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17 絶対に泣かない
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こんなに突然、終わりが来るなんて考えもしなかった。
切ればいいなんて言わなきゃよかった……。
でも、絶対に執着しない。興味もなさそうに振る舞わなきゃ。
なにか言わなきゃ。でも、頭が真っ白だ……。
俺は必死で台詞を考え、震える唇を開いた。
「……あっそ。じゃ、今日で終わりな」
身体を起こしながら、なんとか淡々と言葉にする。
俺はビッチ天音……ビッチ天音。ここは舞台。
舞台上で泣くわけにはいかない。
退場するまでは絶対に泣かない。
絶対に泣かない。
早くここを出よう。
早く泣けるところに行きたい……。
ベッドから降りると、まるで床がゆがんでるかのような錯覚におちいる。どうしよう……まっすぐ歩けないかもしれない……。
それでもなんとか足を踏み出すと、後ろから腕を引かれ、弾みでベッドに座り込んだ。
「あーもう…………嘘だって。……ほんとお前って、俺に執着しないんだな」
俺の腕を握ったまま、冬磨は俺の肩にトンと頭を預けてきた。
嘘……?
嘘……だったんだ……。
まだ、終わらないんだ。
まだ……終わらなかった……よかった。
絶望からの安堵で、身体が震え出す。
冬磨に変に思われる。どうしよう。
震えを止めようと、グッと拳を握った。
なにか答えなきゃ。ビッチ天音ならなんて言うだろう。ビッチ天音なら……。
「……なに嘘って。意味わかんねぇ……。お前面倒くせぇよ」
声……震えなかったかな。大丈夫かな。
涙が出そう……。でも、絶対だめだ……。
「悪かったって。天音は特別だって言ってんじゃん。切るわけないだろ」
「…………っ」
天音は特別、そう言われるのは二度目だ。
切るわけない、という言葉で一気に涙腺がゆるむ。
「だってさ。せっかく可愛い天音を見たくて前からしたのに、全然目開けてくんねぇから。……ちょっとすねただけ。ごめん」
本当に反省してるような声色で冬磨が謝る。
すねてたの……?
あんなに怖かったのに……すねてただけなの?
わかりづらいよ……冬磨。
「さすが天音だな……。全然すがって来ねぇんだもん。マジ焦った……。ほんと……お前が相手だと調子狂う……」
冬磨が後ろからふわっと俺を抱きしめた。
「天音を絶対に傷つけないって言ったのに……ごめん」
「……別に傷ついてねぇし、それはまた別の話だろ」
「……そっか」
冬磨の言う『傷つけない』は、絶対に傷つけるような抱き方はしない、そういう意味だ。
冬磨はこれ以上ないってほどにそれを守ってくれている。
「……んっ……」
首筋に冬磨の唇がふれて、張っていた気がふっとゆるんで涙がこぼれ落ちた。
あ……どうしよう……見られちゃうっ。
「天音、まだ時間いいだろ? もう一度ちゃんとやろ?」
「…………前は嫌だ」
「ん、今日はもう後ろでいいよ」
冬磨が『今日』を強調する。
まだ前からやるつもりなんだ……。どうしよう。
でも、いまはとりあえず涙をなんとかしなきゃ。
俺は冬磨に背中を向けたまま、押しのけるようにベッドに上がって急いでうつぶせ、さっと枕に顔をうずめた。
涙が隠れてホッとする。
「寝バック? 天音それ好きだよな」
「……うん、好き」
冬磨が……好き。
でも、寝バックも本当に好き。
だって、冬磨が後ろから抱きしめてくれるから。繋がりながら、いっぱいキスをしてくれるから。
たとえ唇のキスができなくても、最高に幸せだから。
冬磨が背中にゆっくりと覆いかぶさった。
「いい?」
「……うん」
さっきは不安や怖さが強すぎて、ただただ早く終わることしか考えられなかった。
でも、後ろから抱かれるのは安心感で心が開放される。
