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冬磨編
31 長ぇあいさつ
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「いらっしゃいませ」
「……おじゃま……します」
靴を脱いで家に上がった天音のうなじに、いつものようにキスを落とす。今でも抱いてるときの震えは続いているが、尋常じゃない震えは治まったように思う。でも、このうなじのキスは相変わらず可愛く震えて吐息を漏らす。本当に愛おしい……。
俺はうなじに唇をつけたまま静かに言葉にした。
「この家に呼ぶのは天音だけだよ」
「え……っ」
「言ってんじゃん。天音は特別だって」
「ほ……ほかのセフレは……?」
やっぱり気になるんだ、他のセフレ。
嬉しくなって、うなじにジュッと吸い付いた。
「……んっ」
他のセフレなんてもういないよ、お前だけだよ。なんて、言いたいけど怖くて言えない。
「ほか? んー、適当で」
せっかく家まで来てくれるようになったんだ。もっと俺に気を許してくれるまで、もっと俺に興味を持ってくれるまで、もう切られないと思えるようになるまで……絶対に言えない。
うなじに何個もキスマを付けてから、やっと天音を離してやることができた。俺の家に天音がいる。嬉しすぎて高揚感が半端ない。
「天音、ポトフ食うか?」
「え……」
「昨日作りすぎたんだよ。なんか食って帰るかって言おうと思ったけど、ポトフあったの思い出してさ。まっすぐ帰ってきた」
天音の頭をくしゃっと撫で、背中を押しながら部屋に入っていく。
天音のために作った、なんて言ったらどんな反応したかな。ちょっと見てみたかったかも。
「天音ポトフ好きか?」
「うん、好き。食べる」
予想外に素直な返事が返ってきた。かわい……。
「お、よかった。つってもポトフしかねぇけどな。パンとご飯どっちがいい? ご飯はレンチンのな」
「じゃあパンで」
「おっけー」
二人で順番に洗面所で手を洗って俺はキッチンへ向かう。いつもと違う会話に違う行動。何もかもが幸せで口元がニヤけた。
冷凍庫から凍ったロールパンを取り出しレンジにかける。
冷蔵庫からポトフの鍋を取り出したところで、天音に呼びかけられた。
「……冬磨」
「んー?」
「お線香、あげてもいい……?」
天音のその言葉に心が震えた。
今でも胸が痛くて避けてしまう仏壇。それでも俺にとっては特別で大切な存在。気にとめてくれる人は少ない。気づいても線香をあげてくれる人は数少ない。
天音がその数少ない一人であったことに、激しい喜びが心に湧き起こり目頭が熱くなった。
鍋をコンロに置いて天音の元に行った。
「じゃあ俺もあげるかな」
天音が本当に愛おしくて参る。
俺は天音の頭を撫でてから和室に入り、仏壇の前に座った。
「毎日あげてねぇんだ。思い出したとき、たまにでさ」
天音が隣に座って真っ直ぐに仏壇を見つめる。いつも何も語らない天音の瞳が、どこか悲しみを帯びているように見えた。
俺はマッチでロウソクに火を灯し線香を上げ、手を合わせた。
父さん母さん。この間話した天音だよ。俺さ、天音が好きだってやっと気づいたよ。俺の片想いなんだけどな? それでもすげぇ幸せなんだ。父さんたちもさ、天音が俺を好きになってくれるように一緒に祈ってくれよ。頼む。
こんな恥ずかしいこと親に言うの初めてだな、と心の中で苦笑した。
天音に場所をゆずると、天音がおずおずと口を開く。
「冬磨。俺……初めてだから、間違ってたら教えてくれる?」
「え、初めてなのか?」
「……うん」
仏壇に気づいて線香まで上げると言ってくれたから、仏壇が身近な存在なのかと思った。
まさか初めてだったなんて……ますます天音が愛おしい。
「そっか。ありがとな」
と頭を撫でてから、さすがに撫ですぎだなと気づく。文句も言わず撫でられてくれる天音がほんと可愛い。
「間違っても大丈夫。父さんも母さんも、あら可愛いって思うだけだから」
「……なんだよ、それ」
素っ気ない返事をしながらも、手順を教える俺を真剣な顔で見つめてくる天音が本当に可愛くて笑みが漏れる。
教える通りに線香を上げた天音は、手を合わせるとそのまま動かなくなった。
これはきっと形だけじゃない。ちゃんと話しかけてるんだ。身内じゃないのに……。
マジで可愛い。愛おしい。ほんとやばい。どんどん好きがあふれて、この気持ちは報われないとわかっていても幸せすぎた。天音を好きになれたことが幸せすぎた。
「……なんで笑ってんの?」
天音に言われて、笑ってる自分に気づいた。俺こんな幸せでいいのかな。
「ずいぶん長ぇなって思って」
「……だって、はじめてお会いするから……」
お会いって……言い方まで可愛いな。
「挨拶してた?」
「……うん」
「ふはっ、ほんと可愛い」
別に、って素っ気ない返事が返ってくるかと思えば、素直な『うん』という可愛い返事にたまらなくなった。
「そんな丁寧に線香あげてくれた奴はじめて。ありがとうな、天音」
気持ちが抑えきれなくて、天音の頭を撫でながら頬にキスをした。
驚いて固まる天音に笑いがこらえきれない。
