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第一章 初級編開始

第75話 魔術師リアム、大分困る

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 ピピピ、と機械的な音が鳴り響き、リアムは目を覚ました。

 これはあれだ、昨日祐介が説明してくれた目覚まし時計という代物の音だろう。ということは、もう朝が来たのだ。

 目を開けなくても分かった。祐介は余程疲れていたのだろう、ほぼ身動きもすることなく、ずっとリアムに抱きついたまま寝たのだ。胸の上が未だずっしりと重い上に、何だか生温かい。汗だろうか? いやこれは……。

「祐介、お前、この私に涎を垂らしてはいないか?」
「……くー」

 まだ寝ている。目覚まし時計は鳴り響いているままだというのに、まだむにゃむにゃ言っている。

「祐介!」

 リアムは耳元で大きな声で祐介を呼んだ。

「わっ!」

 がばっと祐介が顔を上げ、すぐ近くにあるリアムの顔を見て、驚いた顔になった。

「え? え? どういうこと?」
「とりあえず目覚まし時計を止めてくれ」
「あ、はい!」

 祐介が目覚まし時計をポン、と叩いて止めた。やれやれである。リアムは自分が着ているパジャマの胸の部分がやはりぐっしょり濡れているのを確認した。色が変わっている。

「やはり涎……」
「え? 朝? あれ? 映画は?」

 祐介の口元には涎の跡と、リアムのパジャマのボタンの跡がくっきりとついていた。涎を垂らされていい気分ではなかったが、その子供の様な姿につい笑ってしまう。

「祐介、ボタンの跡がついているぞ」
「え? どこ?」
「ほら、ここに」

 リアムは祐介の頬に指を触れた。

「全く。昨日は私の胸の上で寝てしまうわ、抱きついて離さないわで大変だったのだぞ」
「僕が? 抱きついたの? え? じゃあサツキちゃんここで寝たの?」
「どう見てもそうにしか見えないだろう?」
「うわあ……ごめん、重かったでしょ」

 リアムが祐介を軽く睨みつつ笑う。

「本当だ。人間の頭がここまで重いとは知らなかったぞ。これでは今日は肩こり決定だ」
「肩、しっかりとほぐさせていただきます」
「お、それはいい提案だな。と、言いたいところだが」

 リアムは祐介の頬の跡をそっと撫でる。

「こんなに跡がついてしまうほど深く寝ていたのだ。昨日は余程疲れたのだろう? 寝返りもほぼ打たず、死んだ様に寝ていたぞ」

 祐介が、リアムの手を上からそっと押さえた。

「大分無理をさせてしまっていたのだな、済まなかった」

 祐介は何も言わない。ただ惚けた様にリアムを見つめていた。

「祐介? まだ寝惚けているのか?」

 リアムが笑顔を見せても、祐介は笑わない。代わりに、顔が近付いてくる。

「わっゆっ祐介っ」

 何だか拙い気がして下がろうとし、後ろがなかったことに気付いた。

「うわっ」
「あぶなっ」

 祐介がリアムの背中を支える。益々近くなってしまった。これは拙い、何か拙いぞ!

 リアムが蛇に睨まれた蛙の様に固まっていると。

 ドンドンドンドン!! と激しく扉を叩く音が響いた。
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