素直に冬磨を感じることができて本当に幸せだ。
冬磨がいつものように、手の甲から恋人繋ぎをしてくる。いつもは他のセフレにもやってるのかとモヤモヤするのに、いまは救われたような喜びに心が波打つ。
冬磨がいつも通り優しくて、また俺の涙腺は刺激された。
俺はいつまで冬磨の特別でいられるだろう。
いつまでも後ろばかりにこだわっていると、冬磨がまた苛立つかもしれない。
でも、目を見られたら気持ちがバレる。どうしたらいいのか全然わからない。
冬磨への気持ちを封印でもしない限り無理だとしか思えない。
そこで、ふと考えた。他にもセフレがいるという証拠をつくれば、目を見られても切られることはないかもしれない。
いまはセフレがいる証拠がなにもない。だから、目を見られると、すべてが嘘だったとバレる危険性がある。
でも、なにか証拠さえあれば、たとえ目を見て俺を疑ったとしても、最中の熱がこもってるだけだと思い直してらえるかもしれない。
そうだ、それだ。俺には他のセフレの影がなさすぎる。なにか考えよう。
終わったあと、冬磨は俺を優しく後ろ抱きにしながら息を整えた。いつも通りだ、とホッと胸を撫で下ろす。
さっきは本当に怖かった。すぐに冬磨の熱が離れていく恐怖を思い出して身震いしそうになる。
「なぁ天音。前からやってるときって声抑えてた?」
「……だから、最中のことは覚えてねぇって」
「んー……。天音の控えめな声すげぇ好きだけどさ。前からのときのはなんか違ったんだよな。あんまりそそられないっつうか……」
「だったら……もう前は無しでいいだろ」
「だめ。顔見てしたいって言ってんじゃん。イけなかったら諦める約束だけど、お前ちゃんとイけたしな」
うなじにちゅっとキスを落とされ、また声が漏れる。
「な、ちゃんと気持ちよかっただろ?」
「…………イけたんだから……よかったんじゃねぇの」
「ほんと素直じゃねぇな」
うなじにキスをしながら冬磨がクスクス笑う。
まだ前からやろうとしてる冬磨をどうしたらいいか、明日敦司に相談しよう……。
切ればいいなんて言わなきゃよかった……。
でも、絶対に執着しない。興味もなさそうに振る舞わなきゃ。
なにか言わなきゃ。でも、頭が真っ白だ……。
俺は必死で台詞を考え、震える唇を開いた。
「……あっそ。じゃ、今日で終わりな」
身体を起こしながら、なんとか淡々と言葉にする。
俺はビッチ天音……ビッチ天音。ここは舞台。
舞台上で泣くわけにはいかない。
退場するまでは絶対に泣かない。
絶対に泣かない。
早くここを出よう。
早く泣けるところに行きたい……。
ベッドから降りると、まるで床がゆがんでるかのような錯覚におちいる。どうしよう……まっすぐ歩けないかもしれない……。
それでもなんとか足を踏み出すと、後ろから腕を引かれ、弾みでベッドに座り込んだ。
「あーもう…………嘘だって。……ほんとお前って、俺に執着しないんだな」
俺の腕を握ったまま、冬磨は俺の肩にトンと頭を預けてきた。
嘘……?
嘘……だったんだ……。
まだ、終わらないんだ。
まだ……終わらなかった……よかった。
絶望からの安堵で、身体が震え出す。
冬磨に変に思われる。どうしよう。
震えを止めようと、グッと拳を握った。
なにか答えなきゃ。ビッチ天音ならなんて言うだろう。ビッチ天音なら……。
「……なに嘘って。意味わかんねぇ……。お前面倒くせぇよ」
声……震えなかったかな。大丈夫かな。
涙が出そう……。でも、絶対だめだ……。
「悪かったって。天音は特別だって言ってんじゃん。切るわけないだろ」
「…………っ」
天音は特別、そう言われるのは二度目だ。
切るわけない、という言葉で一気に涙腺がゆるむ。
「だってさ。せっかく可愛い天音を見たくて前からしたのに、全然目開けてくんねぇから。……ちょっとすねただけ。ごめん」
本当に反省してるような声色で冬磨が謝る。
すねてたの……?
