上 下
37 / 731
序章 転移

第36話 OLサツキ、努力する

しおりを挟む
 ウルスラに手首を掴まれ、サツキは転げ落ちそうになりながら階段を降りて地下に辿り着いた。

 水場と言っていたが、地下に何があるのか。

 ウルスラは腰にぶら下げていた剣をスラリと抜き、右手で構えた。さすがは見習い勇者、様になっている。

 そういえば、ウルスラスーパーカットだとか何とかくそダサい名前の技でドラゴンを倒した時に、誰かが覚醒しただの何だの言っていたのは何だったんだろう。

 後で聞いてみよう。サツキは頷くと、杖を構えた。

 そして気が付いた。攻撃魔法など一切知らないことに。

「扉を開けたらフレイマでやっつけて!」
「ウルスラ! フレイマって何!」
「炎の魔法よ! 単体じゃなくて範囲に炎をぶつける呪文!」
「そ、それをそのトカゲにぶつければいいの?」

 ウルスラは真剣な顔で頷いた。萌黄色の瞳が爛々と輝いている。戦いが心底好きなのだろう。

「奴らは大抵群れてる。向こうに攻撃される前に焼き切っちゃいましょ!」
「こっ攻撃されるの!?」

 ウルスラがサツキを振り返った。

「奴らの吐く唾には、絶対触れちゃだめ」
「つ、唾?」

 何だろう、溶けたりとか毒があったりとかなのだろうか。どうしよう、ここには回復役のユラもいない。怪我をしたら大変だ。

「えらく、くっさいのよ」
「へ?」

 サツキが聞き返した。何だって?

 ウルスラがもう一度言った。

「臭いの。付いて即座にお湯で流せばまあまあ落ちるんだけど、服に付いたら最後、もう燃やすか埋めるしかないわ」

 どれだけ臭いのだろうか。サツキの頬が引き攣り、思わず足が一歩後ろに下がった。

 すると、ウルスラがサツキの腕をがっちりと掴む。

「逃げない」
「……はい」

 有無を言わせない迫力があった。

「杖を構える」
「はい、ウルスラさん!」

 言う通りに構えた。

「三、二、一で行くわよ」
「はい!」
「三、二、……一!」

 ドアを開けた瞬間、外開きな所為でウルスラは後ろに下がった。

「ちょっとおおおおっ!」
「唱える!」

 中は暗くて見えない。すると、ギラリと光る複数の明らかに爬虫類の物と思われる目に外の光が反射した。

「ぎゃああああああっっふっフレイマ!」

 杖を必死で振ると、発生した炎が広範囲に広がった。キュイイイ! と甲高い声が室内に響く。

 フレイマの炎に照らされ、中にいる物の姿がサツキの目にもはっきりと見える。

 でかい。物凄くでかい大トカゲが炎に焼かれ苦しむ姿が目に入った。

「コモドドラゴン!!」
「ちがーう! ほら足りない!」
「ウルスラはドア開けただけじゃないっフレイマ! フレイマ!」

部屋が炎で真っ赤に染まる。

 最後の足掻きか、足元にヨロヨロと寄ってきた、トカゲというよりもワニサイズのそれが、ぺっと唾をサツキに向かって吐き、力尽きる。

「あ!」

 ウルスラが叫ぶが、サツキの反応は遅れてしまった。

 途端、漂う悪臭。何だろう、腐った色んな種類の食べ物に酸味をスパイスに混ぜた様なこの臭い。

「無理……!」

 へなへなと座り込むと、サツキは意識を手放した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

処理中です...