お前と一緒にいるだけで俺はこんなに幸せだ。
ほんとありがとな、天音。
「……おじゃま……します」
靴を脱いで家に上がった天音のうなじに、いつものようにキスを落とす。今でも抱いてるときの震えは続いているが、尋常じゃない震えは治まったように思う。でも、このうなじのキスは相変わらず可愛く震えて吐息を漏らす。本当に愛おしい……。
俺はうなじに唇をつけたまま静かに言葉にした。
「この家に呼ぶのは天音だけだよ」
「え……っ」
「言ってんじゃん。天音は特別だって」
「ほ……ほかのセフレは……?」
やっぱり気になるんだ、他のセフレ。
嬉しくなって、うなじにジュッと吸い付いた。
「……んっ」
他のセフレなんてもういないよ、お前だけだよ。なんて、言いたいけど怖くて言えない。
「ほか? んー、適当で」
せっかく家まで来てくれるようになったんだ。もっと俺に気を許してくれるまで、もっと俺に興味を持ってくれるまで、もう切られないと思えるようになるまで……絶対に言えない。
うなじに何個もキスマを付けてから、やっと天音を離してやることができた。俺の家に天音がいる。嬉しすぎて高揚感が半端ない。
「天音、ポトフ食うか?」
「え……」
「昨日作りすぎたんだよ。なんか食って帰るかって言おうと思ったけど、ポトフあったの思い出してさ。まっすぐ帰ってきた」
天音の頭をくしゃっと撫で、背中を押しながら部屋に入っていく。
天音のために作った、なんて言ったらどんな反応したかな。ちょっと見てみたかったかも。
「天音ポトフ好きか?」
「うん、好き。食べる」
予想外に素直な返事が返ってきた。かわい……。
「お、よかった。つってもポトフしかねぇけどな。パンとご飯どっちがいい? ご飯はレンチンのな」
「じゃあパンで」
「おっけー」
二人で順番に洗面所で手を洗って俺はキッチンへ向かう。いつもと違う会話に違う行動。何もかもが幸せで口元がニヤけた。
冷凍庫から凍ったロールパンを取り出しレンジにかける。
冷蔵庫からポトフの鍋を取り出したところで、天音に呼びかけられた。
「……冬磨」
「んー?」
「お線香、あげてもいい……?」
天音のその言葉に心が震えた。
今でも胸が痛くて避けてしまう仏壇。それでも俺にとっては特別で大切な存在。気にとめてくれる人は少ない。気づいても線香をあげてくれる人は数少ない。
天音がその数少ない一人であったことに、激しい喜びが心に湧き起こり目頭が熱くなった。
鍋をコンロに置いて天音の元に行った。
「じゃあ俺もあげるかな」
天音が本当に愛おしくて参る。
俺は天音の頭を撫でてから和室に入り、仏壇の前に座った。
「毎日あげてねぇんだ。思い出したとき、たまにでさ」
天音が隣に座って真っ直ぐに仏壇を見つめる。いつも何も語らない天音の瞳が、どこか悲しみを帯びているように見えた。
俺はマッチでロウソクに火を灯し線香を上げ、手を合わせた。
父さん母さん。この間話した天音だよ。俺さ、天音が好きだってやっと気づいたよ。俺の片想いなんだけどな? それでもすげぇ幸せなんだ。父さんたちもさ、天音が俺を好きになってくれるように一緒に祈ってくれよ。頼む。
こんな恥ずかしいこと親に言うの初めてだな、と心の中で苦笑した。
天音に場所をゆずると、天音がおずおずと口を開く。
「冬磨。俺……初めてだから、間違ってたら教えてくれる?」
「え、初めてなのか?」
「……うん」
仏壇に気づいて線香まで上げると言ってくれたから、仏壇が身近な存在なのかと思った。
まさか初めてだったなんて……ますます天音が愛おしい。
「そっか。ありがとな」
と頭を撫でてから、さすがに撫ですぎだなと気づく。文句も言わず撫でられてくれる天音がほんと可愛い。
「間違っても大丈夫。父さんも母さんも、あら可愛いって思うだけだから」
「……なんだよ、それ」
素っ気ない返事をしながらも、手順を教える俺を真剣な顔で見つめてくる天音が本当に可愛くて笑みが漏れる。
教える通りに線香を上げた天音は、手を合わせるとそのまま動かなくなった。
これはきっと形だけじゃない。ちゃんと話しかけてるんだ。身内じゃないのに……。
マジで可愛い。愛おしい。ほんとやばい。どんどん好きがあふれて、この気持ちは報われないとわかっていても幸せすぎた。天音を好きになれたことが幸せすぎた。
「……なんで笑ってんの?」
天音に言われて、笑ってる自分に気づいた。俺こんな幸せでいいのかな。
「ずいぶん長ぇなって思って」
「……だって、はじめてお会いするから……」
お会いって……言い方まで可愛いな。
「挨拶してた?」
「……うん」
「ふはっ、ほんと可愛い」
別に、って素っ気ない返事が返ってくるかと思えば、素直な『うん』という可愛い返事にたまらなくなった。
「そんな丁寧に線香あげてくれた奴はじめて。ありがとうな、天音」
気持ちが抑えきれなくて、天音の頭を撫でながら頬にキスをした。
驚いて固まる天音に笑いがこらえきれない。
お前と一緒にいるだけで俺はこんなに幸せだ。
ほんとありがとな、天音。
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