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冬磨編

18 天音にふれるのは俺だけになりたい ※

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「天音。なんだこれ」

 せっかく金曜日に天音に会えた高揚感が一気に冷却されていく。
 天音のバスローブを脱がせると、左肩に淡くついた二つの赤い跡。二の腕にはもう少し濃い跡が二つ。
 虫刺されかもしれない。そう思いたくて撫でてみたが虫刺されのような凹凸はない。

「何って、キスマークだろ」

 天音が平然と言ってのける。
 だからなんだよ、とでも言いたげに。

「……気づいてたんだ。お前、いいの? こんなん付けられて」
「別に。どうでもいい」

 本当にどうでもいいんだろう。言い方も顔もウザそうだ。
 これをつけたセフレのことも、きっと天音は興味がない。それだけはホッとした。
 でも、セフレの方は? キスマを付けた意味は?
 今までは付けてこなかったのに急に付けた意味は?
 もしかして……新しいセフレか?
 天音は俺が強引に押し通すと簡単にセフレになった。たとえ興味のない相手でも、誘われればセフレになっても不思議じゃない。俺はギリッと奥歯を噛む。
 これを付けたセフレが新しかろうが古かろうが、そいつは天音に本気なんだろう。だから牽制した。
 じゃなきゃセフレにキスマなんて付けないだろ……。

「挑戦状か……」

 思わず口からこぼれた。

「なに? 挑戦状?」
「……なんでもねぇ」

 はらわたが煮えくり返る。
 天音に悟られないよう、爆発しそうな感情を必死で押し殺さないとダメなほど、いま俺の中は嫉妬でドロドロだった。
 天音に他のセフレがいることは分かりきっていたことなのに、今やっと本当に実感した。
 キスマが目に入ると、他の男に抱かれてる天音が見えてきて、激しい嫉妬で胸が焼け焦げそうだった。

「天音、キスマークの相手ってどんな奴?」
「……は? どんな奴って……なんでそんなこと聞くんだよ。冬磨に……関係ねぇだろ」
「……まぁ、関係ないよな」

 関係ない、という言葉が胸をえぐる。
 バスローブを脱いで天音に覆いかぶさり、首筋にジュッと吸い付いた。

「は……っぁ……」
「天音。俺も付けていいんだよな?」
「……んっ、……え?」
「どうでもいいなら、俺も付けていいんだろ? キスマーク」

 首筋に唇を付けたまま俺は言った。そうすると天音がビクビクと震えることを分かっててわざとそうした。
 トラウマの震えじゃなく、気持ちのいい震えは俺だけがいい。こんな可愛い天音の震え、他のセフレは知らないといい。

「好きにすれば」

 天音の素っ気ない返事を聞いた瞬間に、俺は目の前の首筋に本気で吸い付いた。
 一つじゃ足りないと、鮮やかに色付いたキスマの下にもう一つ付けた。
 ……だめだ。全然足りない。少しも安心できない。
 クソセフレが牽制で付けたキスマ全てに、俺はさらに濃いキスマで上書きしていく。
 天音は、俺が付けるキスマ一つ一つに吐息を漏らしてぶるっと震えた。
 もっと震えろよ天音。気持ちのいい震えをもっと見せて。
 他のセフレと比べ物にならないくらい、俺が極上にとろけるくらい気持ちよくさせたい。させてやる。させてやるから……。

 だから……俺を見てくれよ……天音。
 もう俺だけにしてくれよ……天音。

 なにが『本気になれない』だ。
 天音を誰にも取られたくない。誰にもふれさせたくない。天音にふれていいのは俺だけ…………いや、俺だけになりたい。

 こんなの……もう大好きだろ。
 俺はもう、とっくに天音に本気だったんだ。
 俺は……天音が好きなんだ。

 そう認めたら、全身が熱く燃え上がった。
 今まで以上に天音が愛おしくてたまらなくなった。
 天音……好きだ。好きだよ。
 俺は天音が大好きだ。
 言葉にして伝えたいのに伝えられない。
 天音に切られるのが怖くて、どうしたらいいのか分からない。
 ちゃんとセフレになりきらないと……。

「……ふん。勝ったな」

 キスマに嫉妬でドロドロの顔なんて絶対ダメだろ。見せるわけにはいかない。せめて、ただの負けず嫌いだとでも思わせないと。

「……勝ち負けなのかよ」
「勝ち負けだろ、こんなの」

 答えながら、そんなわけねぇだろ……と表情が歪みそうになるのを必死で抑えた。
 天音が誰にも興味がないから勝ち負けで済んでるだけだ。
 でも、そんな勝負は天音が誰かを好きになった時点で意味がない。天音の気持ちを手に入れることができた者が勝利する。
 クソセフレになんか……絶対に取られたくない。
 誰にも取られたくない。
 そのときふと、天音の口元がゆるんでることに気がついた。

「……なに笑ってんだよ」
「笑ってねぇよ」
「笑ってんじゃん。お前、こんなんで笑うんだ」

 ずっと天音を笑わせたいと思ってなかなか実現できなかった。
 わずかな微笑みとはいえ、久しぶりの天音の笑顔は俺の心をまた優しく溶かしていく。
 ほんと……ずっと笑ってろよ……天音。
 でも、いま天音を笑顔にさせたのは俺じゃない。悔しい気持ちと笑顔が見られた嬉しさとが混ざり、思わず苦笑が漏れた。

「クソセフレのおかげで天音の貴重な笑顔が見られるとか……複雑だな」

 無表情に戻った天音を見て、残念な気持ちよりも安堵が胸に広がった。
 天音の笑顔は俺だけが引き出したい。もうずっと俺だけのものにしたい。
 でも、そうは思っても、天音の久しぶりの笑顔は可愛いかった。
 さっきの笑顔を見て、以前の天音の笑顔までもが思い出されて身体が熱くなる。
 ほんと可愛いな、天音……。
 そして、それと同時にまた吹雪の子がチラついた。
 本当にもういいな。俺にはもう天音がいるから、君はもう出てこなくていいよ。脳内に居座る吹雪の子に、俺はそう伝えた。
 
 顔中にキスを落としてふるふる震える天音を堪能してから、俺はすぐに乳首を攻めた。

「……ぁ……っ、……ん……っ……」

 わずかに仰け反り控えめに上げる天音の声と、ぎゅっとしがみつく可愛い手。そして、脳裏に焼き付いて離れない天音の笑顔に、あっという間に下半身が張り詰める。

「天音の声ほんと好き。もっと聞かせろよ。もっと鳴いて」
「……んん……っ、ぁ……」

 このかすかに漏れる可愛い天音の声を聞くだけで全身がゾクゾクする。マジでイっちゃいそう。
 声だけでこんなに身体中が感じるなんて……いったいどんな魔法使ってんだよ、天音。

「……っとに可愛い。乳首と後ろ同時にいじるの、ほんと弱いよな。これ好きだろ?」

 すると、とろけた声で天音がささやいた。

「……ん……っ、すき…………と……ま……」

 心臓がドクンと跳ねた。愛撫が好きだと天音は言ってるだけなのに、まるで俺が好きだと言われたようで胸が張り裂けそうになった。
 ほんと……マジで勘弁しろよ……。まぎらわしい言い方すんじゃねぇっつーの。
 脳内で、笑顔の天音が『すき…………と……ま……』と繰り返す。
 ほんと俺、マジでイタすぎる……。
 
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