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第Ⅴ章 ロボットの意思
浸蝕
しおりを挟むその日の孤児院は慌ただしかった。
孤児院の住人は一か所に集まって互いを慰めあった。
マキナは他のロボット同様、人間たちを守っている。
地震から、だけではなさそうだ。
地震が起こるより前、ロゼが孤児院を出て行った後のこと、寝室で寝込むデヴォートの元へ誰かが足を忍ばせた。
「おや、何か用ですかな?……ロッソさん?」
呼ばれた主はにっかり笑うと、こう切り出した。
「デヴォート神父。こちらには隠し部屋などございませんか? 例えば……地下室なんかは」
「……さあ、どうでしょうか。大きな孤児院ですからね。未使用の部屋は何か所かありますが、ね」
「そう言いますがね……」
ロッソは含みを持たせてデヴォートを問い詰めた。
「ここは、あのアマレティアが創立されたのでしょう?」
「おっしゃる通りです」
「ロボット創始者の彼女のことだ。何か仕掛けがあってもおかしくないでしょう」
「私には、何がなんだか……」
ロッソの笑顔が消えた。この男白を切るつもりだな、と思い、腰の剣に手を掛けた。
その時、後ろでガチャリと音がした。
「デヴォートさん?」戸を開けたマキナが中を窺った。
「マキナくん、来てはいけない!」
「はい?」
ロッソは入ってきたマキナに標的を移した。
「君は、ロボットだったね。丁度いい。ロボットのことはロボットに聞いたほうが早そうだ」
そう言っては人懐っこい笑みを浮かべ、女性ロボットのほうへにじり寄った。
「やあ、脅えることはないよ。ただ聞きたいことがあってね」
顎に手を当て片目を瞑った。
「――アマレティアの研究施設を探しているんだ」
「アマレティア様?」
彼女の反応に手ごたえを感じた。
「そうなんだ。君も創始者が行方知れずでは不便だろう?」
マキナはその問いに答えなかった。その代わりに
「アマレティア様をお探しでしょうか?」と言った。
ロッソは目を輝かせた。
「ああ、その通りだ。だが、そのための手がかりが欲しくてね。彼女の部屋があればと思ったんだが」
大げさに身振りをしてみせた。
「君、知らないかな?」
「マキナくん」デヴォートは首を横に振って知らせた。
「私に付いてきてください」
その答えにデヴォートは項垂れ、ロッソはより一層目を光らせた。
マキナは彼を、過去に自分が連れていかれた地下室へ案内した。
地下への入口の隠し扉の前で彼女はもう一度問うた。
「アマレティア様を見つけてくださるのですね?」
マキナが彼に協力したのは、アマレティアの居場所がわかれば、大切な主人が帰って来るのではないかと考えたからであった。
「ああ、善処しよう」
その答えを聞きマキナは、扉を開け進んだ。
ロッソもそれに続く。
暗がりの階段が続いている。
石畳をコツコツと響かせて下りて行く二人は、やがて地下の研究室へ降り立った。
「こちらがその――」
と、マキナが言い終わるのを待たずに、ロッソは
「おお! ここが! アマレティアの研究施設か!」
と興奮気味で物色し始めた。
電源の落ちた機材、何かの設計図等がそこらにあった。
彼は目の色を変えて、それらを手当たり次第に目を通した。
マキナは入口付近から動かず、室内をぐるりと見回した。
「ロッソさん、どうでしょうか?」
手がかりはありそうかと尋ねた。
相手はこちらを振り返らず短く返事をした後、
「ありがとう。君のお蔭で進展しそうだよ」
と言って、不気味な笑みを浮かべた。
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