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序章 転移
第52話 OLサツキ、方針について定める
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あまりにも情けない理由で凹んでいるパーティーメンバーに、ウルスラが喝を入れる。
「メソメソしてんじゃないわよ! くっだらない! 事実なんだから仕方ないでしょうが!」
「うおお! 優しさのカケラ一つ感じられない言葉!」
ユラが心臓の上を押さえた。アールに至っては、膝をついて項垂れたままピクリともしない。さすがに心配になり、サツキも膝を付いて顔を覗き込んだ。
「アール? 大丈夫? 元気出してよ」
面倒くさいから、とは口が裂けても言えない。サツキは口には出せないだけだが、男性には基本厳しい。サツキのこれまでの生き辛さがほぼ男性の態度に由来するものだからかもしれなかった。
のそ、と顔を上げたアールの目には生気がない。
「ほら、またダンジョン潜ってさ、今度こそ活躍すればいいじゃない!」
パーティーの人数が多ければ多い程、サツキとウルスラがモンスターと戦う率は減る。またドラゴンに焼かれるなど真っ平御免だった。
「うう……リアムは優しいなあ」
「あは、ははは」
「サツキ、甘やかすとすぐつけあがるわよ」
ウルスラは容赦ない。山岸祐介の姿で言うものだから、余計だ。
「てことで、サツキはこれから呪文を覚えていくのよ」
「てことでってどういうことだよ」
ユラが首を傾げる。もう涙は消えていた。馬鹿だけに立ち直りは早いらしい。
「もーちょい詳しく説明してくれないとさ、俺らほら、馬鹿だし」
アールが言うと、ユラも頷いた。そこは頷くのか。
ウルスラはチラリと壁にかかった時計を見る。有り難いことに時間の概念は一緒、数字も同じ十進法だ。
「馬鹿なことやってる間に、もうすぐイルミナの魔法が解けるから、一旦服を交換してくるわ」
山岸祐介なウルスラがサツキを奥へと誘う。
「え、お互いの服を着てきた訳?」
ユラが目を細める。男女服交換つまり裸、と呟く声が聞こえた。
「なんかウルスラ達だけ狡くない?」
アールが阿呆っぽい顔で意見を述べた。ウルスラがち、と舌打ちをする。
「サツキ、あいつらにフリーズって呪文かけて。解除はフリーズ・フィンね」
アールとユラが驚いた表情で抗議しようと一歩踏み出してきたので、サツキは一切の躊躇いもなく呪文を唱えた。ウルスラの言うことに間違いはない。
「フリーズ!」
杖の先端から放たれたグレーの光が瞬時に二人を覆うと、固まった。目だけが動いていて気持ち悪い。
「着替えが終わったら説明をする。その後は次に潜るダンジョンの選定。分かったわね」
ウルスラが冷たく言い放つと、二人は目だけで肯定の意を示した。
「いきましょ、サツキ」
「……うん!」
やはりウルスラは頼りになる。サツキは笑顔になると、山岸祐介なウルスラの腕を取った。
「メソメソしてんじゃないわよ! くっだらない! 事実なんだから仕方ないでしょうが!」
「うおお! 優しさのカケラ一つ感じられない言葉!」
ユラが心臓の上を押さえた。アールに至っては、膝をついて項垂れたままピクリともしない。さすがに心配になり、サツキも膝を付いて顔を覗き込んだ。
「アール? 大丈夫? 元気出してよ」
面倒くさいから、とは口が裂けても言えない。サツキは口には出せないだけだが、男性には基本厳しい。サツキのこれまでの生き辛さがほぼ男性の態度に由来するものだからかもしれなかった。
のそ、と顔を上げたアールの目には生気がない。
「ほら、またダンジョン潜ってさ、今度こそ活躍すればいいじゃない!」
パーティーの人数が多ければ多い程、サツキとウルスラがモンスターと戦う率は減る。またドラゴンに焼かれるなど真っ平御免だった。
「うう……リアムは優しいなあ」
「あは、ははは」
「サツキ、甘やかすとすぐつけあがるわよ」
ウルスラは容赦ない。山岸祐介の姿で言うものだから、余計だ。
「てことで、サツキはこれから呪文を覚えていくのよ」
「てことでってどういうことだよ」
ユラが首を傾げる。もう涙は消えていた。馬鹿だけに立ち直りは早いらしい。
「もーちょい詳しく説明してくれないとさ、俺らほら、馬鹿だし」
アールが言うと、ユラも頷いた。そこは頷くのか。
ウルスラはチラリと壁にかかった時計を見る。有り難いことに時間の概念は一緒、数字も同じ十進法だ。
「馬鹿なことやってる間に、もうすぐイルミナの魔法が解けるから、一旦服を交換してくるわ」
山岸祐介なウルスラがサツキを奥へと誘う。
「え、お互いの服を着てきた訳?」
ユラが目を細める。男女服交換つまり裸、と呟く声が聞こえた。
「なんかウルスラ達だけ狡くない?」
アールが阿呆っぽい顔で意見を述べた。ウルスラがち、と舌打ちをする。
「サツキ、あいつらにフリーズって呪文かけて。解除はフリーズ・フィンね」
アールとユラが驚いた表情で抗議しようと一歩踏み出してきたので、サツキは一切の躊躇いもなく呪文を唱えた。ウルスラの言うことに間違いはない。
「フリーズ!」
杖の先端から放たれたグレーの光が瞬時に二人を覆うと、固まった。目だけが動いていて気持ち悪い。
「着替えが終わったら説明をする。その後は次に潜るダンジョンの選定。分かったわね」
ウルスラが冷たく言い放つと、二人は目だけで肯定の意を示した。
「いきましょ、サツキ」
「……うん!」
やはりウルスラは頼りになる。サツキは笑顔になると、山岸祐介なウルスラの腕を取った。
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