上 下
50 / 731
序章 転移

第49話 魔術師リアムが知る事実

しおりを挟む
 お茶は煎茶という種類の緑色のなかなかに派手な色のお茶だった。グリーンスライムのお湯割りを思い出す。仄かに香る葉のツンとした香りが、酒を割るのに丁度よく好んで飲んでいた。

「煎茶は、お湯を少し冷ましてから入れるんだよ」
「ほお」

 ズズ、と二人で湯呑みの茶を啜る。熱いが渋みが旨い。さっぱりとしていて、先程祐介にもらったお茶とはまた別の風味でよかった。

「私はこちらの方が好みだな」
「甘いのは苦手?」
「正直、あまり好まない」
「実は俺も」

 ふふ、と祐介が笑う。二人並んで床に座り、ベッドに背中を預け茶を啜りながら微笑み合う。穏やかな光景である。

「っと違うぞ、話がまだではないか!」
「気付かれたか」
「祐介!」

 リアムが怒ると、祐介が渋々、といった雰囲気で話し始めた。

「あー、さっきの人さ、羽田さんていう営業職の人なんだけどさ」
「営業職とは?」
「物を売りに行く人」
「分かった。で?」
「……社長の、あ、社長って会社っていう職場の一番偉い人ね。その人の知り合いだかで会社に入ってきた人で、その所為なのか知らないけど、見た通り偉そうにする訳」
「うむ、そういった人間はどこにでもいる。相手をしないのが一番だろう」

 リアムが意見を述べる。祐介は不貞腐れ顔だ。

「僕もそう思うんだけど、ここ最近やけにサツキちゃんに絡む様になってきてさ」
「なんと! サツキの恋人候補か? なんと趣味の悪い」
「違います―。サツキちゃん、嫌がってたよ」

 リアムはホッとした。あの弛んだ体型を好む女子おなごの身体に入っていると思うだけで虫唾が走りそうだったからだ。

「それで? サツキはどうしてたのだ?」
「それがさ、サツキちゃんは強く言ってくる人に強く出られないタイプの子だから、どう聞いてもセクハラ発言なのにヘラヘラと笑うだけでさ」
「セクハラとは何だ」
「えーと、女性が嫌がる性的な言葉を言ったり身体に触ったりすること」
「……あれがこの身体に触れたのか……」
「あー、触ったのは肩とかだけど、最近やけに話す時も距離近いし、サツキちゃんが遅くまで残るとわざとらしく残ってたりしてさ」
「成程。では昨日もサツキが帰るまでいたのか」
「そう。だから僕も……あっ」
「あ?」

 祐介が頬を赤らめた。どうした、祐介よ。

「言え」
「容赦ないよね……」

 コホン、と咳払いをして、祐介は続けた。

「さすがに放っておけなくて、僕も残ってました」
「祐介、お前はいい奴なのだな」
「今更? ここまでしてあげてるのに?」
「続きを言え」
「……全くもう……。家隣だし、同時に同じ方面に帰ってもおかしくないだろうし、最近羽田さんが居る時はそうしてたんだけど、さっきの話だと、奴は今日サツキちゃんちに来た。ドアを覗いてみたら、付いてきて彷徨いてた。多分、同じ部屋に入るか確認したんだと思う」

 それは何ともゾッとする話だ。

「ただのセクハラ親父が、ストーカー化してきてるっぽい。正直やばいと思う」
「すとーかー?」

 リアムは首を傾げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

処理中です...