あんなに怖かったのに……すねてただけなの?
わかりづらいよ……冬磨。
「さすが天音だな……。全然すがって来ねぇんだもん。マジ焦った……。ほんと……お前が相手だと調子狂う……」
冬磨が後ろからふわっと俺を抱きしめた。
「天音を絶対に傷つけないって言ったのに……ごめん」
「……別に傷ついてねぇし、それはまた別の話だろ」
「……そっか」
冬磨の言う『傷つけない』は、絶対に傷つけるような抱き方はしない、そういう意味だ。
冬磨はこれ以上ないってほどにそれを守ってくれている。
「……んっ……」
首筋に冬磨の唇がふれて、張っていた気がふっとゆるんで涙がこぼれ落ちた。
あ……どうしよう……見られちゃうっ。
「天音、まだ時間いいだろ? もう一度ちゃんとやろ?」
「…………前は嫌だ」
「ん、今日はもう後ろでいいよ」
冬磨が『今日』を強調する。
まだ前からやるつもりなんだ……。どうしよう。
でも、いまはとりあえず涙をなんとかしなきゃ。
俺は冬磨に背中を向けたまま、押しのけるようにベッドに上がって急いでうつぶせ、さっと枕に顔をうずめた。
涙が隠れてホッとする。
「寝バック? 天音それ好きだよな」
「……うん、好き」
冬磨が……好き。
でも、寝バックも本当に好き。
だって、冬磨が後ろから抱きしめてくれるから。繋がりながら、いっぱいキスをしてくれるから。
たとえ唇のキスができなくても、最高に幸せだから。
冬磨が背中にゆっくりと覆いかぶさった。
「いい?」
「……うん」
さっきは不安や怖さが強すぎて、ただただ早く終わることしか考えられなかった。
でも、後ろから抱かれるのは安心感で心が開放される。
素直に冬磨を感じることができて本当に幸せだ。
冬磨がいつものように、手の甲から恋人繋ぎをしてくる。いつもは他のセフレにもやってるのかとモヤモヤするのに、いまは救われたような喜びに心が波打つ。
冬磨がいつも通り優しくて、また俺の涙腺は刺激された。
俺はいつまで冬磨の特別でいられるだろう。
いつまでも後ろばかりにこだわっていると、冬磨がまた苛立つかもしれない。
でも、目を見られたら気持ちがバレる。どうしたらいいのか全然わからない。
冬磨への気持ちを封印でもしない限り無理だとしか思えない。
そこで、ふと考えた。他にもセフレがいるという証拠をつくれば、目を見られても切られることはないかもしれない。
いまはセフレがいる証拠がなにもない。だから、目を見られると、すべてが嘘だったとバレる危険性がある。
でも、なにか証拠さえあれば、たとえ目を見て俺を疑ったとしても、最中の熱がこもってるだけだと思い直してらえるかもしれない。
そうだ、それだ。俺には他のセフレの影がなさすぎる。なにか考えよう。
終わったあと、冬磨は俺を優しく後ろ抱きにしながら息を整えた。いつも通りだ、とホッと胸を撫で下ろす。
さっきは本当に怖かった。すぐに冬磨の熱が離れていく恐怖を思い出して身震いしそうになる。
「なぁ天音。前からやってるときって声抑えてた?」
「……だから、最中のことは覚えてねぇって」
「んー……。天音の控えめな声すげぇ好きだけどさ。前からのときのはなんか違ったんだよな。あんまりそそられないっつうか……」
「だったら……もう前は無しでいいだろ」
「だめ。顔見てしたいって言ってんじゃん。イけなかったら諦める約束だけど、お前ちゃんとイけたしな」
うなじにちゅっとキスを落とされ、また声が漏れる。
「な、ちゃんと気持ちよかっただろ?」
「…………イけたんだから……よかったんじゃねぇの」
「ほんと素直じゃねぇな」
うなじにキスをしながら冬磨がクスクス笑う。
まだ前からやろうとしてる冬磨をどうしたらいいか、明日敦司に相談しよう……。
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