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序章 転移
第31話 魔術師リアム、凹む
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顔だけが本来のリアムの姿を纏ったイルミナの魔法は、有り難いことに十分ほどで解けた。
祐介の歪んだ顔を見るのも不快だった為、解除されるまでは風呂釜の縁に座り込み、ひたすら考察をしていた。サツキの魔力量についてである。魔術師たるもの、常に冷静に物事を判断出来ねばならない。いくら魔力量が激減してしまったからといって、ただ嘆くだけでは初心者と同じだ。
昨日、初級魔法であるリバーシ、つまり『元にあった場所に戻す』呪文は五回唱えることが出来た。一回では完全に片付けることが出来なかったことを考えると、一度に注入出来る魔力量が少ないのだろう。それでも五回は反応したので、初級魔法なら使えることが分かった。五回使用し使い果たしてしまったが。
先程のイルミナは、中級魔法。思い浮かべた物を具現化するという少し技術が必要な呪文な為、使用する魔力量が多いのだろう。フルールやフルールアレの様に場所を指定するものの使用は危険だということがこれで分かった。頭だけが転移するなど、冗談ではない。
そして、今日はもう使えまい。身体の中から魔力が尽きたのが分かった。
つまり、サツキは魔法が殆ど使えないということだ。これまで魔術師として名を馳せてきたリアムにとって、これはなかなかに辛い事実だった。
自然、表情が暗くなる。
「祐介……」
「ど、どうしたのサツキちゃん。あ、元に戻ったね」
祐介の顔に浮かんだのは、ホッとしたような表情。顔がリアムで身体が女のままの姿を見せられたのだ、いきなり目の前に顔だけが人間の女のレディスパイダーが現れた様なものだっただろう。悪いことをした。
「私は、私は……この先魔法も使えずどうなっていくのだろうか」
がっくりと頭を落とす。リアムから魔法を奪ったら、後はイケメンという矜持しかない。そのイケメンも今さっき奪われたばかりだ。
ぽろり、と涙が溢れた。いっそのこと、ドラゴンに焼かれたまま死を迎えた方がよかったのではないか、そう思えた。これほどの屈辱がこれまであっただろうか。
は、と祐介が息を呑む音が聞こえた。そして、躊躇いがちに伸ばされる手。それがリアムの頭をそっと撫でた。
「サツキちゃんは、凄いよ」
「……気休めはいらん」
「いや、本当だって。だって僕、さっきまで魔法なんて嘘だって思ってたのに、サツキちゃんを見て一瞬で信じられるようになった」
「祐介……」
涙が止まらないまま祐介を見上げると、微笑む祐介と目が合った。
「大丈夫、僕がついてるから」
「うっ……祐介、ふつつか者だが宜しく頼む……!」
「……くおおおっ」
「どうした?」
「何でもありません」
祐介は、リアムが泣き止むまでずっと頭を撫で続けてくれていた。
祐介の歪んだ顔を見るのも不快だった為、解除されるまでは風呂釜の縁に座り込み、ひたすら考察をしていた。サツキの魔力量についてである。魔術師たるもの、常に冷静に物事を判断出来ねばならない。いくら魔力量が激減してしまったからといって、ただ嘆くだけでは初心者と同じだ。
昨日、初級魔法であるリバーシ、つまり『元にあった場所に戻す』呪文は五回唱えることが出来た。一回では完全に片付けることが出来なかったことを考えると、一度に注入出来る魔力量が少ないのだろう。それでも五回は反応したので、初級魔法なら使えることが分かった。五回使用し使い果たしてしまったが。
先程のイルミナは、中級魔法。思い浮かべた物を具現化するという少し技術が必要な呪文な為、使用する魔力量が多いのだろう。フルールやフルールアレの様に場所を指定するものの使用は危険だということがこれで分かった。頭だけが転移するなど、冗談ではない。
そして、今日はもう使えまい。身体の中から魔力が尽きたのが分かった。
つまり、サツキは魔法が殆ど使えないということだ。これまで魔術師として名を馳せてきたリアムにとって、これはなかなかに辛い事実だった。
自然、表情が暗くなる。
「祐介……」
「ど、どうしたのサツキちゃん。あ、元に戻ったね」
祐介の顔に浮かんだのは、ホッとしたような表情。顔がリアムで身体が女のままの姿を見せられたのだ、いきなり目の前に顔だけが人間の女のレディスパイダーが現れた様なものだっただろう。悪いことをした。
「私は、私は……この先魔法も使えずどうなっていくのだろうか」
がっくりと頭を落とす。リアムから魔法を奪ったら、後はイケメンという矜持しかない。そのイケメンも今さっき奪われたばかりだ。
ぽろり、と涙が溢れた。いっそのこと、ドラゴンに焼かれたまま死を迎えた方がよかったのではないか、そう思えた。これほどの屈辱がこれまであっただろうか。
は、と祐介が息を呑む音が聞こえた。そして、躊躇いがちに伸ばされる手。それがリアムの頭をそっと撫でた。
「サツキちゃんは、凄いよ」
「……気休めはいらん」
「いや、本当だって。だって僕、さっきまで魔法なんて嘘だって思ってたのに、サツキちゃんを見て一瞬で信じられるようになった」
「祐介……」
涙が止まらないまま祐介を見上げると、微笑む祐介と目が合った。
「大丈夫、僕がついてるから」
「うっ……祐介、ふつつか者だが宜しく頼む……!」
「……くおおおっ」
「どうした?」
「何でもありません」
祐介は、リアムが泣き止むまでずっと頭を撫で続けてくれていた。
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