くさ……いやちょっと大変だった時が一度あって、ははは」
「何だ、サツキとは酒を酌み交わす仲だったのではないか」
「いや、そういうんじゃなくて、職場の飲み会でね。二人きりとか、決してそんな事実はありませんから!」

 キリ! と祐介が断言した。サツキの身体に入っているリアムに必死に弁明する意味がよく分からなかったが、ビールの泡が減ってきている。早く飲みたいので流すことにした。

「でもまあ私は強かったからな、きっと平気ではないか」
「信用出来ない」

 即答された。

「いいから乾杯だ! ほら泡が減ってきているではないか!」
「あーはいはい、飲みたいのね。乾杯」
「乾杯!」

 リアムがビールを少量口に含み、舌で味わう。辛味と苦味があってなかなか旨い。ゴクリ、と喉が音を鳴らす。もうひと口、今度は少し多めだ。嚥下し、口の端に付いた泡を指の腹で拭った。旨い。

 祐介と目が合った。

「何だ」
「いえ、何でもないです」
「はっきりしない奴はもてないぞ」
「別にもてなくていいです。ひとりに好かれればいいもんね」
「まあ一理あるな」
「でしょ?」
「うむ。さ、映画だ映画」
「今流したよね……はいはい」

 祐介がグラスをリアムに預けると、DVDをセットする。ベッドに戻ってくると、リアムの足の上に毛布を掛けた。

「何だ? 寝ないから大丈夫だぞ」
「違うよ。目に毒なの」

 つい癖で胡座をかいていたことに気付いた。そして今日は短パンだ。暑かったのだ、仕方なかろう。

 祐介はグラスを受け取ると、再生ボタンを押した。何だか楽しそうな音楽が流れ始める。

「サツキちゃん、これも作り物のお話だけど、時代設定は少し前の日本だから参考になるかも」
「うむ。分かった。しかし祐介、今日は部屋を暗くしないのか?」

 今日は部屋の電気は点いたままだ。すると、祐介がリアムの耳元で囁く様に言った。

「また抱きついて寝てもいいならだけど」
「お……理解した。点けたままでいこう」
「うん」

 リアムは画面に集中した。時折触れる肩から、なるべく意識を逸しながら。
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