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第一章 初級編開始

第97話 魔術師リアム、初級編二日目の夕餉へ

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 潮崎が続ける。影が薄い割にはよく喋る男だ。

「何か最近あの人荒れてるよねー。明後日さ、会社が始まったら社長に言おうかと思ってたんだけど、山岸くんから言う?」
「えー、僕羽田さん苦手だから怖いですよー。潮崎さんが上にあげてくれるなら、すごく助かります」

 羽田が朝、酔っ払った勢いでサツキの家の玄関をガンガン叩いて大騒ぎした後、祐介の家の玄関には騒いだ上に蹴りまで入れた件だ。あれは酷かった。さすがに、その異常性に背筋が凍るのを止められなかった。

 思い出し、思わずぶるっと身体が震えた。

「寒くなっちゃった? スーパーは冷えるもんね。――あ、じゃあ潮崎さん、すみませんが宜しくお願いします」
「うん、僕も結構あれは怒ったから、任せてー。しっかし二人がねえ。何か初々しくていいね」

 潮崎が、薄っぺらい身体で親指をぐっと付き立てウインクをして見せた。見た目は全く違うが、同じパーティーにいた底抜けに明るい黒髪の男を思い出した。あいつも元気にやっているのだろうか。よく人の話を聞いても口をポカンと開けていたが。

 リアムは以前祐介がやった会釈を参考に、小さくぺこりと挨拶をしてみた。潮崎が人の良さそうな笑顔で手を振る。

「祐介」
「ん?」

 もう献立は決まったらしく、祐介は材料をぱっぱとカゴに納めていく。固そうな長い棒がいっぱい入った袋と、豆の絵が書いてある小さな箱が三つだ。それが納豆、と読むのは分かった。だが納豆が何だかが分からない。

「職場にも、いい人はいるのだな」
「あー、潮崎さん? うん、あの人はいい人かな。人畜無害というか。でも実は結構はっきり物を言うし、しっかりした人だよ。サツキちゃんにも普通に接してたし。何か、サツキちゃんと歳の近い娘さんがいるとか」

 やはり印象通りのいい人の様だった。

「ではご家族であの狭い家に暮らしているのか?」
「あーいや、潮崎さんは一人。今は独身」
「あ……離縁されたのだな」
「うん、そういうこと」

 恐らくその娘とやらは母親が引き取ったのだろう。リアムの世界でも、得てしてそうだった。やはり子供は母親といるのがいいものなのだろうか。その両方共に一緒にいることが叶わなかったリアムには、判断出来なかった。

 リアムは、無理に笑顔を作った。

「だが、別れたとは言え伴侶が出来子供までもうけられたのだ。私には縁のない話だからな、それだけでも羨ましいぞ」

 すると、リアムの手を握る祐介の手に力が籠もった。

「祐介、ちょっと痛い」
「……うん」
「祐介? どうした? 腹でも痛いのか?」

 リアムが尋ねると、祐介がふわりと笑った。

「ううん、大丈夫。さ、DVD借りなくちゃね」
「? そうだな、サツキが出てくるのだろう?」
「うん。あ、そうだ。ちょっとお酒飲んでもいい?」
「私も飲みたいぞ!」
「じゃあサツキちゃんにも一本ね」
「酒など久しぶりだ!」

 リアムがはしゃいでいると。

「でもなあ……」

 ちらり、とリアムを見て、祐介が不安そうな顔をした。
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